第7話 大団円

 自分が、この世で、

「順風満帆で暮らせているのは、よほど前世でいい行いをしてきたからではないだろうか?」

 ということを言っている人がいた。

 それを聞いて、

「じゃあ、来世でまったくひどい状態になった場合というのは、前世が影響していると考えていいのでしょうか?」

 と神崎は答えた。

 神崎は、あまりにも順風満帆の人生に、今度は、少し怖くなってきたのだ。

「これは今ただ、いいバイオリズムに遭遇しているだけで、実際には、もっとひどい状況になっているのではないか?」

 と考えると、実に恐ろしいことになる。

 と思ったからだった。

「知らぬが仏」

 という言葉があるが、もし、このあとにロクでもないことが待っているのであれば、完全に、

「天国から地獄」

 に叩き落されるということになってしまうだろう。

 それを考えると、

「どこかの、坊主や、お寺に、自分の疑念を聴いてもらいたくなったとしても、無理もないことであろう」

 と思うのだった。

 しかし、だからと言って、どこかの宗教の門を叩くということは、恐ろしくてできない。

 特に、

「新興宗教」

 いわゆる、

「カルト宗教」

 というものにすがるというようなことができるはずはない。

 と感じるのだった。

 これまで、

「どれだけの新興宗教、カルト宗教と言われるものが、ひどいものであったか>」

 ということである。

「詐欺であったり、人を洗脳するなど、序の口で、何といっても、集団殺人をもくろんだ、テロ行為というものあった」

 というくらいである

 班員たちの首謀者は、死刑になったりしたひどい犯罪であったが、何よりも、

「人を洗脳して、自分たちは、その奥で、隠れ蓑に隠れている」

 というのは、秘境だと言っておいいだろう。

 都合のいい時だけ出てきて、

「教祖様」

 というのは、実に、ひどいものだといえるのではないだろうか?

 さて、そんな来世だと思っているところで、

「有名だというお寺の住職」

 に逢いに行き、話を聞いてみたが、自分が、

「この世界を来世だと思っていること」

 を告げると、

「それは、あなたの考え方としては間違っていないと思いますが、それをどう解釈するかということですね」

 というではないか。

「どういうことですか?」

 と訊ねると。

「あなたが、考えていることは、自分でも突飛すぎるということで、否定的になっていますよね? それが、あなたの正しい考え方を否定する形になるんですよ」

 という。

「じゃあ、僕は僕の考え通りにすればいいんですかね?」

 と聞くと。

「ええ、そうです」

 というので、

「そういうことになると、考え方が、一方通行になり、一人の考え方で、まるで世の中が変わってしまうのではないか?」

 ということになるような話であった。

「いやいや。それでいいいんです」

 という。

 まるで、

「禅問答のようではないか?」

 と思うと、

「人間は、どうしても、まわりを意識してしまい、正しいことであっても、まわりが違うというと、そっちが正しいと思い込んでしまう。それが今の日本における、民主主義という考え方なんですよね。でも、それを正しいというのは誰が決めたんですか? 例えば、世の中、これで正しい、日本は平和国家だと言っても、結局、戦争に巻き込まれそうになっていて、政治家がそれをどうすることもできない。だから、人によっては、新興宗教などに入信したり、まわりが信じられなくなって、精神疾患を起こしたり、あるいは、精神異常から、人を殺めたりしてしまう。それが今の世の中なんですよ」

 というではないか。

 神崎はその話に耳を傾けていて、たまに、

「ついていけない」

 という発想に陥ったりもするが、結局、

「自分には、どうすることもできない」

 ということになるのだった。

 それを思うと、目の前にいるお坊さんの説法が、

「何よりも正しいのではないか?」

 と感じるのだ。

 今までであれば、

「藁をもすがる気持ち」

 と言って、こういうところに来たとしても、数分で挫折して、その場を立ち去るのではないかと思ったのだ。

 話を聞いていて、

「これこそ、新興宗教に洗脳されている姿だ」

 と自分でその図が見えるからだった。

 しかし、

「目の前にいる人は決して悪魔ではない」

 それどころか、

「自分に対しての最大の救世主だ」

 と思うのだった。

 ただ、それは、

「自分に対してというだけであり、他の人に効果があるかどうかということは分からない」

 ただ、自分にだけ効果があるのだ。

 ということにしかならない。

 この状態を、神崎は、どのようにとらえればいいのだろうか?

「ところで、神崎さんと言われましたかな?」

 と言われて、住職から声を掛けられた。

「ああたは、どうやら、この世界は、自分が元々いた世界ではなく、何かの力で、こちらに呼びそせられたというようなことをお考えかな?」

 と言われたので、まるで、自分の頭の中を見透かされたかのようで、恐ろしいと感じたが、

「はい、そうです」

 と答えると、住職はうなずいて、

「そうでしょうね。そういう人は実は多いんですよ。あなたは、この世界に選ばれてやってきたのです」

 というではないか。

「どういうことなんです? どうしてあなたがそれをご存じなんですか?」

 と言われたが、

「私は、ある程度のことは知っています。あなたがこちらの世界にやってきたのは、偶然ではなく必然なんです。というよりも、あなただけではなく、あなたのまわりにいる人は皆そうなんですよ」

 という。

「ますます分からない。じゃあ、この世界は、自分たちがいた世界とは違うということでしか?」

 と聞くと、

「ええ、そうですね、厳密には同じ世界なんですけどね」

 というので、

「じゃあ、鏡のような世界と考えればいいのかな?」

 と聞いてみると、

「少し違います。というのは、ここの世界に来られるのは、限られた人たちなんですよ」

 というではないか。

「まるで、死んだ後のあの世に来ているような感覚になるんですが、何か頭が混乱して、何も考えられなくなりそうです」

 というと、

「そのお気持ちはわかります。この世界においては、あなたが、前世で、ひどい目に合って、その分をこちらの世界で挽回できるために、こちらにいるんです。言い換えれば、あなたは、この世界で、もう一度行きなおしているということになるんですよ」

 という。

「じゃあ、僕は、もう一度、生きるチャンスを貰ったということですか?」

 と聞くと、

「そういうことです」

 という。

「では、私がこの世で、どうすればいいのかというのも、自分で考えないといけないわけですね?」

 と、神崎は分かっていて聞いた。

 それを聞いて、住職は、

「そんなことはこっちにだって分かっている」

 と言わんばかりに、ニッコリとして、微笑んでいるのであった。

「誰にどんな目に遭ったのかというのは分かる気がするんですが、でも、その人もこっちの世界にはいるんでしょう?」

 と聞くと、

「ええ、御明察です。ただ、あなたも、相手も、まったく前世の記憶はありません。もし、あなたが、自分をひどい目に合わせた人をうまく改心させることができれば、あなたは、極楽浄土で、好きなことをしていけます。ただ、それに失敗すると、他の人たちと立場は同じで、その行き先は、こちらの意思に従っていただきます」

 というではないか?

 ということをきいたところで、

「ん? 今の話を聞いてみると、まるで、俺はしんだかのような感じなんだけど?」

 と聞くと、

「いや、まだ死んではいませんよ。死後の世界の最後の審判は、死後の世界ではできませんからね。あなたにとっての、リベンジマッチ。これからがあなたの真骨頂ということになりますね」

 と言って、住職は微笑んでいた。

「じゃあ、その相手を探すところが問題か」

 というと、

「大丈夫です。あなたは、すでに出会っていますから」

 というではないか。

「でも、それだったら、一体どういうことになるんですか?」

 と聞くと、

「あなたは、今までに、前世で、かなり親に迷惑を掛けられたので、この世界では、迷惑を掛けられないように、出会っていても、分からないようにしているんです。相手はあなたを息子だと認識していますが、声を掛けることはしません。相手にも意識があるので、あなたを見た瞬間、恐ろしくて、それこそ声を掛けれませんよ。生まれ変わったという意識がある中で、あなたがそばにいるわけですから、かなりの罪の意識にさいなまれているわけです」

 というではないか。

「じゃあ、親父は、そんなに俺にひどいことをしたというわけなんですね?」

「そういうことです。そして、お父さんはあなたが今のお父さんと同じ年になるまで、この呪縛から抜けられないんですよ」

 というではないか。

「じゃあ、この世界では、誰か、特に息子に迷惑を掛けたりすると、繰り返している世界の中で、苦しみもがくということになるというわけですね?」

 というので、

「そういうことです。これがいわゆる、神の裁きというやつです。あなたにも、その理屈は分かっているはずなんですよ、何と言っても、父親とは、遺伝子で繋がっていますからね」

 と住職はいった。

「じゃあ、僕はこの世界では、どうすればいいんですか?」 

 と聞くと、

「気にすることはありません、運命のままに従えばいいし、何かをしたいとかいう場合も、悪いことでなければ、いい方に向いてきます」

 という。

「いい方と言ってお、僕が、本当にいいと思っていることと、神様がいいと思っていることが、違っていれば、それは無理があるんじゃないですか?」

 というと、

「それはないですよ。何と言っても、あなたのことは、すべて分かっている神様ですからね。一種の、守護霊のようなものだとでも思ってくれればいいかも知れない」

 というのだ。

「ああ、なるほど、それであれば、俺のことを分かってくれていても、無理もない」 

 と思ったが、どうにも、もう一つ引っかかるところが神崎にはあった。

「守護神って、本当にあるんだろうか?」

 という思いと、もう一つは、

「タイムループ」

 ということが頭に引っかかっていた。

「目の前に住職は、父親には俺を意識する何かがあるように言っていたのだが、もし、前世の次の来世であれば、どうもおかしい気がする。この世界って、タイムループではないのだろうか?」

 というものであった。

 それも、

「単位が、一日」

 などという単位ではなく、それこそ、

「俺の人生そのもの」

 と考えられるのだ。

 そういえば、

「頭の中で考える時、自分のことを俺と呼び、話す時は、僕という言葉を使う」

 と思っていた。

「自分であって、自分ではない自分がいる」

 と考えると、これは、逆に、

「タイムリープではないか?」

 と考えたのだ。

 ということになると、複数回繰り返している人生が自分に存在し、入り食ってくれば、いろいろ分かってくる気がしてきた。

「ここにいる住職は、何人もいる自分なのではないだろうか?」


 神崎恭平は、今年、55歳になる、

 この世界に来て、どれだけの時間が経ったというのか、

「あっちの世界に戻りたいとは思わないな:

 と感じながら、時間があっという間に過ぎた。

 というよりも、自分の意識で、あっという間にこの年になったのだ。

「そういえば、年金問題などという小さなことを考えたこともあったな」

 と思ったが、それは、あくまでも、向こうの世界でのこと、こっちでは、関係がない。俺にとっては、この世界が、俺の本当の世界だ。

 それを考えると、この年が、住職の言っていた、父親の年に追いついたということであった。

 神崎は、もう一つ考えていた。

「近い将来、もう一度同じ人生を歩む。タイムループなんだ」

 とであった。

「またその時は、きっと、みなみに遭うことになるんだろうな?」

 と感じた。

 出会ったら、プロポーズしようと考えていた。もし、出会うとすれば、風俗嬢ではないはずだからである。


                 (  完  )

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因果のタイムループ 森本 晃次 @kakku

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