第10話犬神と猫又
次にペット屋に呼ばれたのは犬神賢希だった。
僕は名前は犬神だけど、大の猫好きだ。
だって、僕が住むのは東北地方の太平洋側に浮かぶ小さな島、田代島。
島民55人よりも多い100匹を超える猫が住む。「猫の島」とも呼ばれて全国的に知られる島なんだ。
そんな僕がどうして妖怪を買いたいと希望したかというと、ペットのタマと島の猫達を助けたいから。
島民の高齢化と猫達の高齢化の解決方法に悩んだ末の行動だった。
ある日、小学校からの帰り道、突然、古びた木造の小さな店が目にはいってきた。
看板は汚れてたし、難しい漢字が書いてあったから、よくわかんなかったけど、ペットという文字だけは読めたんだ。
「あれ?、こんな店、今まで絶対に無かったぞ。これってもしかしたら例の都市伝説のペット屋じゃないか?。」
その店の入り口は、ガラスの引き戸になっていて、外からでも、犬や猫がケージにはいっているのが見えた。
僕は、恐る恐る中に入った。
「こんにちは、誰かいますか?。」
「なんか妖怪?。」
いつの間にか、小さな皺くちゃな顔をした妖怪みたいなおじいさんが、僕のすぐ横に立っていた。
「僕、妖怪が欲しいんです。」
「どうしてかい?。」
「島の年取った猫達を助けたいから。」
ペット屋のおじいさんは、ウフフと嬉しそうに笑って
「君はここでペットを買う必要ないんじゃないかい。家に帰ってごらん、妖怪が君を待ってるぞ。」
僕は半信半疑で家に帰った。
「ただいま。誰か居る?。」
誰の答えも無かった。
ニャー
と、ペットの老白猫が廊下で返事した。
「タマ、大丈夫?。何か食べた?。」
タマは高齢で歩くのも大変だし、食事もなかなか食べてくれないんで僕は困ってるんだ。
「あれ?、タマ歩いてる?。うそ、尻尾が。」
そう、タマの尻尾は2本あった、その上、四足歩行をしていたタマが起き上がり、二足歩行をはじめてた。
「賢希、おかえり。オレ、猫又になったみたい。」
「うわ~。ヤッタ。じゃあこれからもずっと一緒にいられるね。」
僕はタマの前足を持って踊りだしちゃった。
「ねえ、猫又って何かできるの?。」
「人間の言葉を話せて、ずっと生きていられて、後は化けられるかな。」
「化ける?。」
「変身できるんだ。」
「凄いな。じゃあ、何かに変身してみてよ。」
「今はムリだよ。ちょっと練習しなくちゃ。」
「ただいま。」
「おかえり、母さん。」
母さんはタマを見てびっくり。
「きゃあ、大丈夫?。尻尾を怪我して2本になっちゃったの?。それとも、病気?。」
「やだな、母さん。タマは猫又になったんだよ。話せるし、もう死なないんだ。」
「猫又?、死なない?。妖怪なの?。でも、家のタマよね。家の中では何をしてもいいけど、外に出たら普通の猫のフリをしてたほうが良いかもね。最近、観光客も多いから。」
母さんの言う通り、外に出る時は、猫のフリで、家の中では2本の尻尾で二足歩行で言葉を話して過ごした。
「去年の夏祭り、タマは家で留守番だったけど、今年は一緒に境内で食べ歩きしようね。」
「いつか船に乗って島の外にも行ってみたいな。」
「そうか、タマは島で生まれてここから出たことないんだよね。」
「タマのお母さんも内の飼い猫だったのよ。」
学校の帰り道、猫を蹴飛ばしている男達がいた。
「何してる!。猫を虐めるな。」
高校生くらいのガラの悪い奴が3人、こっちをにらんだ。
「なんだって?。もう一度言ってみろ。」
「猫を蹴飛ばしてただろう。」
「それがどうした。次はお前を蹴飛ばしてよるぞ。」
3人に囲まれてボコられていると、
「こら、お前達、何してる。」
大声で叫びながら、制服の警官がこっちに走って来た。
「お巡りさん、ありがとう。でも、奴らに逃げられちゃったね。」
お巡りさんは笑いながら、
「オレ、タマだよ。」
「えー、すごい。タマ、変身出来るようになったんだね。」
それからタマは毎日、島中を警備に廻った。
猫の姿で島を廻り、問題があるとお巡りさんの姿に変身した。
島に駐在さんが1人いるけど、高齢で外回りが苦手だったから、駐在さんに見つかることはなかったんだ。
「駐在さん、これ、お菓子。この前若いお巡りさんに助けてもらったから。二人で食べてね?。」
「この島に警官は一人だよ。ヨネさん、高齢で目が悪いから、誰かと見間違ったんだろう。」
「イヤイヤ、駐在さん、物忘れがひどいから、手伝いに来てたのを忘れちゃったんだね。」
高齢者は思い込みが激しいから、若いお巡りさんは時々島に手伝いにくるけど、それを駐在さんが忘れちゃうんだって、島中の人が思ってた。
「ごめん。駐在さん。」
タマは心の中で駐在さんに謝ってた。
「化ける練習をもっとして、駐在さんそっくりに化けられるようにするからね。」
そんなある日、
「あれ?。フクのシッポも二つになった。」
タマの次に高齢なフクが、猫又になった。
二本のシッポじゃあ外に出られないから、フクはうちに泊まりにきた。
タマが二足歩行と、人間の言葉と、変身の仕方をフクに教えたんだ。
「でも、フク、何でそんな格好なんだ?。」
フクは美人の女子高校生に化けていた。
「この子がノラのアタシに、毎日エサをくれたんだよ。もう十年以上前に島の外の大学に行っちゃって、島には居ないんだけどね。アタシの恩人なんだよ。」
「そうなんだ。想い出の人なんだね。」
フクは女子高生の姿で島の猫のエサと水やりに廻った。
「ねえ、彼女。俺たちと遊ばない?。」
フクはさっと物陰に隠れた。
「そんなところに隠れたって無駄だよ。アレ?、居ないぞ。どこに行ったんだろう?」
ニャー
変な男達にからまれても、フクは猫の姿になってやり過ごした。
「美人に化けるのも面倒くさいね。」
フクはそれからは地味なおばさんに化けることにしたそうだ。
そして祭りの日、
僕とタマは祭りに出かけた。
もちろんタマは人間に化けている。
「まず、焼きそばから食べようぜ。」
「焼きそばを食べたら、広場に行かないと。皆が待ってる。」
「そういえば、タマ、何を企んでる?。猫会議を何度も開いてたな。」
「ウフフ、言ってみればわかるさ。」
広場に着くと盆踊りがはじまっていた。
やぐらの周りには島中の猫が集まり、円を描いて歩いている。
その外側に人間が踊る輪が出来ていた。
「これなら猫も祭りを楽しめるだろう?。」
タマが踊りながらドヤ顔をした。
猫達は嬉しそうにグルグル回っている。
そんな猫を見ながら島民も楽しそうに踊っている。
ドーン
「花火が始まった。」
後日、やぐらを中心にした猫達の踊り?の輪の外側に、島民の踊りの輪、背景に花火の光景を撮ったSNSがバズった。
そのせいで、この島を訪れる観光客がまた増えた。
その上、世界中から猫達への寄付が寄せられた。
「良かった。もうこの島の猫達は、ずっと心配しないでお腹いっぱい食べられるね。タマが猫達と楽しむ夏祭りのアイデアを実行したおかげだね。」
「それなら、オレを猫又にしてくれた、妖怪ペット屋のおじいさんにお礼を言いたいな。あの日、『猫又になってずっと賢希と一緒にいたいかい?。』って突然言われて、思わず頷いたら猫又になってたんだ。」
「そうなんだ。じゃあ僕も書くからペット屋のおじいさんに手紙を書こう。」
僕とタマは二人で手紙を書き始めた。
拝見
ペット屋のおじいさんへ
僕とタマがいつまでも一緒にいられるようにしてくれてありがとう。
おまけにタマと話せるなんて、夢のような毎日です。
世界中からたくさん寄付をもらえて、島の猫達も、もう心配いらないです。
僕とタマはおじいさんに恩返しがしたいです。
犬神賢希とタマ
僕らの手紙を読んで、ペット屋のおじいさんは大喜びしたらしい。
「嬉しすぎて、謎クラブのメンバーみんなに自慢してたよ。」
って聡くんが教えてくれたんだ。
君もぜひ僕らの島に遊びに来てよ。
猫又が変身するところをこっそりと見せてあげるから。
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続;なんか用かい(妖怪)?、ペット(怪獣)飼うかい?。 高井希 @nozomitakai
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