第13話 テンゴク Paradizo



 家族かぞく友人ゆうじんも、みな天国てんごくってしまった。わし一人ひとりがこのに残されている。


 わしもはやく行かねばと思うが、自分でいのちつとそれがつみとなり、天国に入れてもらえないかもしれぬ。

 ゆえに、えたとらにこのを投げあたえ、ねがいをたそうと思う。


 しかし昨今さっこん、虎のほうが人間よりりている様子ようす山々やまやまたずね歩いても、なかなか飢えている者が見つからない。

 わしは家族たちに早くいたい一心いっしん山中さんちゅうをさまよった。そのあいだおおかみ死骸しがいでもへびがらでも天狗てんぐはなくさり落ちたものでも、なんであろうとべた。


 ようやくまあまあせた虎を見つけた。あらかじめ考えていたとおり、その前に体をげ出す。

 すると、くさいッ、と顔をそむけられた。

 げる虎を追いかけ、どうか食べてくれとさけぼうとするが、言葉ことばはっしかたを忘れていた。ただ、キーキーという音が口から出るのみだ。


 虎が逃げこんだテントにわしもむ。

 そこには大男おおおとこがおり、手下てしたらしい連中れんちゅうに手足をかせていたが、全員が、くさいッと顔をそむけた。

 大男は悪態あくたいをつきながら立ち、ぼうをつかむと、わしをさんざんたたいた。

 こやつは虎や大蛇や禿鷹はげたかってたびする集団のちょうであった。


 今、わしは奇妙きみょう山猿やまざるとしておりに入れられ、大男たちにしたがって旅をしている。

 長いこと山をうろついているうちに人の言葉のしゃべり方がすっかりわからなくなっており、自分はさるではなくひとなのだとあかしを立てられなかったのだ。

 依然いぜんとしてこの世に生きながら、いろんな街でさらものになっている。


 困ったことに、与えられるめしが口に合い、いつまでも死にそうにない。


 あの虎はとっくに寿命じゅみょうで死に、わしのえさとなって天国に行ったというのに。




 Fino



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丘のむこうは海蛇座 みきくきり @custom-season

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