第58話 エルフ族 その4

 エルフの集落を治めていた村長のグラハムの正体はドラゴンだった。

 その推測が当たっていたとして、僕は尋ねるべきか迷った。


 強いて言えば僕は生来から性根がねじ曲がっている。

 相手の秘密を暴き立ててその反応見るのが愉快だったというか。


 今回も彼の正体について尋ねたのは興味本位でしかない。


「オーウェン殿は今いくつだ? 人間はみなそうなのか?」

「今年で十六になりますが、僕みたいな性悪はそうはいませんよ」


 隣にいた姉弟子はくすりと笑う。


「彼は背伸びしたがるんです、昔から」


 フォローありがとうハクレン、それで。


「どうして同胞を売るような真似するんです」

「相手が私よりも強くあり、さらに私をあそこから追いやったからだ」

「あそこと言うのは?」

「竜の楽園と呼ばれる場所だ、数多の竜が生息しているこの世の秘境だ」


 そんな場所があるのか。

 竜の楽園は僕のユニークスキル上でも確認が取れてない未開拓の場所だ。


 今、グラハムと会話しつつ確かめた。


「本当の村長はどこに?」

「食った」

「ワイルドですね……僕の個人的な見解を言いますと、貴方は次の村長を選択して生まれ変わるべきだと思いますよ」


 僕からの提案に彼は眉根を寄せている。


「生まれ変わるべき、と言うのは何を指している」

「僕の下について一緒に冒険者の国で生きてみませんか?」

「お前の下について、か……冒険者と言うのは実に強欲なものだな」


「その通りですよ、冒険者はみんな欲深いです、言い換えれば冒険者はその欲深さゆえに、外の世界に飛び出す未知なる可能性を秘めている。彼らの原動力である根幹を否定しても何も始まらないし、それに」


 それに、貴方はその冒険者によって救われようとしてるんだ。

 一方的に助力を求めておいて、僕たち冒険者をそしる真似はして欲しくないな。


「もしも僕の提案を拒むのなら、貴方の正体を公にします」

「わかった、お前の提案にのる」

「お早いご判断ですね」


 元より彼もエルフの里の状況に肩を落としていたみたいだ。


 五大種族とうたわれ、かつて栄華を誇っていたエルフ。


 しかし今は食糧難にみまわれ喘ぎ苦しんでいる。


 潜在力はあるだろうが、種族全体のヒッキーな性質から滅亡しかけていた。


 彼は村長をよそおってエルフに仇討ちしてもらおうと画策していたようだけど。


 結果として種族の垣根を超えた存在である冒険者によって、今回は決着したようだ。


 ◇ ◇ ◇


 その後、ドラゴン討伐は無事に冒険者の手によって達成。

 エルフの里の村長やっていた彼は次の村長に若頭的なエルフを選抜していた。


 新しい村長によれば、これからは人族とも手を取り合って。

 今いる里、ひいては世界中にいるエルフたちの懸け橋となると宣言していた。


 師匠はこの騒動のてんまつを『フルーツチンポの乱』と呼び寄せ。

 後々エルフたちに多大な迷惑を掛けることになったという。


 冒険者の国に帰り、僕は件のドラゴンである彼を自室に招いた。


「ようこそ冒険者の国へ、歓迎しますよギュスターブ学長」


 彼の名前はグラハム改めギュスターブ。

 短毛のさらさらとした白髪の褐色肌が見目麗しい若い冒険者の一人だ。


 今後は冒険者の国に設立する学校の長として、生まれ変わってもらう。


「歓迎に預かり、至極恐悦と存じますオーウェン様」


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