最終話 赤い太陽

ハルは長い道を歩く、足どりは重い。

いや、あえて遅く歩いている、まだショウが後ろから走ってきてくれると信じている。

ここまでの旅は楽しかった、ショウといた時間も、旅が終わってもいつまでも親友でいられると思っていた。

だが彼が決別の道を選んでしまった以上、どう交渉しても元のような関係には戻れないのかもしれない、頭を下げてきた時自分はちゃんと謝って許せるのだろうか、そしてまた一緒に笑えるのだろうか、笑ってくれるだろうか、その考えがハルの足をさらに重くする

「もっとちゃんと向き合うべきだったな」

森を出た後に聞くべきだった、おばあちゃんの記憶がないことを相談すべきだった、何か知っていないかと。

だがもしショウが関わってるのでは無いかと思うとこの関係が壊れてしまう、そう思っていたから話せなかった、今何よりも大切な物を失いたくはなかった。

そう考えていると帰りの船に着いてしまった

乗れば二度と会えないかもしれない

「またな ショウ 元気でな」

なかなか一歩が踏み出せない、自動的に開いたその扉はハルを待っている、だが足が動かない

「なんで…… なんで……」

抑えてきた涙が溢れてきた、2人で帰るまでが旅だと思っていた、だが隣には誰もいない

「あのバカ……」

止まらない涙を手で拭う、だが止まる気配は無い

「どうして……」

今すぐ会いたい、そして一緒に船に乗って帰りたい、自分達の赤い太陽に……




「ハル!」

そう呼ばれて後ろを振り向く

そこには……




「随分と長く歩いてますね」

「ん まぁね」

「どこに連れて行くつもりなんですか」

「内緒」

やはりこの男は人をイラつかせる天才だ、見た目と違いこのお茶目な感じが鼻につく

「着いたよ」

そう言いながら木新は壁に手を当てる

するとその先は外だった、長い一本道が続いている

「ここは……」

「残念ながら君はここでお役御免」

「は?」

正直理解できなかった、自分はこの星で生きるのではなかったのか

「君から得られるものはない 正直君に合う環境を用意するのはめんどいの」

「待ってください僕は」

「帰れ 君の親友は先に行ってる」

そう言いながら指を指した、そこには最初に乗ってきた船よりは小さいが、そこには船があった

「僕は……」

「ちゃんと言うんだろ 全てを腹割って話せ」

木新は暖かい眼差しでこちらを見る

「だって君たちは 親友同士なんだから」

そう言われた時、失ったものを思い出した、あの時かけた魔法は彼のためだった、そのことを伝えたい、ハルと一緒に帰りたい、ハルと一緒に会いたい人達もいる。

そう思うと、言い方こそ嫌な感じだったが、木新の優しさに気がつく

「ありがとうございます……」

頭を下げた瞬間、涙が落ちていく

「時間が無い 早く行け」

「はい!」

そう言われて外へ駆け出す、今すぐ会いたい、話したい、一緒に帰りたい、まだまだ遊び足りない、一緒に会いたい人もいる、そして何よりも


ずっと親友でいたい


走るのは得意では無い、だが今まで1番速く走れている、流す涙を置き去りにしながら

「ハル!」

そう呼びかけると親友がこちらを向いてくれた




「すれ違いになってたのか」

「あんたが時間かけすぎなだけだろうが」

2人の木新は研究所内の廊下で出会った

「やっぱり僕達は考える事が同じだね」

「当たり前だ そして他のβ γも同じような結論に至るはずだ」

彼らは情報の共有を一日の終わりに行う、だが共有せずとも2人を帰らせる事はどの木新でもそうさせただろう

「って事は これから先俺がやる事もわかってるね」

「情報の共有をしていない 何をする気だ」

「護身用の銃を貸してくれ」

そう言いながら木新は手を出す

αはその意図を理解した

「なるほどな 飯島君のあの言葉か」

「あぁ 私は今がその時だと考えてる」

「そうか」

そう言いながらαはポケットの銃を渡す

「怖くないのか?」

木新がαに問う

「あんたは怖いのか」

「それもそうだな」

そう言って木新はギャラリーの待つ会場へと向かっていった。

αは逆方向へ進んで行った


「ショウ……!」

嬉しかった、船に乗る寸前だと思ったが、来てくれた、もう二度と会えないと思っていたから、来てくれた事が心の底から嬉しかった。

2人は抱き合う、ショウの勢いが強すぎてハルが後ろに倒れ、そのまま船に乗る

「馬鹿野郎…… 遅いんだよ……」

「ごめん 自分が弱いから……」

ハルは涙を流しながら笑い出す、今は2人で帰れるという事実が2人の心を溶かした

「もういいんだショウ 俺は大丈夫」

「本当にいいの? こんなことしたんだよ 罰なら受ける気でいるよ……」

「じゃあ 帰ったらもう1回旅に付き合って貰うぞ! まだあの世界は広いらしいからな!」

「そんな……」

さらに申し訳なくなる、それは罰ではない

「何言ってんだよ」

ハルはショウの髪をわしゃわしゃと撫でる

「俺達はいつまでも親友だろ」

その言葉にショウの涙がさらに溢れる、そして嬉しさの声が出る

「うん!」

船の扉が閉まり、自動的に動き出した。

青い太陽こと地球が離れていく

再び2人は夜へと向かっていった


「お待たせしてすまない ショウ君は気分が悪くて先に退場させてしまった」

木新のその文言で会見が再開する。

会場がざわつき出す

「あー皆さん黙って黙って まぁ恐らくこの環境に慣れてないからだろう それよりも太陽の領地化計画なんですけどね」

会場はすぐに静寂に包まれた、皆が木新のその言葉を待っていたからだ


「白紙にする 今後太陽への調査 侵略行為の全てを禁止にさせてもらう」


会場が再びざわつき出す、さっきよりもうるさく、しまいには暴言までもが飛び出してきた

「あの星には私が昔送った魔素が蔓延し 太陽人の力の源となっている」

会場の空気を無視した彼の言葉に皆が動揺する

「その力は強大でね さっきのショウ君ですらまだ完全には魔素を消滅させられていない」

木新は嘘をついた、太陽にはもう誰も触れさせる訳にはいかない

「なら 魔素を消せれば大丈夫なのでは?」

「彼らは体内で魔素を生成できる 完全に消すのは無理だね」

「それほど規格外の力なのでしょうか?」

「彼らの魔法とやらは人を殺すなど容易に可能だ 彼らが我々に牙を向けば多くの犠牲が出るだろうな」

質疑応答が勝手に始まる、だがこれでいい

「もうこれ以上答えることないから 質疑応答終了ね じゃあ」

そう言いながら木新はポケットから銃を取り出す。

会場が再び動揺に包まれる、逃げ惑う者、パニックになり口を抑えたまま動かない者、これから起こるであろう出来事を止めようと動き出すロボット、それぞれが各々の動きを見せる

「私の太陽の研究の全てはこれで終わりだ」

銃を頭の右側に突きつけ、目を閉じる。

私は太陽の知ることが出来た、とは思っていない、だが太陽の研究よりも優先すべき事を彼女に教わった事を今回の経験で思い出した

(私はギリギリ人として死ぬ事が出来そうだ もし人として天国とやらに行かせて貰えるなら)

「また君に会えるのだろうか」

引き金を引く

銃声が鳴る

放たれた弾丸は頭部を貫き、木新はそのまま倒れた

赤い液体が倒れた木新にそって流れていく

朦朧とする意識の中、太陽に帰した2人の事を考えていた

「君の大切な物を守れたぞ……」

そして視界は白に包まれた



「結局なんだかんだ言っていい人だったね」

「まぁ 本当に俺達のこと調べたいだけだったみたいだしな」

2人は船内で離れていく太陽を見ながら木新について話していた

「うん あそこまで来ると研究者としては凄いんだろうね」

「ショウなんかずっとイライラしてたもんな あははっ!」

2人は大笑いする、お互いがお互いに知らなかった部分が見られて親友として嬉しかった

「にしても俺のおばあちゃんが太陽から来た人だったり すげー色んな事があったな」

「だね 僕もまだ理解が追いついてないよ 色んな人にはなんて報告するべきか分からないし」

「まぁ 大事な所以外は俺ら2人の秘密ってことでもいいんじゃねぇか?」

「それもそうだね そうしよう!」

そうして話していると、窓が閉まり、船が着陸の体制をとる、揺れはしたものの直ぐに治まった

「着いた? のかな」

「とりあえず外出てみるか」

そう言いながら扉を開ける。

するとそこは砂浜だった

「うぇ! ここどこだ!」

「あっ! ハル! あれ!」

ショウが指さした方向には船が港に入っていく瞬間だった

「あの港町 アルスの港町だよ!」

「まじか! とりあえず泳ぐしかねーか 魔力はもう大丈夫か?」

「うん! いけるよ」

「よっしゃ! 行くぞ!」

そうして2人は荷物を持って、補助魔法をかけて泳いでいった。

2人が乗ってきた船は沈んでいってしまった


帰りの道は行きの時のよりもとても楽しく感じた。

キアラール山の麓の村に挨拶に行き、アンの墓参り、ザルード王への報告、それら全てを済ませてアルフ王国へと帰った、かかった日数は行きの時とあまり変わらなかったが、帰りの方が楽しく旅をする事ができた。

アルフ王国の城が見えてきた時、ハルが急に立ち止まった、ショウは気がついて振り返る

「どうしたの?」

そこには下を向いているハルがいた

「いや…… その……」

「なんだよ 言いたいことあるなら言いなよ」

「恥ずかしいんだよ…… こういうの」

ハルの顔が赤くなる。

初めて見る彼の姿に笑いが吹き出す

「ははっ! ここには今僕達しかいないんだからさ」

そう言われて、ハルはしっかりとした顔に戻る、そしてちゃんとショウの方を見て心の底から出た言葉を伝える


「ショウ!」

「何?」

「ありがとな」

「こちらこそ」


昔よりも色々な経験をして大人になった2人だったが、それでも変わらないものがここにはあった




「ただいま! 悪ぃ遅くなった!」

「お父さん! おかえり!」

「ハル! 遅いなぁ! どっかで飲んでたりしてないだろうな!」

「してないしてないって!」

目の前にいる美しくも言動の荒い女性が襲いかかってくる。

ハルは息子を抱き抱えて、妻から逃げる、小さな部屋での追いかけっこが始まる

「一般兵が大変なのは知ってるがこの時間まで帰ってこないとはいい度胸だな!」

そう言いながらハルを捕まえて、絞め技をかけ始める、息子はすぐに逃げた

「ごめん!ごめんって!いててて!」

「お母さん頑張れ!」

ハルが床を叩くと、絞め技が解かれる、そして妻から手紙を渡される

「これ 届いてたよ ショウ君からの手紙ね」

「ああ ありがとう アンナ」

渡された手紙をすぐに読みはじめる、手紙の主はショウだった

『久しぶりハル 元気? 奥さんとは…… 上手くやれてるようだね。僕達は僕達の方で上手くやれてるよ!

僕達は今第三大陸にようやく着いたところ、そっちは一般兵やってるんだっけ? 大変そうだね、エイル君はどう?元気にしてるかな?

また昔みたいに旅がしたいな、って言っても君が一般兵辞めてからになりそうだけど

そっちに戻ったら顔を出すよ! それまで皆で元気にね!

             ショウ』

こうして手紙が来るのはひと月に1回程度だ、来た手紙を読んでいる時が家族との時間と同じぐらい楽しい

「こっちの事伝えておこうか?」

「うん 頼む ありがとう」

「おう」

そうしてアンナは自分の部屋へ入っていった

「そうだな…… また旅したいよな」

「お父さん! 昔の旅の話また聞かせて!」

手紙を読み終わるまで待っていたエイルが父の足に乗っかってくる

「そうだな 今日は太陽についてのお話だ!」



「ショウ君 昨日の夜姉さんから 手紙が届いたって来たわ」

「おお! ありがとう!」

第三大陸の宿屋で目を覚ましたショウは隣にいる美しい女性からの話を聞く

「で 向こうはどんな感じなの!?」

「上手くやってるみたい でもハル君は帰りが遅いみたいで姉さんが怒ってたけど……」

「はは…… そっか……」

こうして話を聞くとハルのだらしなさがどんどん露呈していくのがわかる

「ねぇ そろそろ帰りたくなってきた?」

「まぁ そうだね ハルの顔も見たいし お、姉さんの方にも久しぶりに挨拶しないと 」

「そうね じゃあ支度しましょう」

「うん!」

そして2人は支度をして宿を出た

「ねぇ ハル君」

「何? カンナ」

「私の事どれぐらい好きなの?」

カンナはショウと共に旅をする中で思っていた事を聞く。

彼と出会って以来、親友のの話を聞く度に疑問に思ってしまう

「そうだね 君の事は」

そう言いながらショウは彼女の唇にキスをする

「愛してる カンナ」

「ふふ 嬉しいな 君にそう言って貰えるだなんて」

そうして2人は固く手を繋いで歩き始める




「というわけで俺達は帰ってきたって訳」

「えぇ…… よくわかんないよ」

ハルはエイルに太陽の話をしたのだが、エイルは理解出来ていなかった

「まぁ 難しいよな 俺も当時はよくわかんなかったし」

「ねぇ もっと楽しい事ないの? 今日のお話は面白くなかったよ」

「お 面白くなかったか…… はは……」

ド直球に面白くないと言われてハルの心に穴が空いた。

「じゃあそうだな…… 宝探しでもするか?」

「宝探し? する! 面白そう!」

息子に宝探しを勧めるのは初めてだったが、自分の息子なのだ、きっと大丈夫だろう

「俺の宝はな図書館にあるんだ」

「え なんで? あそこ入口のおばさんが怖くて入りたくないよ」

「大丈夫だ 黙って本を持ち逃げしなきゃ怒られる事はない」

昔の事を思い出しながら話す、彼女は相変わらず怖いおばさんとして今の人にも記憶に残っているようだ

「エイルが俺の宝を見つけたら それはエイルのものだ 好きにするといい」

「宝ってどんな形をしてるの?」

「それは教えない ヒントとしては一応本ではあるかな」

「わかった! 明日探してみる!」

「おう! 楽しみに待ってるぞ!」

そしてエイルは母の部屋へと走っていった。

扉を開ける寸前、父の方へと振り返る

「おやすみ! お父さん!」

「おやすみ エイル」

そうしてエイルは扉の中へ入っていった






「見つからねぇな…… 親父の本」

あれから10年も経ってしまった、毎日図書館に通っていた訳ではなかったが、学校の休みの合間を抜け出してはたまに探しに来たりしている

「あれだけのヒントじゃわかんねぇよ! 禁書庫に置いてあったらどうすんだよ!」

今となっては父と喧嘩中かつ、遠征で話す事も出来ない、ヒントはこれ以上得られなかった

舌打ちをしながら歩くと、暗い本棚の中に1冊だけ異様に小さな本があった

「これか……?」

暗くて見えづらいが1冊の本があった、本と言うよりは日記帳だが

中を読んでみて確信する、父の旅の記録の日記だった

「やっと見つけたぜ! コルンに見せに行こっと!」

そうして再び図書館から日記が盗み出されたのであった


「ええ! なんで盗んで来ちゃったの?」

「だってお前に早く読ませたかったから……」

エイルの目の前にいるのは6歳年下のコルンだ、一応自分の従兄弟にあたるそうで、幼い頃から友達である、だが年の差的にもはや弟のような感じに近い

「今すぐ返して来た方がいいよ!」

「大丈夫だって! 早く読もうぜ!」

「えぇ…… 大丈夫かなぁ……」

エイルは大きな木の下で日記のページをめくる。

2人は読み進めていく、父達の旅の記録の面白さに、ページを開く手は止まらない。

気がつくと日が落ちかけていた

「すっげぇ! 親父達こんな旅してたのかよ」

「うん 僕らもこんな旅してみたいかも」

「学校卒業したらアリだな」

「そうしようか!」

そうして2人は拳を合わせる。

旅に出るという誓いが、時を超えて今度は息子達に受け継がれた







空に浮かぶ、青い天体

自分達の生きる赤い天体とは、対を成す天体である

しかしその事を知るものは少ない

その2つの天体はまるで、どこかの2人のようにお互いを照らし合う

そしてその2つの天体をを人々はそれぞれこう呼ぶ

青い太陽と赤い太陽

と……

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青い太陽 シエル @C1el

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