ふたり

ふたり

 俺は、彼女が好きだった。

 私は、彼女を愛していた。


 今宵姫という、美しい女性がいた。彼女は阿保みたいな戦乱の時代を生き抜いた姫君であった。この世の者とは思えない美貌と纏う空気に、多くの男が魅せられた。

 そんな男共から彼女を守る男がいた。彼は今宵姫の隣に立つことを許された唯一の男であり、刃を矢を闇を防いできた。


 俺はそんな今宵姫を好きになった男の一人である。敵対しない家柄同士の関係を利用し、文を交わしてきた。俺は今宵姫に求婚したかった。今宵姫を人質などに利用されてたまるかと、そう思っていた。

 彼女の父親、当主に当たる人物は今宵姫の婚約相手にとあることを求めた。

「護衛に付けている男を殺せる者、そしてその殺した護衛の代わりを務められる者」


 刀がぶつかり合う。私は、今宵姫を愛していた。

 幼いころから数多の手に求められ狙われる姫君を守るためだけに私は生きている。彼女の盾となり鉾となる。今まで姫君に求婚する何人もの男を返り討ちにしてきた。しかし、今回の男は違うことを私は知っている。

 貴方は、私に嬉しそうに文の内容をお話してくださいましたね。お返事をしたためる際、私ですらお部屋に入れることを拒まれましたね。そんな貴方を見るのは初めてでした。私はそれが悲しくも、嬉しくもあるのです。

 姫君、貴方の隣にいるのは、きっと私であるべきではありません。


 俺は、覚悟を持っていた。今宵姫と共に生きたいと本気で思った。それが、届いたことは歓喜すべき事実だろう。しかし、俺は敵わないと言うのか、この男に。今宵姫の今までとこれからをたった一人で守護したこの男に。

 護衛は、俺に勝たせた。直ぐに分かった、俺だって戦乱の世の男、武術の心得はある。気に食わない、心からそう思った。

 それでも、男の頸に刃を突き刺したとき、感謝を覚えた。俺はこれから今宵姫と生きる。俺の全てを今宵姫に、今宵姫の全てを俺に。命と引き換えに今宵姫と生きたこの男に感謝した。覚悟が輪郭を取って心臓に刺さり込んだ。


 今宵姫は俺の手を取る。伏せた死体の横でそっと口づけを交わした。彼女は残酷な運命かもしれない。しかしそれは俺にも、この男にも言えるのだろう。

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ふたり @onigirimann

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