ある日のいつものあの娘 ◯◯

 朝、目を覚まして朝ごはんを食べる。身支度を整えて、鏡の前で最終チェック。今日は高めのポニーテールだ。あ、待って前髪が…。

 そしてそれが終わったら荷物を持って外に出る。もうそろそろ時間かなと思い、通信機器のスイッチを押した。


『あー。あー。おはようございます、先輩。』

「おはよー。それじゃあ今日も始めますかー。」

『はい。よろしくお願いします。』


 スイッチをオンにしたまま、なにか異変はないか歩き回る。

 …今日はなんとなく少なそう。


「ねーねー。一緒に商店街の方行かない?」

『えぇっ!?だ、ダメですよ!勤務中なのに…。』

「いいじゃんいいじゃん。いつものパソコン持っていけば大丈夫だって。」

『…それじゃあ…。』


 10分後。かわいい格好に身を包んだユノが軽やかに走ってきた。

 一応この職はフォーマルな服を着なければいけないため、ユノは落ち着いたブラウンカラーのセーラー服だ。ちなみに私は青緑色のチェックスカート。元はリボンだったが今はネクタイだ。

 ユノの大きめなリュックサックから、本当にパソコンが入っていることを認識する。マジで持ってきたんだ…重そうなのに…。


「なにします?」

「意外と乗り気だね〜。」

「なっ…そんなことありませんっ!」

「そうだな…。ゲーセン行く?」

「…私のこと気遣ってます?」

「ううん。私が行きたいの。行こっ!」


 そう言って手を引っ張ると、ニコッと笑ってくれた。やっぱり、うちのユノが可愛すぎる…!なんなの!?天使!?


 騒がしい中、クレーンゲームやリズムゲームをプレイしていく。


「…やったぁ!私の勝ちです!」

「ユノ強すぎ〜。…あ、あれやろうよ。」

「いいですよ〜。」

「これ可愛くない?やっぱウサギ狙おうかな〜。でもネコも可愛い…。」


 そんなことをボヤいているうちに、ユノはサッとプレイを開始させてしまう。うまく動かして…うわ。この子ほんとに上手じゃん。リングに引っかかって持ち上がっちゃってるよ。


「…やったぁ!ネコゲットです。」

「…私もやる!」


 …だが、これがなかなか難しい。掴んだと思ったら落ちてしまったり、そもそも掠るだけで掴めなかったり。


「…ユノ〜。どうやるの?」

「えーとこれなら…。」


 私の手にユノの手が重なる。少しずつ少しずつ動かしていき…。

 私がスタートボタンを押すと、アームはしっかりとキーホルダーのリングに通った。


「…やったぁ!取れたー!」

「おめでとうございまーす。」


 2人でお揃いのキーホルダーをつけ、街道を歩く。私はピンク色のネコ。ユノは色違いの水色だ。


「…ウサギじゃなくてよかったんですか?」

「まあ…その…。ユノとお揃いがよかったし。」

「……先輩。私と付き合ってくれませんか?今の彼氏さんより絶対幸せにします。」

「え!?付き合わないよ!まあ確かにサラッとさっきイケメンムーブしてきてびっくりしたけど…。」

「なら二股で…!」

「いやいやいや!あいつに冷めた顔させちゃうから。」

「いつも氷点下では?」

「結構言うね!?」


 その時だ。ユノの背中からピロリンッと音が鳴る。サッとパソコンを取り出して、私がザラザラを感じた前に言った。


「近くの薬局前で暴走確認。まわりに人はいませんが、割と強そうです。」

「分かった。行ってくる。」


 誰だ、幸せなこの時間を壊すのは。

 もう慣れたように、目にググッと力をこめる。走っているが、何も考えないようにする。


「…あははっ!みーつけたっ!」


 …今なら、あいつにも勝てると思う。これは私がここ最近で習得したこと。

 集中忘我スイッチ

 

 この掃除屋という職業は、ある一定の条件を満たせばおかしくなってしまう。私は一度、それで仲間を殺しかけた。

 でも、それは使いこなせば強力な武器になる。

 私の場合、何も考えないようにして一定の時間が経てば第一スイッチが入る。まあ、全てのことが楽しそうに見えてきて笑っちゃうんだけど。


 最近までは、それを制御することに注力してきた。制御できるタイミングとスイッチが出現するタイミングは人それぞれ。ほぼ運らしい。私ってば強運すぎっ。

 第二スイッチは、まだ入れ方が分からない。…って、あ。気づいたら私の足の下には頭から血を流した『なにか』が。


「よーし!任務完了。」



「疲れた〜。」


 夜、勤務時間も終了し、アイス片手にソファに座る。…あいつに電話してあげようかな…。


「もしもし?」

『ん?どうした?』

「すぐ出てくれるなんて、私のこと好きすぎない?」

『すぐ出ないとなんか言うと思ったんだよ。…なんか食ってる?』

「アイスだよ。りんごアイス。食べる?」

『ここからじゃ食えねえだろ。』

「今ねーお風呂から上がったとこ。」

『そっか。』

「あ!今なんか変な想像したでしょ!」

『してねえよ!こっちも風呂あがりだし。』

「ふーん。」

『はい変な妄想した〜。』

「ぐぬぬ…。コウのバカ!」

『はいはい。モナのアホ。』

「…クズ!」

『語彙力ガキかよ。』


 そこで電話を切り、アイスを大きくひとくち。

 

 …でも結局、また明後日くらいには電話してるんだろうな…。

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らくがき 真白いろは @rikosyousetu36

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