第5話 第1回クラス内作戦会議と『スキル』 

屋上近くにいた先生の目を上手くかわし、大翔は教室近くまで急いだ。教室が近づくにつれ、騒がしさが増してくる。何事だろうかと近くの壁で教室の様子を見る。教室内は以前に増してより対立が激しくなっているようだった。


「だから、みんなで協力すればいいって言ってるだろ!」


「だって本当にこのASDっていうシステムを信用してもいいか判断できないじゃない!」


「このアカデミーのシステムそのものが謎だわ」


「あー!もういい!!勝手にすればいいじゃない!」


「一体私たちに何をしろっていうの?」


「もうお前らとは一緒に行動しないからな!あとで泣きついてきても助けないぞ!」


「おい、少し落ち着けって」


もはや学級崩壊レベルである。大翔が教室に入ろうとした時、急に一際大きな声が聞こえた。


「みんな、ちょっと落ち着いて。少し話し合いましょう!」


声の主は篠原彩芽だった。クラスが少しの間静寂に包まれた。


「ちょっと聞いてほしい。今回の試験で私たちは協力して他のクラスを倒さなければならないわ。お願い、みんなの力を貸して欲しいの」


おお、よくぞ言った篠原。お前なら何かしら行動に出ると思っていた。これならクラスもおとなしくなるだろうー…ん?

何かがおかしい。あ、これダメだ。余計にクラスの雰囲気を悪化させてしまった。


「じゃあ篠原は何かいい意見でもあるってのかよ」


「どうせ自分の為なんでしょ」


など、全員の不満の的が一斉に篠原に向く。そしてどんどん小さくなっている篠原を見てさすがに惨めみ見えてきた。だがその時、あたかもタイミングを図ったかのように一年生の教室棟及び廊下に放送が流れてきた。


『一年生の皆さん、こんにちは。私は今年度アカデミー生徒会長の柊木舞です』


いきなりの放送による会長の挨拶に意識が引っ張られる。



『私からは今回一年生が行う、クラス大対抗戦線について説明します。

 この実践型試合は、ASD端末を使用してスキルで戦うものです。

 また、この試合は四日間かけて行います。

 まず、この試合を行う際、四〜五人程度のグループ同士で戦い、勝敗を決定します。

 勝利したクラスには、通常夏休みと呼ばれている長期休暇を一週間延長します。

 この試合では、どんなスキルを使っても構いませんが、不正は許されません。

 仮に不正者が出た場合は、そのクラスを失格とみなし、長期休暇はは全て補習に使われます。

 スキルは公式から出ているものを購入してください。

 私からの説明は以上です。

 皆さん、全力を出せるように頑張りましょう』



その後、クラスの中でこの試合について文句を言い出す人物がいなかったのは言うまでもない。クラスを再び覗き見ると一気に重かった雰囲気が変化していた。頃合いだろうと思い、教室に入って自分の席に着く。


「もう、どこいってたのよ。ばか」


自分の机に着く前に、篠原のそんな声が聞こえた気がした・・・──。



***



あれから数時間後、1ーAによる作戦会議がようやく始まった。みんなは改めて地図が記載されているホログラムを見ていた。


「改めて、私は笹倉蒼(ささくらあおい)。

 これから第一回試験会議を始めるわ。

 今回の勝利条件は他のクラスの人たちをASDで倒すこと。

 つまり、私たちがどう動くかによって勝敗が変わってくるわ。」


「とりあえずどうやって倒すかを話し合うべきじゃない?」


「じゃあその話題について話し合いましょう。」


「そうだな、グルーピングはどうする?」


彼は陽基和哉(ひろもとかずや)。クラスカーストで真ん中くらいにいる、いわば中立の位置にいるやつだ。大翔が初めに見ていたやつである。


「じゃあ、このクラスは全員で30人だから、各5人ずつ好きなペアで組んでもらえるかしら。」


そう言うと、みんなは席を立ちグループを作り始めた。

あ、終わった。瞬時にその言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡る。大翔には友達と呼べるようなやつはいない。いや、否!否である。一人いるじゃないか。あいつ、そう篠原が!

そう思い、目線を篠原の席へ向ける、が篠原の周りにはいつの間に友達ができたのだろう、すでに四人のチームメンバーが揃っていた。


「ねぇ、夜桐くん。あなたは友達がいないのかしら。」


「別にいてもいなくても篠原には関係ないだろ。それに、俺は一人でいることが好きなんだよ。」


「そう。せっかく私たちのグループに入れてあげようと思ったのだけど、どうやら必要ないみたいね。」


そういうと彼女は立ち去ろうとする。周囲を見ると、クラスメイトが冷めた目で大翔を見ていた。どうやら、俺は何か失敗したらしい。


「分かった。そこまでいうなら入ってやる」


「人が入れてやろうって言ってるのになんで上からなんでしょうか」


彼女の顔を見た。表面上では笑っているが、目は笑っていない。しばらくの沈黙の後、


「わかりました、入れさせてください」


「よろしい、最初っからそう頼めばいいのに」


こうして不本意ながら篠原のいるグループに入ったのだった。



***



その後、クラスでは各個々のグループで作戦を練り始めた。大翔たち一行は教室を出て、ディスカッションルームへと向かう。


「別に教室でもいいんじゃないか?」


「いやだって、なんか聞かれたくないでしょ」


よく分からないが、まあいいか。ちなみに、5人のうち2人は大翔と篠原。他の3人はそれぞれ、姫乃結衣ひめのゆい如月月華きさらぎるか富崎晴翔とみざきはるとである。


「なあ、大翔」


さっき自己紹介を済ませたばかりだというのに、よくそこまで気軽に話すことができるな、と半ば感心しながらも、その後の続きを待った。


「後で食堂行かね? 教室に行く前に食堂のメニュー見たんだけど、めっちゃ美味そうな料理がいっぱいあったぜ!」


特に断る理由もなかったので、その誘いに乗ることにした。


「別にいいけど・・・」


ふと、時計に目をやる。時刻は午前十時三十分。まだ昼食には早い時間帯である。続きを発しようとしたところで月華が口を挟んできた。


「晴翔、それより先に作戦会議だからね」


「わかってるよ、いちいち口挟まなくていいって」


その余計な一言によって、表面上の喧嘩が始まった。

        

そんな喧嘩を尻目に、結衣がくすくすと笑っていた。どうやら、彼女の話によると、晴翔と月華は幼馴染で、よく喧嘩をしていたらしい。ふと、このグループが気になり三人の生徒検索を行ってみると、それぞれ判定はA、B、Bであった。悪くはない、このグループはバランスが取れている。もしかしたら、何かコマとして使うことができるかもしれない。そんなことを考えているうちにディスカッションルームへ着いた。


「さて、今日の議題よ。とりあえず、端末の資料に目を通してくれるかしら」


各々資料に目を通す。資料には基本的なルールの他に『スキル』についての説明が書かれていた。突然結衣が口を開く。


「このスキルってうちらが好きに買えるんだっけ?」


「そう、それこそが今日の議題よっ!」


そう言うと同時に篠原がバンっと机を叩き、勢いよく立ち上がった。


「スキルはね、基本的にスキルカードの購入して私たちが装着しているデバイスASDに読み込ませることで使うことができるわ。当然スキルカードを購入しなきゃいけないけど、そのカードを1回端末に登録するだけで自由に使うことができるようにできているの」


もちろん、現代の日本の生活の中でスキルはありふれているため、念の為の確認であった。


盛り上がっている女子グループを尻目に、大翔と晴翔は早くも昼食の話に片足を突っ込んでいた。(半ば強引に話を持っていかれただけなのだが)


そんな晴翔の昼食の話を軽く受け流しつつ、大翔は別のことを考えていた。というのも、彼が三年間で果たさなければいけない任務は、アカデミーの内部事情と深く関わりがあるからである。



***



スキルというものは、西暦二◯五〇年頃にとある研究者が開発した旧式ASDによって世界に普及した。昔は家事や仕事などといったものは全て手作業で行わなくてはならなかった。だが、スキルが普及した今となってはスキルを利用すればなんでもできる。ASD、(正式名称はアーム・スキル・デバイス)を用いて使うスキルは、魔法、というものとは少しかけ離れている。スキル、というのは近代科学が生み出したものである。とはいえ、スキルは光の粒子(光子フォトン)から生まれる波長から、幾つもの異なるエネルギーを分散させるというところまでは解明されているが、その先は未だ解明されるまでには至っていない。よって、結局のところスキルも魔法と同じようなものだと言わざるを得ない。また、タキオン(虚数の質量を持つ仮想的な粒子)のエネルギーも組み込まれている。その謎のエネルギーを圧縮し、形質そのものを変化させ、コードという構造式に置き直したものを現代で使われているASD内で再び展開することでスキルというものを発動できる。今現在、スキル研究者によって公式に使用を許可されているものが一般市場に出回っている。しかしながら大翔が開発してしまったAADというものはその研究者らよりも数段階先を行くものである。AADはその圧縮されたコードをさらに分解させることで、新たな非公式のスキルを作り出しているのである。だが、これは大翔を含めた公安スキル特捜部のみにしか使用を許可されていない。というのも、こんなものが出回ってしまっては世の中をさらに混乱に貶めるだけだからである。



***



「夜桐くんは、この意見どう思う?」


考え事に夢中になりすぎて全然聞いていなかった。だが、ここで聞いてないなんて言ったらどんな目に遭うかわかったものではない。しかし、嘘をつくこともできない。大翔は仕方なく聞いていなかったことを告げ、彼女らに呆れられながらも丁寧に説明してくれたのだった。

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スキル至上主義高校と偽りの権力者 〜国家権力者の一人となった少年は永闘アカデミーで世界の理を覆す〜 白凪伯斗 @Shiranagi01

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