第5話 脱出

「ここが隠れ家?」

「うん。ここが諜報部の連邦国内の拠点。おーい、開けろ」

コツン、コツンと中から足音が聞こえてきた。

「いらっしゃいませ。お客様」

「二人ね」

「かしこまりました」

私とシェラーさんは中へと案内された。

「バーなんですね」

「まあ、表向きは、ね」

私達は席についた。

支部長マスターは居るか ?」

「天か?」

「冠だ」

「そうか。連れてこよう」

「今の、合言葉的なあれですか?」

「うん」

「少し不用心では?」

「そんな事ないよ。言葉に魔法で細工をしているから」

「!気づきませんでした…」

「元帝国の魔術師はみんな優秀だからねぇ…」

「凄まじい手練れですね…」

コツコツ、と足音がしこちらに人が近づいてくるのがわかる。

「よぉ、嬢ちゃん」

「フラディアさん、お久しぶりです」

「大変だったようだな…んで、そっちがいっつも言ってた自慢のお嬢ちゃんか…」

フラディアと呼ばれた初老の男は見極めるような目をシルフィーに向ける。

「っ…」

その様子にシルフィーは少し気圧される。

「ふむ…強いな。これなら、嬢ちゃんも安心して背中を預けられるだろうな」

「まぁ、そうですね。それで、早速ですが…」

「要件を聞こう」

少しおどけた雰囲気から真面目な雰囲気と変わりシェラーも目つきが鋭くなっていた。

「国外への脱出経路の確保を頼みたい。もちろん、それ相応の対価は支払う」

「嬢ちゃんたちが危険な状態なのは分かっている。俺個人としてはできれば助けてやりたいが、諜報部として助けるとなるとかなりの対価を貰うぞ」

「何でもどうぞ。軍の機密も魔導技術も知りうる限りの情報を譲渡いたしましょう」

「追加でもう一つだ。国境の係争地にて大規模な攻勢が行われる。それの、後方支援に協力してもらうぞ?」

「…何をすれば?」

「言った通り後方支援だ。戦線後方の司令部をかき回せ」

「…少し考えさせてくれ」

「いいぜ。三日間だ」






「どうするんですか?」

「そうねぇ…正直なこと言って悪い条件じゃない」

「でも、これに協力すれば軍に戻れる可能性が格段に低くなりますよ?」

作戦の概要は本隊兵力、約七千名、後方部隊、四十七名。対する敵は予想兵力ではあるが約二万。正面からぶつかっても負けるだろう。そのためこの計画が立案された。作戦人員にはキルベターナ諜報部が多く魔術師も居るため人員は問題ない。正直、後方司令部を襲撃するだけなら過剰ともいえた。ただ、万が一、万が一その司令部にネームドがいた場合、すべてが破綻する。流石に私でも連邦の英雄たちを相手をしながら雑兵を相手にできるほど器用ではない。

「…やるだけやってみるか」

「受けるんですか?」

「うん。シルフィーもそれでいい?」

「はい!」

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世界を救いし英雄は今日も気儘に生きてゆく 黒砂糖は甘い @satouhaamai

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