第4話 クラスの対立とチュートリアル試験 ①
1ーAに着くや否や柊木に背中を押されてしまった。それを当然避けられるわけもなく、教室の中に入った。さっきまで騒がしかった教室も一瞬にして静寂に包まれる。そこにタイミングよく担任も入ってきた。
「よし、これからLHRを始める、と言いたいところだが、転校生を紹介する。さっきの始業式にはいなかったがお前たちのクラスメイトの一人だ。夜桐、自己紹介もう終わったからここでよろしく。」
まさかいきなり話を振られるとは思ってもみなかった。すっと横目で教室の外を見ると舞が大笑いしているのが見えスキルで牽制しておく。
「初めまして。さっき始業式には訳あって行けなかったけれど、(本当は代表としていたんだが)俺は夜桐大翔と言います。これからよろしくお願いします」
とまあ、学生にありがちな何も面白くない自己紹介をし担任に言われた席に座る。生徒がまた話し始めるが、先生の咳払いで再び教室に静寂が訪れる。
「お前たち、私は今日からここの担任になった 時咲凛(ときざきりん)だ。これからアカデミーについての説明をする。その前に確認して欲しいものがある。全員端末を出してくれ」
皆が一斉に端末を出す。
「この端末の各個人IDだ。これはこのアカデミーの身分証明証となるものだ。文字表記はID:A⚪︎⚪︎⚪︎I⚪︎⚪︎⚪︎の形になっているはずだ。確認してくれ」
時咲は自分のIDを出しながら説明する。クラスメイトは興味津々と言った様子で眺めている。大翔も自分のIDを確認する。しかし、今はそんなことはどうでもいい。大翔は時咲の話に再び耳を傾けた。
「このアカデミーはもともと日本唯一の国家研究機関だった。
君たちがこのアカデミーに入学したのも、この研究と関わりがある。
アカデミーでは、主にスキルを利用して生活できるように教育する機関だ。
普通の高校といっても差し支えない。ただ、内容は別だがな」
ここで一呼吸おく。
「次にアカデミーのシステムに関する内容だ。
このアカデミーでは、アーム・スキル・デバイス、ASDを装着してもらう。
装着型デバイスだ。
それを付けてデバイスを起動させると『スキル』と言うものが使える。
だが、いくらスキルがあるからと言って強くなれるわけではない。
スキルの熟練度をあげることが重要だ。
この世界は君たちが知っているようにスキルでありふれている。
よってそれを行使できなければ社会的弱者になるだろう」
クラスメイトは、装着型デバイスと聞いて騒がしくなる。皆が端末内の資料に目を通していた。
「なんかかっこよくね?」
「これで俺もスキルを使えるようになるぞ!」
そんな声が聞こえてくる。一方で、
「別にそんなのどうでもいいじゃん。それよりさ、帰り際どこ行くー?」
「そうそう、ここさっきから気になっていたんだよねー」
などと言った、いかにも興味なさそうな声も聞こえてくる。
俺はひとまず端末の資料に目を通す。今アカデミーで話があったASDは、大翔が改造する前に使っていたものだ。だが今はもう数世代先をいく最先端の技術を駆使したAADというものを開発してしまっている。特に関係のない(というか、既にこの辺の知識は知り尽くしている)と思い、ひとまず話を聞くことにした。
「ASDについてはまた後で詳しく説明するとしよう。ところで、突然ではあるが初めの試験について説明する。ちなみに今回はチュートリアルテストのようなものだ、あまり気を張らなくていい。今回の試験はクラス対抗のP v Pだ。君たちにはASDのスキルを使用して、他のクラスの者と戦ってもらう」
そういい、あるマップを開示する。そのマップには様々な地形が映しだされていた。
「今回はこの場所を舞台に、それぞれのスキルを利用して戦いを行ってもらう。説明は以上だ。端末に資料も入っている。では作戦を練ってくれ」
そういうと教室から出て行ったー…。
***
残された生徒たちは改めてまじまじと映し出されているホログラムの地図を見た。そして一人の男子生徒が口を開く。
「で、作戦はどうするんだ? っといけねえ名乗り忘れてたな。俺は三枝光軌(みつえだこうき)だ。こいつを見る限り先生の言う通り作戦なしじゃきついんじゃないか?」
「はぁ?本当にこの試験を受ける気?あなた頭がおかしいんじゃないの?そもそも何で私たちがこんなことしなくちゃいけないわけ?」
いきなり教室で対立構図が出来上がってしまった。大翔は自分の端末から生徒の情報を引っ張り出した。この情報は無論アカデミーをハッキングして持ってきたものの一つだ、普通の生徒は入手できない。生徒情報には、このアカデミーに入るために行った適正検査の結果が示されていた。ここには適正判定というものがあり、基本A〜Dで表される。彼女の名前は白鳥茜(しらとりあかね)。適正判定はB。まあ、適正としては悪くない方だ。ついでに自分の適正と、舞の適正を調べてみる。舞の適正判定はアカデミーでも数少ない秀才のようでS判定だった。自分のをタップして空間に出す。ちなみにこれはパーソナルディスプレイと言って、自分しかみることができないものだ。しかし、大翔の適正判定の部分にはDと表記されていた。まあ、無理もない。大翔の実力はこのアカデミーをゆうに上回っているのだが、それを隠しているのだ。むしろ大翔にとってこの状況は最も好都合なものだろう。パーソナルディスプレイを眺めていたら、いつの間にかクラスでグループが出来上がっていた。
まずい、このままではクラスで完全孤立してしまう。ふと目を周囲に向けると大翔と同じ状況のやつが何人かいたが、すぐにいわゆる陽キャというやつに絡まれて打ち解けていた。このまま誰にも話しかけられないのか、そう考えながら時間と葛藤する。…だめだ、これじゃあただ時間を過ぎるのを待っているだけじゃないか!そう思っていると、いきなり声をかけられた。
「ねえ、君。えっと夜桐くんだったかしら、あなたはこの試験をどう見る?」
「えっと……、あなたは…?」
「あら、言わなきゃわからないのかしら?私は篠原彩芽(しのはらあやめ)よ。このアカデミーの三年生代表、篠原香織(しのはらかおり)の妹よ。」
そう聞いた途端、あぁ、と思った。確かに言われてみれば容姿が香織に似ている気がする。しかし、話し方、何というか雰囲気が少し違っている気がした。
「俺は夜桐大翔だ。そうだな、アカデミー側はただのチュートリアルテストとか言ってたが、そんなことはないだろうと俺は踏んでいる。少なくとも、アカデミー側は何か意図があってすることなんだろうな。まぁ、その『何か』が何なのかは分からないが。ところで篠原はどう考えているんだ?」
「どうやら私と同じ意見のようね。アカデミーは何かを私たちにさせたい、少なくとも私はそう考えているわ。ところでこの状況一体どうすればいいのかしら?」
目の端で教室を見ると対立構図はさらに悪化しているようだった。さっきの二人に便乗するかのように賛成派と反対派できれいにわれている。俺はさっきから思っている疑問をぶつけてみることにした。
「テストのことについて篠原の姉には聞かないのか?」
「それは…、何というか…その…。そっ、そんなことよりまずはこの教室をどうにかしましょう」
どうやら突っ込んではいけなかった話題らしい。篠原はなんとも歯切れの悪い言い方をした。
「ただ、俺はその意見に賛成できないな」
俺がそう呟くと篠原は訳が分からないという顔で見てきた。
「よく考えてもみろ。この状況で中立の立場の俺たちが首を突っ込むとさらにクラスの構図が悪くなる。そうすれば結果的に修復不可能レベルにクラスの雰囲気が悪くなって、『退学者』が出るぞ。今動くのは得策でないと思う」
***
教室を出て屋上へと向かった。ただアカデミーの屋上は生徒立ち入り禁止区域である。その途中で舞と遭遇し、さっき教室で起こった話をする。
「そのチュートリアルテストって一体何なんなんです?」
「ああ、例の毎年行われる模擬試験のこと?あれはね…各クラス対抗でやるんだけど、ASDを使用した実践型テスト、といったところかな?」
「そうですか。他に何か禁止事項とかあるんですか?」
一応その辺を聞いておく。
「いや、特になかったはずだよ。少なくとも去年までは。あ、それと、このチュートリアル試験の正式名称は『クラス
しばらく大翔と舞の間に沈黙が流れる。
「大翔くんのクラスに有能な生徒はいた?」
「篠原彩芽ってやつが見た感じ有能だと感じました」
そう言いながら、パーソナルディスプレイを開き、生徒検索を行う。篠原彩芽、彼女の適性判定はA。アカデミーの中でも割と上位の適正だ。ただ、概要に彩芽の姉である香織との関係が記されていた。
「そういえば聞きたかったんですが、篠原姉妹って仲が悪いんですか?」
「まあ、そうだね、今から3年前の出来事だよ」
舞が歯切れの悪そうな言い方をした。どうやら舞の話によるとことの発端は3年前、つまり香織のがこのアカデミーに入学した時のことだ。彼女はこのアカデミーに来る前から、もともと優秀だったそうだ。何をさせても見ようみまねで完璧にこなしていた。そんな彼女の元に永闘アカデミーから推薦状がきて入学したらしい。しかし、彩芽はこのアカデミーに入るために相当な努力をした。そして彼女もアカデミーに入学することはできたが、どんなに頑張っても香織には勝つことができず、そのことが原因でだんだんと姉妹間に亀裂が入っていったらしい。
そんな彼女の話を聞きながら、大翔は香織のプロフィールを見る。彼女の適正判定は全ての項目においてS判定だった。確かに彼女はすごい、が、もともとあまり才能が無かったのにも関わらず努力してA判定までのぼり詰めた彩芽も相当すごい。
「それだったら、なかなか情報を聞き出すのは難しそうですね」
「あんまり刺激し過ぎるとかえってクラスに協力しなくなるかも」
「いや、そんなことにはならないはず。今の彼女は姉を越そうと必死になっている。だからクラスのことに関して刺激すればもっと協力的になると思います」
「そうなのかなぁ…まあ、大翔くんならなんとか出来るかも」
「篠原彩芽、か」
何かにこの逸材を使うことはできないだろうか、と考え込んでいると、舞の端末から着信音が鳴った。しばらく話していると、私もう行くね、と言って教室に戻ってしまった。
(とりあえず俺も教室に戻るか。)
そう思い、歩き出そうとした、が寸前で踏みとどまった。アカデミーの先生が近くまで来ている。危ない、ここは立ち入り禁止区域だった。あのスキル、試してみるか・・・。というのも、このスキルは最近大翔と楓の共同作業で作ったものである。
大翔はAADを起動し、頭の中で無詠唱で発動する。
『スキルコード 0004:
自分の体が透過しているか確認してから、教室へと急いだ……──。
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