第7話 集魂の地

 知っての通り冒険者は金と宝、魔物を求めて旅をする職業だ。そんな冒険者はしばしば危険な目に会う。それが命の危機であることも多く、入念な準備が必要となるのだ。しかし世界は残酷なものである。貧乏冒険者が準備不足のまま旅に出て死んだ者がどれほどいたか。過剰なほどに準備しても想定を超える魔物が現れて死んだ冒険者がどれほどいたか。そんな無念の死を遂げた冒険者の魂は未練が残る地へと誘われる。冒険者の魂が集まりやすい場所は現地の人々から"集魂の地"と呼ばれ恐れられている。


 集魂の地。それは人々の憎悪や執念が集まる場所だ。ひどく赤黒い魔力で満たされたその地は過去の戦争の舞台や魔物災害の跡地で見られることが多い。その地は浄化魔法で浄化することが必須な地であり、教会の人間が度々派遣されていた。しかし教会も所詮は人の集団だ。よからぬことを企むものも多い。

 これは王国歴50年の出来事だ。

 教会は集魂の地で発生した強力な魔物を使役して教会の戦力としたり、国との交渉の材料にしたりしていた。人間の味方かどうかも怪しい教会の行動であるが、その実態が徐々に風の噂として広がっていく。最終的には集魂の地で発生した魔王と見られるものと教会が手を結んでいるという、根拠不明の噂も広がった。これは教会の存在に反対する勢力が打倒教会のために噂を流布しているという説もあるが、未だ詳細は不明である。しかし、これらの出来事により教会が庶民や王族に疑いの目を向けられたことは言うまでもない。


 冒険者という職業はそんな教会の姿に不信感を覚えた庶民らの手によって作られたものである。"浄化自警団"は冒険者の前身であり、集魂の地に近い街や村が魔術師を集い浄化するようになった。その効果は絶大であり、各地の集魂の地が浄化されることになる。各国の王は浄化自警団を国有化し、"集魂の地を探し出して浄化する"という意味を込めて"冒険者"という職業を新たに作った。

 教会の力が衰えたのは言うまでもない。教会の洗脳が解けた庶民は魔物の討伐を教会ではなく冒険者に依頼するようになる。これが今の冒険者組合やギルドの発足のきっかけになり、冒険者管理法が制定されるまでに至った。


 時が経ち、王国歴63年ごろ。冒険者は広い意味で捉えられるようになっていた。宝を探し求めるもの、古代都市で一攫千金を狙うもの、至高の境地に至ろうとする者も冒険者として含むようになった。その歴史の変遷により冒険者の枠組みにつながるものが完成した。衰えていた教会の力も次第に安定し、冒険者組合の国有化の命が解かれた。

 教会の暴走により発足した冒険者だが、教会が人々の信仰の中心としての役割を再認識したことによりその存在意義が失われようとした。しかし、庶民の信頼は厚くそのまま100年の時が経ってなお、今でも冒険者が存在している。

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賢者に誘拐された。 ひらひら @shosetsukakitai

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