過去を綴る
ロ口
振り返る
山頂に佇む女性がいた。彼女は、ただ目の前に立てられた墓標を眺めるばかりで何もしない。
黒原涼子。12才という若さでこの世を去っている。昔、彼女が住んでいた村に謎の病が蔓延し、存続の危機に瀕していた。そこで唯一病に侵されず健康体を維持していた女児が生贄となった。彼女の母は必死に抵抗していたが、村長に反逆した罰として村の中心で首を跳ねられた。錆びた古いナタで何度も、頭部が完全に切り離されるまで。その光景を女児は見ていた。彼女は泣き叫んだ。
後日、古くから伝わる生贄の儀式が行われた。やり方は冷酷で、あまりにも残酷過ぎた。生贄が最後の段階まで死なないように四肢をもいでいく。その後は腹部を切り裂き臓物を体内で潰していく。そして、心臓をエグリ出し皆の前に掲げ…小さな箱に収める。全ての部位も箱の中へ収められるよう解体し、髪の毛一本残さず入れ終えたら山頂に埋める。これで儀式は終了。後は祈るしか無かった。
村は数週間後に全滅したそうだ。謎の病についても、未だに不明点が多く世間に公表出来るような段階ではない。そのため、村での一連の流れは隠蔽される事になった。
もちろん生贄の事も。
村に近づくのは危険とのことで、数十年が経った今でも立入禁止となっている。村には当時の物が散乱している状態だ。死体はもう動物たちが食べてしまって、跡形もない。今や村の存在を知る者はいないだろう。
「私達は無駄死にだったね、母さん。」
女性は一言呟き、姿を消してしまった。
墓標には「開運除災」と書かれていた。
過去を綴る ロ口 @mongoriantyoppu
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