第14話 真実を知りたい

「こちら熊埜御堂ですぞ!只今ターゲット移動中、アイスクリーム屋に向かうと思われるですぞ!」


耳に当てたスマホからやたら特徴的な名前と喋り方が聴こえてくる。正直集中できないからやめて欲しい。


「こちら山根!佐藤さんがあの紫音とかいういけすかない野郎にアイスを奢っています!どうぞ」


一転、一般的な名前を持つ山根が一般的な男子高校生らしい僻みを報告してくる。陸にアイスを奢って貰ってるだと!?許せねえ!


俺、熊埜御堂、山根の三人は現在ショッピングモールに来ている。なぜかって?陸と紫音を監視する為に決まってる!血涙を流すほど悔しいがまあ百歩譲って陸と休日に出かけるのはギリギリ許せる。

しかし!しかしだ!陸はそこら辺のアイドルなんて目じゃないほどの美少女……いや性別は男だけど!

いくら紫音がみっちゃん先輩一筋だからと言っても間違いないが起こらないとも限らない! 

ということで暇そうな二人を誘って見守りにきたのである!


「おい、相ノ木!佐藤さんとオマケがそっちの服屋の方に向かったぞ!」


山根から連絡が入る。ちなみにコイツは陸のことを女の子だと勘違いしているみたいだが、あまりにも致し方ないことなのでスルーしている。

おっと2人の姿が見えて来……くっ!し、私服の陸だと!?か、かわいすぎる!これは山根が勘違いしてしまうのも責められまい!


俺は最高峰の美術品を観たときのような倒錯感をなんとか紫音への憎みパワーで振りほどきつつ、二人に見つからないよう物陰に隠れる。


「うーん、これとこれならどっちがいいかなあ?」


陸が少しオーバーサイズのTシャツを両手に持って紫音にどっちがいいかと訪ねている。デートでよく観るやつじゃん!いいな!それ俺も陸に言われてみてえええ!


「ふむ、こっちの服のほうがいいんじゃないか?」


紫音がそう言って写経のような文字がびっしりと印刷されている謎Tシャツを薦めた。ダサっ!てか誰にニーズあるんだその服!?そんなん陸に着させるな!!


「ふふふっもしかしたら似合うかもね!」


陸が紫音を気遣ってか優しく笑う。ぐっ……端から観たら美男美女カップルにしか見えん!いや実際は美男美男カップルになるのだが……ッ!


俺が嫉妬で半狂乱していると二人は隣の雑貨屋に移動し始めた。もう俺のHPは0に近いが男の意地でなんとか尾行を続ける。


「おっこんなんはどうなのだ?」


紫音が雑貨屋に並べられていた指輪を指差す。ゆ、指輪ッ!?いやさすがにそれは時期尚早……


「わ、わ、わ!さ、流石にそれは恥ずかしよ……」


陸が満更でもない感じで顔を赤らめている。な、なんだと……。

く、くう~ッ!うっ……涙が出てきた……映画研究会に入ってからというものの泣きすぎじゃない俺?


「相ノ木殿!標的が文房具店に移動中ですぞ!」


スマホから熊埜御堂の声がするけどもう無理だ……辛すぎるッ。


「すまん、二人とも……作戦はこれにて終了だ。もう帰りたい……」


ホントに帰りたい。そう言い残すと俺はグループ通話を切りふらふらとした足取りで帰路についた。


次の日、俺は昨日の報酬として山根と熊埜御堂に少々大人向けの過激な映画を差し出した後、昼食をとっていた。


「まぁ元気を出すですぞ相ノ木氏!」


「いやあそれにしても文句のつけようがないくらい美男美女カップルって感じだったな!」


熊埜御堂と山根がそう言って俺に構ってくれるが今の俺は空っぽの状態なので頭に入ってこない。FXとかで全財産溶かしたら今の俺と同じ状態になれるぞ、おすすめだ。


「その内、相ノ木氏にもお似合いの方が現れますぞ!」


「そうだな!おっそうだ相ノ木、委員長とかどうなんだよ!?」


「なに私のこと呼んだ?ってなんか相ノ木死んでない!?」


机に突っ伏してる俺の頭上からそんな会話と少し遅れて昼休みを終わらせるチャイムが聴こえた。

はぁ……部活行きたくねー。



「……。」


長めのホームルームが終わりこの前とは、うって変わって重い足取りで映画研究会の部室に向かう。行きたくないがサボるとみっちゃん先輩に何されるかわかったものではないしな……。

そんなことを自分に言い聞かせながら部室のドアを開くと


「相ノ木誕生日おめでとー!!」


パァンとクラッカーが鳴り響きヒラヒラとした紙が中に舞う。わ、びっくりした!


「ふっ……今日くらいは祝ってやってもいい」


紫音が上から目線でそんなことを言ってきてパッときた。あ、今日俺の誕生日か!


「ふぁ、あ、ありがとう?」


さっきまでの気分との落差が激しすぎて疑問系でお礼を言ってしまう。

そんな混乱している俺に陸は近づき小さなプレゼント箱を渡してきた。


「はい!これプレゼント!……喜んで貰えたら嬉しいんだけど」


「お、おう!ありがとうな!開けていいか?」


まだ若干戸惑いつつも、恐る恐る陸から貰った箱を開封する。これで中に結婚式の引き出物みたいな陸と紫音の写真付きマグカップとか入ってたら多分二度と俺はまっとうな人間には戻れないだろうな。


「……っ!」


中には木製の上質そうなシャープペンが入っていた。


「昨日、紫音に付き合って貰って選んだんだ!相ノ木は勉強が得意だし普段から使えるものがいいかなって……ええ!相ノ木大丈夫!?」


陸の言葉を聞きながら頭の中で全てが繋がった俺は、その場に泣き崩れる。よがっだ、デードじゃながっだんだ!


「ぐすっ、りぐ~ありがどな~!」


「そんなに嬉しかったの!?ど、どういたしまして!」


多分、今世界で一番喜びを噛み締めているのは俺だろう。……生きててよかった。

そんな俺をやれやれといった感じで見ながら紫音も袋を俺に差し出してくる。


「これをお前にやろう」


「ぐっ、紫音も疑って悪かった……ありがとうな!」


多分、もう一生言わないであろう紫音への感謝を口にしながら袋の中身を取り出すと……


「ってこれ写経Tシャツじゃねえか!!」


昨日、尾行してる途中の服屋で見た全面に写経が書かれてる激ダサTシャツだった。いらねえ!!


「おっ知ってるのか?お洒落だろ?」


「これをお洒落だと思うのはお前か中二病患者くらいのもんだ!」


どこで着ればいいんだこんなもん!


「あはははは!あ、そういえばみっちゃん先輩からもプレゼントを貰ってるよ!……一応ケーキが入ってるとは言ってたけど。」


視線を向けると机の上に白い箱と人数分のお皿が用意されていた。うーん99%毒物だろうな。


「異物混入系か……はたまたシンプルに毒物か……」


隣で紫音が震えながら俺と同じ結論にたどり着いたようだ。同じ発想なのはキモいが気持ちはわかる。


「うーん、今回は変な香りもしないし一応大丈夫だと思うけど……やめとく?」


陸が不安そうな顔をしながらこちらを見てくる。一応今回の主役は俺なので気を遣ってくれているのだろう。


「ははは!まあ大丈夫だ!俺も最近勝手に疑心暗鬼になって凹んでたんだけど、箱を開いてみたら勘違いだったってことがあったんだ!だから今回もきっと大丈夫さ!」


最高に幸せな気分だった俺は楽観的にそう二人に言い放つ。そう人生何が起こるか分かったものじゃないのだ!


こうして俺たちは開けてみたら意外とおいしそうなホールケーキを綺麗に三等分にして同時に口に運ぶ。おっ全然おいしいじゃん!と思ったのは覚えてる……その後の記憶はない。3人とも見回りの警備員さんに見つけられるまで床を転げ回っていたらしいのだが記憶がない。あのケーキに何が入っていたのか。後日みっちゃん先輩と会う機会もあったが、今回ばかりは真実が知りたいとも思えなかった。


               つづく

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