行動的でタフ。報酬なぞどうでもいい。暴走する感情とそれを冷ややかに見る自分。主人公は何かに駆られるように目的へ向かって突き進む。
ヒロインは謎多きアイドル。いつも悪態をつく彼女の、主人公を“さん”付けで呼ぶその瞬間、そのギャップ。時には主人公の別れた妻と重なり、時にはそれとまるっきり対照的に描かれる。主人公の妻への想いを交えて、二人の関係は話数を重ねるごとにじわじわと化学反応を起こしていく。
キャラの神秘性を出すのに、敢えてバックストーリーを描かないのは並みの作家の常套手段だ。言うまでもなく、この物語は謎多きアイドルが何者なのか、謎を解くミステリー。作者は当然そこに踏み込んでいく。結果、謎が解かれたアイドルの神秘性は全く色あせないどころかさらに魔性を帯びてくる。
初めから終わりまで、まさに本格のハードボイルド小説だった。往年の角川小説、映画を彷彿させる。主人公が自分に酔いがちの似非《えせ》ハードボイルドでは全くない。これを書ける作家がネットの深海に生息していようとは! 信じられない思いだ。