第一の怪異 龍神(前編)
「
「へえ、そんなのがあったんだね。わたし、
彼女は朽木堂からもらったアイスをはみはみしている。
「で、その、龍神さまとやらがどうしたの?」
板の間に片手をついている横顔を、この店主は目でなめた。
「はい、その龍神さまはね、その山を拠点として、朽木の地に魔が入り込まないよう、しっかりと見張っていたのですよ」
「ほえ~、やるじゃん、龍神さま。男? イケメン?」
七瀬はアイスをむしゃむしゃした。
「市に伝わる文献によると、普段は若い人間の男性のかっこうをしていたんだとか。ただし、人間の世界と交流は持ってはならなかったらしく、ひとりでひっそりと、入らずの山に潜んでいたそうですよ」
朽木堂はアイスティーをすすった。
「ふーん、なんだかさびしそう、龍神さま。せっかくイケメン? なのかもしれないのにさ」
「イケメンかどうかはともかく、事が起きたのは、そのあとなのでございますよ」
「なになに、どゆこと……?」
「あるときどこからか、
「あ、それ、知ってる。おらが朽木の足もとに、朽木市に伝わる童歌。子どもの頃に習ったなあ。その、5番目、だっけ? 出てくるよね、大鎚御前。知らせねば~って。どうなやつだったの?」
「はあ、
「へえ、なんか、強そうだね」
「ええ、強いのなんのって。しかも、御前に生気を吸われたが最後、たちまち邪悪な気に当てられ、彼女の意のままに動く、人形となってしまうのです」
「わあ、すご。無敵じゃん、大鎚御前。で、で?」
「土地を守る龍神さまは、その大鎚御前に、戦いを挑んだのですね。しかし、御前は強すぎた。その戦いは、七日七晩にも渡ったんだとか」
「で、で、結果は……?」
「はい、さすがの龍神さまも、あまりの強さに、ついには敗北してしまったようです。なにせ、御前の邪気に当てられた者どもまでが、彼女の味方をするものですから」
「え~っ、そんなあ。龍神さま、負けちゃったの? ショック。イケメンなのに~」
「まあ、イケメンかどうかはともかく、そうなってしまったのですねえ。ところが……」
「ところが、なに? まさかのそのあと、龍神さまの大逆転とか?」
「んふふう」
「もう、じらさないでよ~、ヘンタイのおじさん。続きを早く教えなさい、教えてたもれ」
「ん~、暑くなってきましたねえ」
「そらすなよ、ヘンタイ」
「お茶がなくなってしまったので、新しいのを持ってきますね」
「ああ、知ってる。それって、昭和生まれのおっさんが使うテクニックでしょ? なんか興ざめ、がっくし」
「あははあ、あなたもじゅうぶん、昭和っぽいですよ~、七瀬さん」
「うるせえ、とっとと茶あ、持ってこいやあ」
「ほほほ、お待ちください、すぐに」
朽木堂は番台の奥へとはけていった。
「……」
このとき、同じ時間、同じ場所で、少なくとも二人の人間が、舌をペロリとなめたのだった――
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