憧れは夢より遠くて
2032年8月7日、7歳になった嵐山辰樹は小学生になって初めての夏休みを謳歌していた。
「琴音!、こっち来いよ!ボルテックス・ウォーズの決勝が始まっちまう!!」
辰樹に呼ばれた同い年の女の子、花咲琴音は辰樹のクラスメイトであり、幼稚園から付き合いがあり親同士も仲がいい、俗に言う幼なじみというものであった。
「待ってー!すぐ行く!!」
琴音にとって、辰樹は仲間のような意識を持っていた。2人で幼稚園の外に勝手に出て遊んだり、親に連れられて行ったBBQで一緒に迷子になったりしたりもした。しかしどのような状況においても2人で協力して窮地を切り抜けてきた。その信頼関係がこの元気ハツラツな返事に現れていた。
「2人とも仲良しねぇ」
辰樹の母が言った。自分と仲良くなった琴音の母と子供同士も仲良くするのはとても彼女にとっても喜ばしいことであった。
テレビからアナウンサーがその熱を発散し、テレビ越しにもこの真夏の気温をさらに上げるのではないかと思えるほどの熱気を放ち、解説をした。
「まもなく!、ブリズベンオリンピック、eSportsの部ボルテックス・ウォーズ決勝が始まります!!」
唾を飛ばしながら喋るアナウンサーは、日本代表について紹介を始めた。
「日本人でこの度決勝に残った選手はこの5人です。」
テレビ画面にいく人かのプレイヤーネームが映し出される、しかし辰樹にとって、1人の選手以外眼中になかった。
「この第1回大会において予選を1位で通過し、海外では「ジャパニーズサムライ」の名前で人気を誇り、国内でも多くのファンを抱えるこの人、影山龍馬選手!!、ゲーム名RyoMa!!!」
\\うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ//
テレビに映し出された同時視聴会場が大熱狂に包まれる。
RyoMaは銃による撃ち合いが主流となるこのゲームボルテックス・ウォーズにおいて両手で扱う大剣装備を用い、またそれにコスチューム「日本刀」を付け戦うゲーマーであった、結果プレイヤーの戦績を図る対戦レートのポイントにおいて世界4位の好成績を残し、その実績のみでどこのプロチームに所属するでもなく、予選会に出場し、見事オリンピック出場を果たしたのである。
「始まった!」
辰樹がRyoMaについて思い出している間に、試合が開始された。
まずは冷戦期の輸送機をモデルとしたであろう飛行機にプレイヤーは乗り込み、そこからスカイダイブすることで戦場におりたち、そこから試合が開始されるのである。
様々な選手が飛び降りる中RyoMaも飛び降り、中規模の街に降り立った、同じ場所に複数人が降り立ったため、試合開始から1分も経たずに戦闘が始まり、テレビのカメラがRyoMaに切り替わった。
家の影にいたRyoMaに敵のカナダ代表の選手Taigaが数発の銃弾を撃ち、そのたまは外れたものの、両者は相対することとなり、RyoMaが物陰に隠れ、少しの静寂が続いた。
「私あまりこのゲーム詳しくないけどさ、剣と銃じゃ銃のが絶対強いよ、どうするの?」
琴音が疑問をなげかける、辰樹が琴音の心配を一蹴するように堂々と答えた。
「大丈夫!こんなので負けるRyoMaではないよ!」
そう答えた刹那、RyoMaが的に向かって一直線に躍り出た。
「あぁ・・・」
琴音がこれはもうダメだろ、とでもいいたげな言葉を発した。それは客観的事実に基づいていたと言える。実際、とてつもないスピードで飛び出たRyoMaであったが、Taigaも即反応、距離もあったため先に撃ち始めたのである。RyoMaの負けとしか思えないこの戦いだが、辰樹は逆にこの状況を見て価値を確信した。
Taigaに撃った弾がRyoMaの眉間に命中・・・
しなかった、なんとその時点で回避行動を即座にとっていたのである。そのまま弾を避け続け、数発の被弾のみで、Taigaの間合いを侵略した。
そこで見せたのはRyoMaの日本刀の強烈な横なぎであった。腹部に大きくダメージマーカーが光り、体力ゲージが一気に0となり、Taigaはデス判定となった。
「どうだ!!」
辰樹はテレビの前で叫び、自分の事のように喜んだ
「かっこいい・・・」
琴音は言葉を失ったようにテレビを見ていた。痛く感動している琴音に対し、自分も、と対抗するように
「俺の夢は、この人みたいになることだ!刀1本で敵をばっさばっさとなぎ倒す、そんなかっこいいゲーマーになることだ!」
熱く語る辰樹を琴音は嬉しそうに見ていた。
ボルテックス・ウォーズ決勝ソロの部第1試合においてRyoMaは3/64位の生存順位を残し7キルの戦績をあげさっそく暫定1位に躍り出た。
バーチャル・ボルテックス @maraika
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