最強女子高校生TCGプレイヤーの影武者が『伝説』と呼ばれるまで 〜ある日少女を拾ったらなぜか共同生活とカードゲーム修行が始まったので、とりあえず日本一まで登りつめてみようと思う〜

夕白颯汰

プロローグ 二人のカードゲーマー

 



 ――その瞬間、世界から音が失われた。








『エクストラゾーンよりスペル〈古代より目覚めし伝説〉。――召喚、〈伝説の始まり 水晶龍ゼロクリスタル・ドラゴン〉』


 そして、




 ワァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!




 轟音。


『来たぞッ、「クリスタルコントロール」の切り札!!』

『ここで出してくるか……!!』

『おいッ、なんだあのプレイヤー!? 強すぎんだろ!!』

『〈ゼロクリスタル・ドラゴン〉!? あの手札からどうやって……!?』

『なんだこの盤面……っ! どんだけ展開してんだよ!』

『後衛一枚に手札三枚の状況からここまで……何が起きたんだ』


 熱狂の中心、男達に取り囲まれた一つの卓。そこで二人のプレイヤーが相対していた。

 眼鏡をかけた三十歳ぐらいの男と、まだ若い二十代の男。

 眼鏡の男のプレイマットは、彼が好きなのだろうアニメの少女キャラクター。

 

 対する若い男の方は――わからない。大量に展開されたカードゆえに。

 

 両者の額には大粒の汗が浮かぶ。

 極限に至った集中と緊張。高速で回転する頭。

 「大会決勝」の言葉に気持ちがはやり、全身が熱を帯びて、否応なしにシャカパチが加速する。

 

 二人は盤面を睨む。眼鏡男は強張った表情カオになっている。


 だが――若い男は、その口の端に小さな笑みを見せる。


『スペル〈ラストサファイア〉。墓地から蘇生、〈新たなる伝説 水晶王龍ゼロクリスタル・グランド・ドラゴン〉。――「オールハンデス」』

『ッ…………!!』


 十数枚の手札を捨てさせられ、向かい合う男が歯噛みする。


『おおっ……!』

『盤面も手札も真っ更にしやがった……どんなコントロールだよ』

『あの試合展開、タダモノじゃねぇな……』

『誰なんだあいつ? プレイヤー名聞いたことないぞ』


 眼の前で行われている試合という名の一方的攻撃――言わば「完全試合パーフェクトデュエル」に、周囲の男達がそれぞれの言葉を漏らす。


 だがそんな中に、満足げな表情で試合を見る少女がいた。


『あいつ、なかなかできるじゃん……まぁ私がいるから当然かもしれないけど。これなら「影武者」に申し分ないわね』


 フードで顔を隠した少女が腕を組みながら呟く。

 

 


 果たして、彼女が全国大会出場経験のある最強のプレイヤーだと知っている者は、この場にいるだろうか。

 

 


 彼女は表舞台に姿を見せていないのだから、誰もいるはずもない――

 

 いや、これは訂正しよう。

 

 一人だけいたか。彼ならそのことを知っている。


『プレイヤーに向けて四点』

『……トリガー、なし』

『〈ゼロクリスタル・ドラゴン〉でダイレクトアタック』

『と、通ります……っ』

『はい。対戦ありがとうございました』


 対戦終了を受け、彼は握手を交わした。しかし相手は泣きそうな顔で、彼が卓上を片付けている間ずっと俯いたままだった。

 

 荷物を全て仕舞った彼は立ち上がり卓を離れる。足の向く先は、フードの少女。

 当の少女は被っていたフードを戻しながら、


『相変わらず容赦ないプレイね、あんた』


『しょうがないだろ。このスタイルが俺に一番合ってるんだ。だからこそのコントロールデッキ』


『ま、勝てたんだからなんでもいいけど……それよりあんた、途中事故ってなかった?』


『ああ、手札のことか。ちょっとリソース確保に手こずってな。なにせ相手がマナ破壊ランデスしてきたもんだから』




『ふーん。……まだまだ二流ね』


『はぁ!? お前、この前は「見どころがある」とか言ってたくせに! なんなんだよツンデレか!?』


『違うわよ! つまり伸びしろはあるけど今はダメダメってこと!』


『お前は貶すことしかできないのかよ! 試合に勝ってきて最初に言われたのがそれじゃ傷つくわ!』


『あんたは黙って私の言うことに従ってればいいの、「影武者」なんだから! さあ、さっさと帰って試合分析しなきゃ!』


『はいはい、わかったよ……』


 若い男と少女は、横並びで歩いて会場から去っていく。


『で、どうだった? 初の関東CS優勝は。影武者さん』


『……超腹痛かった。もう行きたくない』


『……ねぇ、今日のご飯は白米にイナゴでいい? それともコオロギ、』




『嘘です違いますめっちゃ楽しかったです! シャドゼロ最高っ! 今回も楽勝でした七海さまのお陰で!』


『ふふっ、わかってるじゃないあんたも。そうよ、シャドゼロは最高! そして私も最高最強!』


 慎重差があるために少女が男の方を見上げ、男が少女のつむじを見る形だが、その距離は決して遠くない。

 

 手を繋ぐことこそしないものの、時々肩がぶつかる近さで男と少女は歩む。

 

 大きさの違う二つの背中は、傍から見ればどのように映るだろうか。


 親子? 兄妹? 恋人?

 

 いいや、どれも正しくない。彼らの関係を的確に表すのであれば、これが最適だろうか――


『ちょっとあんたさ……いや、「相棒」……聞きたいことがあるんだけど』


『なんだよ急にその呼び方……。まあ、悪い気はしないけど。で、なんだ聞きたいことって? 頑張った「相棒」にご褒美でもくれるのか?』


『そうよ。お仕事できた「忠犬」にはちゃんとご褒美をやらないと、従順じゃなくなるもの』


『俺は犬か、犬なのかおいっ!? 相棒が一瞬で行方不明になったぞ!』


『まだ二流だし、私には遠く及ばないけど、この規模のCSで優勝できたのは評価するわ。だからあんたにご褒美……何が欲しい?』


『……ちなみに、選択肢を挙げるとしたら』


『リモートCS優勝プロモ、GPベスト16プレイマット、開けずにとっておいた一万円オリパ……くらいね。どう?』






『……………………全部TCGじゃねぇかよっ!!! もっと特別なものを期待したんだが俺!』


『特別なもの……? じゃああんたは何がいいって言うのよ』


『え……そ、そりゃ……』




 ――。――――。――――――。




『……ひ、ひざまくらとか…………?』


『…………なに顔赤くしてんのよ』


『おおお前だって真っ赤だろうがっ!』


『うるさいわね! もう――今日の夕飯はイナゴに決定よっ!』


『勘弁してくれそれだけは……』


 言葉を交わしながら、男は手に握った一枚のカードを見た。


『……というか〈永遠の魔導師 フィルドアース〉か。また懐かしいやつだな』


『大きいCSだと大体古いカードがプロモよ。公式もなかなかわかってるわね……――それにしても、去年はすごく良かったなぁ。一回も負けなかったし、景品もたくさんもらえちゃった……えへへっ』


 少女は小さくはにかむ。その顔はきっと、今までにないくらい緩んでいる。




『……気を張ってなかったら、可愛いんだけどな』


『? なにか言った?』


『いや。気にすんな』


 尚も嬉しそうな表情を浮かべる少女の手にもまた、一枚のカードが握られていた。


『お前その〈ゼロクリスタル・ドラゴン〉……あぁ俺も去年の大会出たかった! なあ、これやるからそれと交換、』


『ふざけないで。これは誰にも渡さないわ。……ふふっ』


 それぞれの手に優勝プロモを握って、二人は共に家へと帰る。




『ねぇ』


途中、少女が男を見上げながら言った。


『ん?』


『また誘ったら、来てくれる? 「影武者」』


『……ああ。いいぞ。俺もちょっと楽しくなってきたところだ。そのときはちゃんと認めさせてやるからな、「最強」』


『さあ、それはいつになるかしら』


『随分余裕なことだ。そうだな、とりあえずの目標は――』





『『全国大会優勝ちょうてん』』




 少女と男は、互いに驚いた顔を見合わせる。

 しかしすぐに、


『ははっ……こういうところで気が合うな』


『ふふっ……そうこなくっちゃね』



 声を上げて笑い合う。



『なんにせよ、これからまた特訓だな……』


『そうね。全国には私と互角に闘う猛者がうじゃうじゃいるわ』


『でも、勝たせてくれるんだろ?』


『もちろんよ、「影武者」』


『頼もしいな』


 そして二人は、こつんと拳を突き合わせた。










 ――そう、だからこれは。


「人生なんてこんなもん……何の刺激も面白みのない、平坦な道だ」


 つまらない人生を歩んでいた、しがない会社員の男が。


「カードゲームなんかやってて社会で役に立つわけないよなぁ……プロフィール欄に戦績とか書けたら、どんなにありがたいことか」


 一切の夢を捨てた、元カードゲーマーが。


 どういう因果か、最強のカードゲーマー(女子高校生)と出会って。


「私、もう大会出られないの――だからあんた『影武者』になってよ」


 なんてお願いされて。


「じゃ、わたしもここに住ませてもらうわ! あんたの特訓のために!」


 なぜか少女とひとつ屋根の下に住むことになって。


「ね、ねぇ……今日さ、その、一緒に寝よう……? あ、べっ、別に変な意味じゃなくて! 寝るまであんたとシャドゼロの話をしたいだけっ!」


 同棲という状況にお互い混乱しつつも、その日からカードゲーム修行の日々が始まって。



 (もうやらないと決めたはずなのに――いつの間にか楽しんでいる自分がいた)


 

 失われていた熱が蘇り。


 精一杯努力しできるところまで上り詰めようと思い。


 (そこにあったのは「シャドゼロが好き」って単純な感情、いや激情だけ)

 

 少女の手を取って――


 




 最強の「影武者」に至るまでの、二人の物語だ。






【コメント】

プロローグを呼んで頂き有り難う御座いました。


美少女と同棲しつつカードゲームに浸りたい、なんて欲望を抱えた筆者が妄想を繰り広げた末に爆誕した作品です。

これは果たして現代ドラマなのか。同棲が二割、「カードゲームって楽しい」が五割、登場人物の成長が三割……のつもりなんですが。

現代「ファンタジー」ではない。「ラブ」コメでもない。だからといってSFでもない……どのジャンルが正解なのか判断つきません。誰か助けて。


ちなみに筆者はDMPです。遊◯王はやってないです。

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