第3話。可愛くない者同士(2)

 なんなの!?アイツは!?一体何を考えてんのよ!!マザコンかっつぅの!


 部屋に戻れば部屋のソファーに居座っていたクッションを手に掴み、ベットの方まで思いっきり投げ付けた。


 ハァハァ…ッ!!息を切らしベットの上で、私が投げ付けたクッションが無造作に転がっているのを見て「なにやってんだか」急に虚しくなってしまう。


 そりゃ、ツッコミどころは一杯あるわよ。 ダリア夫人との事や「再婚」の事や、これからどうすんのかとか…エドモンズ家は誰が引き継ぐのとか? 父は母の事を愛して居なかったのかとか。


「お父様は愛して居なかったのかしら」そう思ってしまうと胸の奥が苦しくてたまらなく痛い。


 母は最後まで父の帰りを待っていただろうに。 それと、あの生意気なルイッて奴はいけ好かないっ!? 確かに綺麗な顔立ちはしているけど…性格が何よりなっちゃいないわね! 私も大概な性格だけど、アイツよりはまだマシだと思っているわ。


 きっとこの屋敷の使用人達だって、彼の性格の悪さを知ればきっとクレームが出て来るに違いない! なのに翌日、中庭の方で何やら騒がしいく声がするから屋敷から出て足を運んでみると。


「な…なに事っ!?」 ワイワイガヤガヤと数人の使用人達に紛れ、泥だらけになっているルイの姿があった。


「あ、お嬢様おはようございます」


「アンッこれは一体どう言う事なの?一体」


「庭師のジムさんがお庭の手入れをしていたら、ルイ様が自らお手伝いをしたいって買って出てくれたんです。重い肥料なんかも全部運んで下さったんですよ」


 だからってこんなに使用人達が集まるのは、屋敷には料理人とは別に25人足らずの使用人が居る。


 この人数は他の屋敷の使用人に比べ多いか少ないかは知らない。


 けど! 少なくとも今、現、此処に居る使用人達はざっと数えても10人は居るんじゃない? その中心となって、アハハウフフと笑っているのがルイ本人だ。


 昨日の時点ではそんな笑顔を見せなかったのに。使用人達も楽しそうに笑っているわ。


「はぁ…全く」深い溜め息を一つ吐き、ワイワイと賑わう中、私は彼達に水を差す様にパンパンッと両手の手の平で乾いた音を立てた。


「サァッ貴方達!何やっているの?朝食の準備もままならないで!?早く準備をなさいな?父様や客人達を待たせてしまいますわ」


 私の掛け声に、さっきまで賑わっていたのが静まり返り「すみませんっ直ちに」慌ててルイの傍から離れてしまった。


「………。」私は走り去って行く使用人達の背を見届けた後。後に残されたルイの方をジロ…ッとジト目で見てしまう。


 そんな彼も「あー…あ」と口に出さなくとも表情を見れば分かるわ。


 きっと場をシラケさせてしまった私に対し、気に入らないって顔をしながら、しゃがみ込んでいた腰を起こし、お尻に付いた砂を払い落としていたんだから。


「…さて、お嬢様に言われたら退散しますかね?俺も泥で汚れた体をシャワーで落とさないと」 ジャリッと砂音を立て私の横を通り過ぎる前に、一言彼に釘を刺しておかなきゃ。


「…ルイ様。主の許可なく勝手に使用人を使うのはお止め下さい。それに庭のお手入れは庭師の仕事彼等の役割を奪う様な真似をしないで頂きたいですわ」 私の言葉に反応した彼は、ピクッと足を止め言って来た。


「使う?アンタさ。ここの屋敷の主なの?なら自分の使用人の体の事もちゃんと把握しといてやれよ。庭師のジムさん一ヶ月前から腰痛で悩んでいたみたいだぜ?そんな彼に重い肥料を運ばせんなよな。お・義・姉・サ・マ」


「なっ!?…えっ…待って」腰痛?そんな報告受けてないわ?それに使用人の体調管理は執事のエリックがー。


「…その顔だと何も知らなかった様子だな?まっ俺も直に聞いた訳じゃないし、話をしている時、偶に腰を擦る動作が気になって「腰痛が酷いなら代わりに運びます」っ言ってだけだよ。本人は否定していたけどね」


 そう言えば、以前ジムとすれ違う時腰をやたらと気にしていたわ。


  なのに、彼は1日で気が付いたと言うのね。それが本当なら私ー。


 ルイに指摘をされ当の屋敷の人間が、気が付かなかっただなんて。


「じゃお先に屋敷に戻らせて貰うよ」 そう言って彼はジャリッと再び砂音を立て、私の前から去って行った。


 綺麗に咲き誇る花々を指でなぞり、私は何も考えていなかった事に恥いていた。


 いつも綺麗な花々が咲いているのが、当たり前だなんていつから思っていたのかしら。


 こんなに見事な花々を咲かせ続ける事が、どれほど大変なんだと言う事を、すっかり忘れていた自分が恥ずかしい。


「1人の使用人の事も気に掛けてあげれ無くなるほど余裕がなかったんだわ」母が床に伏せる事が多くなってから、私は勉強の毎日で屋敷の事に目を向けれていなかった。


 なのに、昨日来たばかりの人が気付くのが早かっただなんて。 私が思っているほど、嫌な奴じゃないのかも知れない。だとしたら先みたいな失礼な言い方をした事を謝らなきゃ。


 朝食の時間になり、食堂に入れば父の姿が見当たらない。


 父以外は皆席に着いていると言うのに。 理由をエリックに聞くと「昨夜深夜に騎士団からの伝達の方が来られ旦那様は早朝に出発されました」急な仕事なら仕方がないにしても。


 父が留守の間、エドモンズ親子を一体どう接待したら良いのよ!


「やはり伯爵はお忙しい方なのね」 紅茶を一口飲みホゥッと溜め息を吐く夫人はやはり気の所為なんかじゃない!可愛い!本当にこんなデカイ息子が居る様には見えないわ。 


 朝食も終える頃、時折、昨夜の夕食の話題になった。


 エドモンズ伯爵が亡くなって以来のお酒を口にした話や、酔っ払ってやたらと私の腕や手を掴んで離さなかった事を、ダリア夫人は頬を染め恥じらいでいた。


「夫人は何も恥じらう事なんてございませんわ?妹は掴みやすい体系なんですもの?偶に私も二の腕を摘む事が有りましてよ」


 2人の前で良き姉を演じたいのか、コロコロと笑って夫人を庇うアデレード。


 いやいや…そもそもお姉様は私の体に触れる事自体していないじゃない? 今更触れられても困るけど…余程ダリア夫人に気に入られ様と必死なのね?


 姉の魂胆は見えている。夫人の息子ルイとお近づきになりたいのだろう。


  正に彼は、姉の好みのドストライクだ。 整った顔立ちと、何より綺麗なオレンジブラウンの髪に夫人の瞳よりも濃く蒼い瞳が優しいイケメンに見事演出している上に、その優しいイケメンからは想像も付かないくらいのイケボ。 今まで、姉の周りに居なかった美青年だわ。


 ましてや、偶に見せる笑顔を見てしまえば、女性は忽ち彼の虜になってしまうでしょう(まあ…私は無理だけど私は内面がイケメンじゃなかったらトキメかないもん) 私の横に座って居る姉から、鬱陶しいほど彼にハートを飛ばしている。


 そんな、姉のアピールを知ってか知らないでか、彼の目線は私を捉え私が何か仕出かすのではないかと言う、期待の眼差しで見て来るのには本当に勘弁して欲しい。


「旦那様…いえっバレンタイン伯爵からは私達親子が一週間滞在して欲しいと言われているの。無論、私達もエドモンズ家の事があるから逸れが限界なんだけど…もし良かったら街を案内して下らさないかしら?明後日は如何?」


 夫人の言葉に待ってましたと言わんばかりの姉がその役目を買って出た。


 それには、私自身助かる。今流行り廃りのファッションは何も知らない。


 ファッション系は、姉に任せた方が妥当だわ。


「あら?セレスティア嬢は参加なさらないのかしら?是非貴女にも一緒に来て欲しいわ」参加しない私に残念がってくれる夫人には申し訳ない無いのは、私自身も悪い気はしない。


 でも、私は自身の体系を分かっているもの。 姉や夫人みたいなスリムな人が行く様な店は知らない。


「あ…えっと。私その日は生憎予定が入っておりまして…ごめんなさい」 しどろもどろになった口調で、夫人の誘いを断ったら、ルイのスイッチが入ってしまった。


「ブハッ!母さん。相変わらず周りが見えていないんで驚くよ。アデレード嬢や母さんみたいなスリムな人が入る店にセレスティア嬢が行ったって虚しなるだけだろ?察してやれよ」 クスクス笑う彼に私はカッと顔が赤くなり腹が立つも…確かに彼の言う通りだ。


「そうかしら?私的には服だけじゃなくとも他のお店の食べ物が美味しいお所なんかはセレスティア嬢に教えて貰った方が良いと思ったんだけど」 寄りによって。


…食べ物関係ですか? 夫人の悪気ない顔を見れば分かる!分かるけどもっルイやまして姉のアデレードは私を馬鹿にし笑っているのが、ひしひしと感じた。


 キュッと唇を噛み締め、この場の雰囲気をなるべく壊さず、早々に立ち去った方が私的には良いかも知れない。


「美味しいお店なら姉より私に聞いて正確ですわ夫人!ですが、姉のアデレードも私に負けない位、美味しく素敵なスィーツ店を知っていますのよ。なので、今回は私抜きでお3人で行ってらして下さいな」


「あら…そう?とても残念だわ」 夫人の気遣う言葉に、ニコッと笑って私は早々に食堂から出る事にした。


 姉は、私抜きで出掛ける事にはしゃいではいたみたいだけど。


「私はこれから用事がございますので先に退室する事をお許し下さいませ」なんてのは嘘。予定は入ってない。


 だけど、これ以上此処にいたら惨めになる自分を感じたくはなかった。 食堂を出て、扉の前で大きく深呼吸をし「外の空気がこんなにも美味しいだなんて」ポツリ呟き私は庭師のジムの所に向かう。


 まさか、向かったジム場所にルイも後から来るだなんてっ! 最初から分かっていたら、彼と時間をづらすんだったわ。

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