燕龍係恋

花笠海月

燕龍係恋

川の面はみづのはだへにしてけふのひかりをはじく龍のいろくづ


きつかふ紗のきぬをまとひてみづの気をいだき風はしのびくる 夏


風つよく雲がながれる空を見つ雨はここにはまだ降らぬはず


川が身を起こして雨をたぐりよせ龍あらはれる東京の空


東になにがあるのか鳥は東へとむかふけふの風にさからひ


龍身にちさき一羽をとまらせる雨去るまでのひとときの間に


はつなつの雨にけぶれる川ひくくとぶとりひとつ燕龍係恋


なさけあさからぬものなれ旅のはて休む燕へよせるこころは


目も黒き小鳥であつたとほくからわたしを見たとたしかにわかつた


この龍の心にふれるいちまいの鱗があらば玄色ならむ


そらをゆく鳥から羽が落ちてしまふ川のながれがうけとめてゆく


心臓に玄き鳥住む夢だったくちばしをもて心室つつく


さらふときさらはれるとき風たちてふくのもすそは水平にのぶ


羽かつてうすきころものすそだつたこともあるかと風がさらひし


靴音か足をひきずる音なのか橋に目つぶれば人間ばかり


鳥をらぬ橋からのながめさつきまであつた感情がおもひだせない


夢さめてあをく透く空みあげれば濡れやまぬ季はをはつたとおもふ


ぬのうすきころものすそをなびかせてcloudのなかへ去る龍ひとり


これよりは晴 六月の風わたりかの足かざる虹の裳裾は


はつなつのささなみひかるひかりには鳥のかたちの欠落がある

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