第9話福生と件

僕の名前は佐久早福生。

名前には福がついているけど、実際は不幸体質なんだ。

何故か、不幸がつきまとう、可哀想な万年補欠のバレーボール部だ。

あ、自分で可哀想って言っちゃった。

練習も休まず頑張ったのに試合前に何故か怪我したり。

テスト前に歩いていると、道路脇の家の二階のベランダから、植木鉢が落ちてきて、見事命中、骨折してテストが受けられなかったり。

新品の服を着て外を歩くと側溝の蓋が割れて溝に落ちて泥だらけになった。

運動会で好きな娘と二人三脚が出来ると喜んでいたら、運動会の日にその娘が引っ越して行っちゃた。

じゃんけんもくじ引きもビリばかり。


そんな僕でも、ある日から変われたんだ。

学校からの帰り道、突然、古びた木造の小さな店が目にはいってきた。

看板は汚れてたし、難しい漢字が書いてあったから、よくわかんなかったけど、ペットという文字だけは読めたんだ。

「あれ?、こんな店、いままであったかな?」

店をみあげたとたん、何も無いのに躓いて転んでしまった。

「イテテ、擦りむいて、血が出ちゃった。」

その店の入り口は、ガラスの引き戸になっていて、外からでも、犬や猫がケージにはいっているのが見えた。

僕は、恐る恐る中に入った。

「こんにちは、誰かいますか?。」

店の中に入ると、入口に置いてあった檻にスネをぶつけた。

「アイタタタ。」

「大丈夫かい?。」

と、耳元で、かすれた声がしたから、飛び上がって驚いちゃった。

いつの間にか、小さな皺くちゃな顔をした妖怪みたいなおじいさんが、僕のすぐ横に立っていた。

僕が、じろじろ見てたからおじいさんがこう言った。

「なんか妖怪?。」

妖怪?、ちがう、なんか用かい?って言ったんだな。

「僕、ここを何度も通ったけど、前にはこんな店、なかったけどな。まあそれはいいや、

僕、ペットが欲しいんだ。」

「この子はどうじゃ?。件というのじゃ。」

「可愛い子牛、わー、僕の手を舐めてる。僕の事、気に入ったんだ。でも牛は高くて僕のお小遣いじゃあ買えないよ。それに、子牛はペットなのかな?。」

「いくら持っているんじゃ。」

「2千円しかないよ。」

「2千円でいいとも。その代わり、可愛いがってくれんかい?。」

「もちろん、可愛いがるよ。」

僕は綱を持って子牛と歩き出した。

信号が青だったから、渡ろうとしたけど、子牛はてこでも動かない。

「どうしたの?。青信号で、渡るんだよ。色盲かな?。それとも信号機をみたことがないのかな?。」

その時、信号無視の車が僕の目の前を凄い速さで通り過ぎて行った。

「危ない。もし、横断歩道を僕らが渡ってたら、絶対に轢かれてたぞ。あれに轢かれたら、僕、異世界に転生しちゃったかもしれないね。」

僕らは次に信号が青になってから、キョロキョロしながら、走って横断歩道を渡って家に帰った。

「ただいま。母さん、子牛を買っちゃた。

飼ってもいいでしょ?。」

「まあ、利口そうな子牛だこと。自分で面倒みれるの?。」

「大丈夫。爺ちゃんの家の手伝いをしてるから。」

爺ちゃんの家は牧場で牛を沢山飼っているんだ。

僕は古い納屋に子牛を繋いで、水と干し草を置いて、子牛にブラシをかけてあげた。

「そういえば、お前の名前は件だっておじいさんが言ってたな。」

僕はスマホで件の意味を調べた。

ー「半人半牛の姿をした予言獣(妖怪)」とあった。あれ?、もしかしたら、僕、妖怪をペットにできた?。何人もの子供達が妖怪をペットにして、幸せになってるってニュースで見て、僕も応募したんだ。あのペット屋って例の都市伝説のペット屋だったんだ。嬉しいな。そうだ、件のお陰で自動車に轢かれないで済んだし、お礼をしなくちゃ。ー

僕は件に柿をあげた。

件は美味しそうに柿を平らげた。

残った柿を自分でたべようと思ってたのに、件が全部食べてしまったから、しかたなく僕はりんごを食べた。


次の日朝早くから、件の鳴き声が聞こえたから、古い納屋にすっ飛んでいった。

それなのに、僕をみたら鳴やんで、モグモグ乾草を食べ始めた。

寂しかっただけだったのかな?。

そのせいで、いつもより1時間も早く学校についちゃった。

「福生、聞いたか。列車が故障して、運行中止中って、ニュースで言ってた。」

「え?、いつも僕その列車で来るんだ。いつも通りの時間に起きてたら、今日は学校に来られなかったよ。」

ー件のおかげで早起きしたから、学校に間に合ったな。ー

下校時間までには列車は復旧作業が終わっていた。

家に帰ってすぐに件のところに柿を持って行った。

ーありがとう、件のおかげで、今日学校に間に合ったよ。ー

件は相変わらず美味しそうに柿を食べた。

ーそうだ、おじいちゃんの家に件を連れて行ってみよう。件も紹介できるし、おじいちゃんの家の柿の樹の柿をもらって、件にあげよう。ー

山道を上がっておじいちゃんの家に向かっていると、いつもゆっくり歩く件がいきなり走り出した。

「件、走ったらダメだよ。自動車がくるし、怪我しちゃうかも。」

僕の言う事を聞かずに、件は走り続け、おじいちゃん家の縁側で、止まって、いきなり

「モー、モー」

大きな声で鳴きだした。

「ダメだよ、縁側で昼寝しているおじいちゃんが目を覚ましちゃうだろう。」

件はもっと大きく

「モー、モー」

鳴いている。

ーおかしいな?。おじいちゃん、こんなにうるさいのに、起きないぞ?。ー

件がうるさいから、おばあちゃんまで縁側に出てきたのに、おじいちゃんは起きない。

「おばあちゃん、おじいちゃんが起きないよ。変だよ。」

おばあちゃんは慌てておじいちゃんの様子を見ると、

「福生、救急車呼んで。」

と、叫んだ。

すぐに救急車がおじいちゃんを乗せて病院に搬送した。

「福生、ありがとう。もう少し遅かったら危なかったって、お医者さんに言われたよ。」

病院でおばあちゃんが僕にお礼を言ってくれた。

ーあの時、件はなんであんなに大きな声で鳴いたんだろう?。ー

予言獣って言葉が頭に浮かんだ。

ー件は本当の予言獣なんだ。ー

件の言う通りに行動をはじめてから、福生の不幸体質が治った。

バレー部のレギュラーにも選ばれたし、彼女も出来た。

成績も上がったし、何よりも怪我をしなくなった。

僕は件ともっと仲良くなっていった。

件のまん丸で真っ黒な瞳を見れば、件が何が欲しいか、だいたい判るようになった。

雪が降って凄い寒いある夜、僕は件が風邪引かないように石油ストーブをつけてあげた。

「件、暖かくなっった?。」

『ありがとう。暖かいよ。』

「え?、どうして頭の中で声が聞こえるの?。」

『福生と仲良くなったから、僕の念話が君に聞こえるようになったんだよ。』

「件と話しが出来るなんて、考えても無かった。僕、嬉しいよ。」

『実は緊急事態なんだ。これから豪雪になる。福生の両親や近所の人に豪雪の準備をするように教えてあげて欲しいんだ。』

「解った。すぐにみんなに知らせるよ。」

福生は居間に行って両親に豪雪にの準備をするように言った。

「何を言っているんだ?。大雪注意報も出てないぞ。それなのに、豪雪だって?。」

「件が教えてくれたんだ。件は本当は予知獣の件なんだ。」

「まさか?。」

「本当だよ、今の僕を見れば、本当だって判るでしょ。おじいちゃんだって件のおかげで助かったんだよ。」

「そう言われると、信じられるな。よし、近所を廻って話してくるよ。」

父さんは近所を廻って豪雪の準備をするように説得した。

この前の大地震の時の妖怪と怪獣たちの活躍が記憶に新しくかったから、

「妖怪が豪雪を予測した。」

っていう父さんの言葉を皆信じてくれた。

もちろん件がその妖怪だって事は言わなかった。

まだ妖怪の側で暮らすことに抵抗がある人もいるかもしれないからね。

母さんは急いでご飯を沢山炊いておむすびを握った。

僕は聡に連絡した。

「件が豪雪を預言したんだ。なのに大雪注意報も出てないんだ。近所には伝えたけど、後はどうすればいいのかな?。」

「連絡してくれてありがとう、福生。大雪警報をこちらで出すよ。君はこれからどうするの?。」

「大急ぎで母さんが作ったおむすびと予備の懐中電灯を近所の老人に配ってくるよ。」

聡は父親に連絡して、北海道全部に豪雪注意報を出してもらった。

「謎クラブの皆、これから皆でおむすびを作ろう。」

聡はスマホにメッセージを打ち込んだ。

その後、ペット屋のおじいさんに連絡した。

「件が北海道での豪雪を預言したんですが、寒さに強い妖怪と怪獣を北海道に移動させてもらえませんか?。」

ペット屋のおじいさんの命令で、雪男と雪入道は雪で立ち往生している自動車の救助に向かった。

雪女は雪が吹き溜まっている山の斜面を凍らせて雪崩がおこらないようにした。

雪の重さで停電になった場所には一反木綿が謎クラブの子供達が作ったおむすびとペットボトル、懐中電灯を届けた。

「北海道で豪雪となるも、妖怪らの活躍で特に被害はありませんでした。」

と、アナウンサーがニュースを読んだ。

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