最終話

 カフェイお姉さんの試練を見事に乗り越えて、二人のお菓子屋さんを持つ夢を掴んだ私バニリィと隣にいるショコルさん。


 この歓びを共有するべき人のいる喫茶店へ、二人で行ったのですが…………!




「なに……これ……」

「閉店のお知らせ……!?」




 喫茶店のドアには、閉店のお知らせの札が掛けられていました。見た所、お店のお客さんの入りは少なめのようでも、ちゃんと営業出来ていたようなのですが……!


 私達は強くドアを開けて、喫茶店の中へと入りました。


 ガランガラーン!!!


「こんにちは、マスター!!」

「なんで閉店しちゃうんですか!?」


 そこには、喫茶店のマスターであるあなたが、いつもの佇まいでそこにいました。


「何か、理由があるんですよね……」

「それを聞かないとスッキリしない!」


 ……あなたは、私達二人をカウンター席に案内させ、椅子に座った所で一枚の手紙を見せてくれました。


「……ああ……」

「これって……!」


 ここからは私バニリィが、手紙の内容を要約します。


 私は喫茶店のマスターとして、ここにやって来るメルティーメイツ達の色々なお話を聞いてとても楽しかった。しかしある日、私はとても大切な事を思い出しました。私が本当にやりたかった事が見つかりました。それはこの場所で始めるには少々狭かった。だからひとまずこのお店を畳んで、どこか広い場所へ行ってみたいと思っています。でも安心して。お店の収益は十分にあったし、その気になればまだここでお店は続けられます。私は私のやりたい事を始めるためにここを旅立つけど、唯一の気掛かりは私が去った後のこの建物を誰が守ってくれるのでしょうか。もしもこのお店を引き継ぎたいという意見があるのなら、あらためてこのお店を大切な人に譲ってあげたいのですが…………。


 ひととおり手紙を読んだ後、私達は言いました。


「あの……実は私達……」

「ザラメ社の支援のもとでお菓子屋さんを開く事になったんだけど……」


 私達はあなたにこれまでの事を全て語りました。お姉さんが二人の夢を支援してくれる事、ケーキを作って、お姉さんに認められた事も。


「カフェイお姉さんの話によると、お店を建てる場所は今検討中との事なのですが……」

「……それで、もし良かったら、このお店、アタシ達が貰ってもいいですか!!!」


 その話を聞いたあなたは……。




「………………………………」




 黙って、頭を縦に振りました。


「あ……ありがとうございます……すぐにお姉さんに伝えておきますね……!」

「これでお店の場所の目処は立ったって事でいいんだよね!!!」


 あなたは、二人の声に答えるように、いつものミルクを差し出しました。


「それでは……いただきます……」

「最期の思い出に……ココア大さじ10杯入れちゃうよ!!!」


 私達二人は、カウンターに置かれたミルクを、ゆっくり味わって、飲みました。


 とっても美味しい、ミルクでした。


   * * * * * * *


 季節は流れ、春。


 卒業式から数日後、あなたの喫茶店に来た私達。


 ドアを開けても、いつものベルの音はもう鳴らない。


「……これで、持っていくものは全てですね」


 そこでは、カフェイお姉さんが、あなたのお店の片付けを手伝っていました。


「カフェイお姉さん、マスター、おはようございます」

「今日がその、旅立ちの日ってやつなんだよね」

「ちょうど、このお店のお片付けが終わった所です。残存機材を調べた所、ここの設備でお菓子屋さんを経営する事は十分可能なようです」


 カフェイお姉さんはさらに語ります。


「突然電話がかかってきて、バニリィとショコルのお店の場所を提供すると話があった時は大変驚きました。建物をひととおり見てみると、とても良い感じで、しかも二階には二人暮らせる居住スペースもあるんだとか」

「そ、それって、つまり……」

「アタシ達、ここで暮らして、お店も出来るって感じ?」


 カフェイお姉さんは答えました。


「はい。ここを二人の家としても使う事を認めます。ただし、時々は実家にも帰ってきて下さいね」


「あ……ありがとうございます……カフェイお姉さん、そして、今まで見守ってくれたマスター!」

「アタシ達は、ここで仲良く暮らして、美味しいお菓子を沢山作ってあげるんだからねーーー!!!」


 感激する私達。しかし、マスターの旅立ちの時間が来てしまいました。


「そ、そういえばアタシ、まだちょっと思い残した事があって、マスターの声って、どんな感じなのかなって……!」


 すると、あなたは私とショコルさんに近付いて、耳元でささやきました。







 綺麗な声で、感謝の言葉を伝えました。


「……ありがとうございました!」

「それじゃあ、元気でねーーーっ!!!」


 あなたは最後に振り返り、私達に笑顔を見せると、荷物を持ってそのままこの場所を去っていきました。旅に出た先で、夢を叶えられますように……。


「バニリィ、ショコル……」

「お姉さん……」

「うん……」


「もしもまた、困った事があったなら、いつでも私達、ザラメ・コーポレーションを頼ってください」

「はい……」

「それでは、この後大切な会議がありますので、失礼いたします」


 カフェイお姉さんは車に乗って、ザラメ社の方へと走り去っていきました。


 その日から、私とショコルさんは実家の荷物を少しずつ、このお店の居住スペースへと運んでいきました。


   * * * * * * *


 さらに数日後。


 それぞれの実家にある荷物をお店の居住スペースに運び終えた私達は、寝間着姿で寝室のダブルベッドの上にいました。


「やっと、ひととおり終わりましたね」

「これで明日からは憧れのスイーツショップが開店出来るって事なんだよね!」

「はい……私も、嬉しいです……」


 隣同士で寝る前にお話する事も、これからは毎日出来る事に嬉しくなる私達。嬉しい事は、それだけではありませんでした。


「そういえばさ、アタシん家の物整理しながら、ママから聞いたんだけどさ……」

「はい、何でしょうか……」


 ショコルさんは言いました。


「アタシのママ、先日妊娠したんだってよ」


 突然言われた、新しいイノチの話。


「そういえばショコルのお母さんは、もう子供を宿せないと聞いたハズでしたが……」

「実はアタシに内緒で、パパと色々頑張ってたらしくって、これでダメなら諦めようって所で出来たみたいなんだよ……まあ、科学のチカラってやつも、アタシが思ってたよりすごい域に達してたって事なのかな……」

「そうなのですね……おめでとう……」

「これでアタシは、本気になる理由が出来た。生まれてくるのが弟でも、妹でも、アタシはあの子のためにこのお店を頑張りたいと思うの。バニリィちゃんも手伝ってくれる?」


 私の返事は、はじめから決まっています。


「もちろんです。新しいイノチ、二人で支えてあげましょう。これからは支えられるよりも、支える立場として……!」


 嬉しい話は、さらに……!


「それでさ、家を出発する前にパパとママがこれをくれたんだ」

「これは……ペンダント……!」


 ショコルの手には、私がご先祖様のアリシアから託されたペンダントに似たペンダントがありました。


「なんか知らないけど、実家の奥にこんなのがあったの。もしかしたらこれはアタシのご先祖様からの贈り物かもしれないね」

「きっと、そうでしょうね……私も、ご先祖様に見守られていて、ショコルさんも同じだったんですね……」

「急に色々良い方向に行っちゃったけど、やっぱり一番嬉しい事は……そう……!」


 声を揃えて、言いました。



「「特別な人と、一緒に暮らせる事」」




「もう、アタシとバニリィちゃんは、自由なんだからね……こういうのもいいでしょっ!」

「ええ……ショコルさん……これからは共に……!」


 こうして私達は、色々な出来事を経て、お互いの欲しかったものを手に入れる事が出来ました。もしショコルさんに会わなければ、私は今も姉と距離を置いて、淋しい思いをしていたのかもしれません。


 私の人生に、ショコルさんが来てくれたおかげで、私は姉とも仲直り出来て、しかも目の前のショコルさんと共に夢を叶える事だって出来た……今だったら……思いっきり言える……。




 私の夢は、あなたの夢。




 アタシの夢は、君の夢。




   * * * * * * *


 翌日。


「さて、今日がお店の初日だね!」

「そういえば、お店の名前、何でしたか?」

「お店の名前なら、そこに立派な看板があるじゃないの!」

「あ、あれですね……なんて私達らしい、けど不思議な名前でしょう」

「もしここにすごいお菓子職人が現れても、この看板は守らなきゃだよ!」

「道場じゃないんですから…………あっ」


チリリリチリン♪


「おおっ!初めてのお客さんが来たね!」

「ドアのチャイムも良い感じね……さて」


「行くよ!バニリィちゃん!」

「ええ、ショコルさん!」


私バニリィと、隣にいるショコルさんは、声を揃えて、初めてのお客さんをお迎えしました。


      メルティーメイツ


最終話 いらっしゃいませ!!!スイーツショップメルティーメイツへようこそ!!!


 最終話 おわり


 Thank you for reading.

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メルティーメイツ 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE

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