第13話 お前に真実はわからん

「ふんふふーん♪」


長めのホームルームを終え柄にもなく鼻唄を歌い軽やかな足取りで俺は映画研究会の部室に向かう。無理矢理先輩に入部させられた部活ではあったが、陸が映画研究会に入部してからというものの日々が色付いて見える。

そして俺はいつもの様に部室のドアに手を掛け……。


「ねぇ紫音!明日僕とショッピングモールに行ってくれないかな!?」


「ふむ……まあ暇だし構わないぞ?」


そんな会話が中から聞こえてきた。え?なにこれ夢?とりあえず自分の頬を強めに捻ってみたが痛かった……そして心はその倍痛かった。

……二人ってそういう関係だったのか?くそっ……部屋に入りヅラいっ!


「相ノ木なかなか来ないね……ホームルーム長引いてるのかな?」


「まあ今日は来ない方が都合がいいんじゃないのか?」


「そんなことないよ!……出来るだけ相ノ木とは喋りたいし。」


くっ……陸っ!こんな俺と喋りたいと思ってくれてるのか。紫音はくたばるといい。……うん、やっぱり二人っきりにさせとくのも癪だから邪魔しに中に入ろう。


「よ、よーう二人ともご機嫌いかが?」


上擦った声でお嬢様学校間違って入学してしまった一般人みたいな挨拶をしてしまう。

ヤバい滅茶苦茶挙動不審な入室の仕方になってしまった!?


「相ノ木!今日は遅かったね何かあったの?」


陸が顔をぱあーっと輝かせる。くっ……例え紫音とそういう関係だったとしても君は俺の太陽だ!


「遅かったな。今日はもう来ないかと思ったぞ。」


紫音がいつも通りいけすかない感じで俺に言う。お前からしたら俺は邪魔ものだろうがそんなの関係ない!完全犯罪ものの映画で身に付けた知識を役立てて行くとしよう。


「な、なんだ相ノ木?貴様、すごい顔になってるぞ?」


おっと殺気が漏れ過ぎていたらしい。狩りの前は冷静に……気取られないようにしないとな。


「相ノ木、やっぱり何かあったの?」


陸が心配そうな顔でこちらを覗き込む。その様はまるでフローレンス・ナイチンゲール。俺だけの白衣の天使。くっ、なんで紫音なんかと……。あ、やべ涙が出てきた。


「えっ、ええー!どうしたの相ノ木!何か辛いことでもあったの??」


陸が慌てた様子で俺に駆け寄る。今日も陸はいい香りがするなぁ。


「どうした相ノ木、いつもの発作か?」


紫音、テメエだけは許せねえ。俺の陸を唆しやがって……虚に乗じて倒す!

俺は紫音に殴りかかろうとしたが涙で視界がボヤけていたせいで盛大に転んでしまい顔を壁に強打してしまう。


「あ、相ノ木!!大丈夫!?ちょ、ちょっと僕隣から救急箱借りてくるね!!」


そう言うと陸が部室から足早に出ていく。

俺はふらつきながらも腰を床に落とした。


「本当に今日はどうしたのだ?いつもに増して奇行が目に余るぞ?」


紫音が呆れたような声で俺に言い放つ。


「ナチュラルボーン奇行種に言われたくねえよ。」


とりあえず皮肉で返しておくが客観的に見ても今日は俺の方がおかしいだろう。あくまで"今日は"だけどな。


「陸を泣かしたら、おまえを殺す。どんな手を使っても、例え便所に隠れていようともな。」


「相変わらず何を言ってるんだお前は……」


心底理解できないものを見るかのような目で紫音が俺を見つめている。もうこの際だ、全部聞いてしまおう。


「だってよ……お前ら付き合ってるんだろ……?」


「は?僕が?誰と?」


「しらばっくれるなよ……さっき明日一緒にデートに行くって言ってたじゃないか。」


もういいよ……さっさと止めを刺して楽にしてくれ。


「あー、いやお前多分勘違いしてるぞ?」


ん?一筋の光明が差してきたぞ?勘違い?

まだ理解が追い付いてないが確かに勘違いという線もあるのか!?


「別に僕は陸と付き合っていない、それに僕は光希先輩一筋だと普段から言っているだろうが?」


確かに!そうだコイツには光希先輩がいたじゃないか!!


「ははははは!そうか!俺の勘違いか!あっはははははは!」


「今日のお前は本当にちょっとおかしいぞ……」


そうこうしていると部室のドアが開いてやたらデカイ救急箱をもった陸が入ってきた。


「隣のエクストリーム・アイロニング部から救急箱借りてきたよ!相ノ木、大丈夫!?」


「はっはっはっは!大丈夫だよ陸!なんなら調子がいいまである!」


なんだ!俺の勘違いなら何も問題はないじゃないか!そうだ俺も陸をデートに誘ってみよう!紫音がいいなら俺でもいいだろう!


「そうだ陸!俺と一緒にショッピングでも行かないか?」


「ふえっ!?」


陸が大きな目をぱちくりさせている。

ふっ……これは脈あり!俺と蜜月を過ごそうじゃないか!


「ちょっ、ちょっと考えさせて貰えるかな!」


陸が恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて俯く。ええええ?なんで????

予想外の陸の反応に俺は思わず何故だ!?といった顔で紫音の方に顔を向ける。


「はあ……どっちもどっちだが。相ノ木、今のお前に真実はわからん」


紫音は意味深な感じで俺にそう呟いた。


                つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る