第12話 何の商売をしてもいいが映画だけはごめんだ
「ふっ…とうとうこの時がきたな…」
「ワクワクするね!」
「持ってきたぞ~!」
俺はガラガラと部室のドアを開け重たい段ボールを机の上に置く。
「よし!早速設置するか!!」
驚くことに映画研究会なのに今までテレビすら設置されてなかったのだが、昨年撮影した映画の脚本と紫音のリアルな演技が評価されて部費が降りることになったのだ!と、いうことで早速プロジェクターを購入し、今日初御披露目というわけだ。
「うん!何を見ようか!」
陸がそう笑う。うーんかわいい相変わらず可愛いな!毎日見てるのに見飽きる気がしない!
「カンフーハッスルでも見るか。」
いつもスカした奴だが今日ばかりは機嫌がよさそうな紫音がそう言った。おまえ本当にその映画好きだな!?
「ここは世界初の映画って言われてる"工場の出口"とかがいいんじゃないか?」
「うーん、でもちょっと味気ないよね。あ、僕らが去年の夏に撮った映画はどうかな!」
「やめてくれ…もうアレは思い出したくない…」
さっきまでのテンションから一変ドン底に落ち込んだ紫音が絞り出すように呟く。
「あっ、ご、ごめんね紫音。」
陸があせあせと謝る。ちゃんと謝れる子!偉いな!
「まあ取り敢えずなんか映してみるか。なんか棚にDVDあるか?」
一応映画研究会ということでメンバーが自由に貸し出し出来るよう棚には何枚かDVDが置かれている。
「プライマーとメメントとマルホランドドライブなら置いてあるよ!」
「なんでそんな難解な映画ばっかなんだよ!」
多分、みっちゃん先輩の趣味か嫌がらせだろう。何度も見返さないと理解出来ない映画ばかりしかない。
「カンフーハッスルなら持ってるぞ?」
「なんでカンフーハッスル持ち歩いてるんだよ…もうそれでいいよ…」
アホの行動は凡人には理解出来ないものだ。
「よし!じゃあ紫音ロールスクリーンを広げてくれ!」
「致し方ないな。」
プロジェクターを注文したときからみんなでせっせこ自作してきたスクリーンを広げる。
「折角だしポップコーンも用意しといたよ!」
陸が鞄からポップコーンを取り出す。めっちゃわくわくしてる!可愛い過ぎるだろ!?
スクリーンにチャプター画面が映し出される。
「ん、ちょっと色が薄い気がするが?」
「まあそんな高いものじゃないからな、温まってきたら色も出てくるだろ。」
「ふぁのひみはね。」
陸がポップコーン頬張りながら多分"たのしみだね"と言う。もう食べてるの!?食いしぼだな!かわいい!
「吹き替えで見るか…」
「えー!折角だし字幕で見ようよ!」
「いや、洋画ならともかくカンフーハッスル、香港映画で広東言だしよくないか?」
「おまえどちらかと言うと"吹き替えで映画みるやつは分かってない!"とか言うタイプだろう?」
ぐっ紫音のくせによく分かってやがる。
「ケースバイケースって言葉があるだろ!それに吹き替えで山ち○んとか声優の熱演を楽しむのも悪くないだろ!」
「相ノ木!ここは多数決で決めようか?」
陸がニコッとそんなことを言ってくる。そして紫音が俺側につくわけもなく字幕で見ることになった。べ、別にいいもんね!
この三人ですでに数回見たことのある映画だったので考察やら感想OKな応援上映スタイルで観ることにする。
「いや、しかしチャウ・シンチーはすごいよな監督も主演も務めるなんて化け物だよ。」
「ふ…制作と脚本もチャウシンチーだぞ。」
もうこの人、一人だけで映画がつくれるじゃん。
「ふふふ、でもなんかこう言うのいいね!大人になってもみんなで映画みたり作ったりしようよ!」
「おっいいな、一発当てれたら大金持ちだ。」
そんなことを話していると映画の中のチャウシンチーがタイミングよく
『何の商売をしてもいいが映画だけはごめんだ。』
「だ、そうだが?」
紫音がセリフに合わせる。
一瞬陸と目を合わせあった後、俺たちははっはっはと笑った。
つづく
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