第4話。プニプニ令嬢を舐めんな!!
朝食を終え、夫人と姉は食堂に残って明後日出掛ける話しで盛り上がっていた。
私はと言うと、先程ルイが言っていた庭師のジムの腰の容態が頭に残り、彼の下へと足を運ぶ。
「ジムは居るかしら?」中庭に離れた場所に、二階建ての建物が建っていて其処は使用人達が休憩スペースになっていた。
「セレスティア様。一体どうなさったのですか?わざわざこんな所までお越しするだなんて。何か急用でも?」庭師の一人がギョッとした表情で、私を見ていた。
まさか、使用人の憩いの休憩スペースまで、令嬢自ら来る事はそうそうなかったから。
彼にとって予期せぬ出来事なんだろう。それか、使用人の誰かが取り返しがつかない失態を冒し、令嬢自らクビを言いにやって来たとでも思っているのか彼の表情が強張る。
「そんな緊張をしないで下さいな?私はただジムの腰の容態を見に来ただけなんです」
「ジムのです…か?」
「はい。なので彼はいらっしゃいますか?」
「居ますっ只今呼んで参ります」彼はそう言って、慌てて建物の横にある倉庫室に向かいジムを呼びに行った。
暫くすると、倉庫の奥から腰を擦りながら、ジムを呼びに行った彼と一緒に出て来た。
(本当だ。ルイの言っていた通り可也腰がキツそうだわ)
「お嬢様…こんな所にまで一体。私が何かとんでもないミスを冒しましたでしょうか?」私の顔を見るなり、体をブルブルと振るわせ悲願する様な目で見て来るジムに(…ちょっと待って?なに?まるで悪役令嬢を見るかの様な眼差しはっ)少し悲しくなって来る。
一応これでも、私は使用人の人達には日頃から感謝をしていたつもりなんだけど…どうやら彼等は違ったみたいね。
それもその筈、私じゃなくとも「バレンタイン伯爵令嬢の怒りを買う事は伯爵の怒りを買っているのも同じ」と姉のアデレードは或る使用人に言っていた事があった。
それは本の些細なメイドの失態だった。 パーティーに着ていくドレスの柄が自分と思っていたのと違った。
ただ、それだけで一人のメイドを他の使用人達の前で曝け出しクビに追い遣ったから。
勿論私は止めた、止めたまでは良かった。
でも「セレスティア?ここで厳しい処罰をしなければならないのよ?一度甘い顔を見せれば漬け上がるからね?この人達は…良い事?分かるわよね?」ニッコリと微笑み私の両手を掴み言っていた、姉の顔を今でも脳裏に焼き付いている。
顔は笑っていても、目の奥が笑って居ない。その表情に一瞬背筋が凍った。
「違います!私、ジムに腰痛が有る事を知らなくて…だから無理をさせ悪化してしまったんじゃないかって!それで…あのっ私で良ければ「回復」魔法を使っても宜しいですか?」
「お、お嬢様の…っそんな勿体無い!こんな老いぼれなんかに貴重な「力」を使っては罰が当たります。それに湿布を貼っていれば直に良くなりますゆえ」突然の申し出に、ジムは違った意味でアタフタしながら困っていた。
でも、私は彼の大きくゴツゴツとした手を握り「何かなんて言わないで下さいまし、日頃から庭園の花々が立派で綺麗に咲き誇っているのは、貴方達庭師のお陰なんですもの。他に何も出来無い私ですが、これはその責めてもお礼です」
姉みたいに上手く笑顔を作れないけど…彼に私の誠意が伝わると良いなぁ。
ジムは薄っすらと目に涙を溜め「こんな私に気を遣って頂けるだけで十分でございます」と言って、倉庫の横にあるベンチへと腰を掛けた。
私も彼の隣に座り、意識を集中させ両手が光で包み込まれるとそのままジムの腰にあてた。
「おおっ!?なんと素晴らしいっまるで暖かく優しい力が体中に染み渡るみたいだ」
そう言ったジムの腰がみるみる血行が良くなって行くのも私も分かる(これで大丈夫ね。思った以上酷い状態じゃなくて良かったわ)
ホッと安心した私に、ジムもそれを見届けていた若い庭師も、何度も何度も私に頭を下げ、自分達の持ち場へと帰って行った。
「あ、だからと言って前みたいに無理はしないでね」そう言うと、手を振り私も自分の屋敷に戻る事にする。
なんだか…久しぶりに気持ちが良い。
母が亡くなる前は、私も偶にだけど街の人達の「回復・治癒」をボランティアでしていたっけ。
あの時の街の人達の笑顔が嬉しくて、忘れられなくて出掛けていたわ。
けど、私の力は父や姉みたいに「完璧」ではない。
「回復・治癒」の力を使うのにはそれの対価が必要なの。
「力」を上手くコントロールするには体内の「マナ」が必要になるわ。
「マナ」の力を上手くコントロール出来無い私は、その力が悪循環を生み代償に「食欲」が抑え切れなくなってしまう。
父や姉は上手くコントロールが出来るから、太る事や何かの後遺症が出ている訳じゃない。
だから、父も「不完全」な私より「完全」な姉の方が良いんだ。
「不完全」はバレンタイン家の恥だから。
「へぇ…本当に使えるんだ」私の後ろから聞こえるこの声っ!
「げ…っルイ…様。いらしたんですね」さっきまでの嬉しく思っていた感情が一気にテンションが下がる。
「なんだよ~…んなあからさまに嫌な顔すんなよ。流石に傷付いちゃうよ?俺」(知るかっっ!散々私に嫌味を言っていたのは何処の誰よ!)
「フン」と鼻を鳴らし、成る可くコイツとは関わり合いたくはけど、ジムの事も有るし兎に角お礼だけ言わなきゃ。
「…あの。その今朝はありがとう…ございます。お加減様で彼の体が大事にならなくて済みました」意を決して彼に頭を下げれば「…ふ~ん」彼はニヤッと笑っていた。
(だから嫌なのよ!!コイツに関わるのはっ)
カァッと自身の顔が赤くなって行くのが、分かった。
なんて言うのかまるで彼の手の上で転がされているみたいに。
「見てたから知ってたよ。うん凄いね良かったじゃんジムさんの容態が良くなって」 ニヤッと嫌な笑みから、クスッと優しい笑顔を見せた、彼に不覚にも胸が鳴ってしまった。
「あ、ありが「あれ?顔が赤いよ?まさかっ今ので俺にトキメイちゃった?」
「…はっ?」
「いやいや、駄目だよ?俺はお淑やかな女性がタイプなんだ」
「ちょ…っと待って?」
急に何を言い出しやがんだ?コイツッッッ! 私に一瞬でも見せた優しい表情とは、異なり人が隙を見せれば、直ぐにでも誂いたくなる性分なの?又もや悪戯を超えた表情に変り始めだした。
「誰がアンタなんかにっ」だから私も「令嬢」と言う立場を忘れてしまう。
「…良いねぇその表情。俺嫌いじゃないよ?寧ろ好きかも…ただ」
「ただ」と口にした瞬間、彼は私の手首をプニッと掴み、彼の近くにあった大きな大木へと私を押し付けた。
私の体格は、彼より一回り以上大きい。
なのにいとも簡単に、片手だけで私の身体全身を大木に押し付ける程の力が有るだなんて…一体、その身体にどれだけの「力」があんのよ?
ドンッと音を立てその衝撃で一瞬目を閉じ、再び目を開くと目の前には彼との距離が僅か数cmってまで近かった。
「ななななな!?」余りにも近かった為に言葉に噛んでしまう。
生まれて始めて男の人とこんなに、近く距離を感じた事がなかった私は、言葉が上手く出て来ない。
これが、姉ならきっと上手くかわしていたのだろうが。
彼に手首を捕まれ、思っていた以上に近くで見て同様を隠せなく只管真っ赤に熟し、トマトと化した私に彼は「ブッ」と笑い出した。
彼の表情からすれは私の反応を楽しんでいたのね!?
やはりコイツは「危険で厄介な奴」だと思い。
気がつけば彼の股間に一撃を食らわしていた自分がいる。
「◯▲◎✕っっっっ!!!」
私の一撃に絶えれず地面に崩れ落ちた彼に「…んなっななな舐めで頂きたいわ!誰もがアンタみたいな奴にトキメクとでも思ったら大間違いよ!!馬鹿じゃないの?」
私に蹴り上げられた股間を、押さえながら「…お前…っ絶対泣かす…っ」と言っている姿は情けないわよ。
ブァカッ! プニプニ令嬢を舐めんな!!
「フンッ」彼に中指を立て屋敷に戻ったのは言うまでもない。
ご安心下さいまし。私は義弟の恋愛事情なんざ全くもって興味がなくてよ? 蒼空。 @marblesan
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