第11話 君が主役になるときがきたんだ
「よし砂利ども!映画をつくるぞ!」
みっちゃん先輩がそんなことを仁王立ちで言い放す。えっ何で映画を?あ、ここ一応映画研究会か!
「映画を撮るって言っても何を作るんですか?」
「It's your call.」
やたら流暢な発音でどこかのアメリカンスナイパーの上司の様なことを言ってくる。ようするに俺たちで考えて作れってことだろう。
「で、電話なら僕が対応します!」
早速紫音が頓珍漢なことを言い出す。こいつのリスニング力ではcallの部分しか理解できなかったのだろう。
「あはは紫音、It's your call.はあなたに判断を委ねますって言う意味だよ!」
さすが陸、出来る子だ!よっ良妻賢母!
「と、いうことだ!いい作品作るんだぞ!」
みっちゃん先輩はそう言い放つとガハハと笑いつつ教室から出ていった。相変わらず本当に自由な人だな。
「映画だって!どうしようかみんな!」
「うむ、そもそも僕らは三人しかいないからなあんまり大掛かりなものは出来ないぞ?」
「部費もないしローコストで制作しないとな…」
中々状況は厳しいな…
「んー現状ヒューマンドラマとかが無難か?」
「ラブロマンスとかでもいいかもね!」
陸がそんなことを言う、ラブロマンス!?俺と陸の??それなら俺すんごい脚本書いちゃうよ??
「陸よ…3人とも男なのにどんな、ラブロマンスを作るつもりなのだ…」
一瞬混乱したが確かに陸は一応、生物学的には男だった。世の中は残酷だな。
「相ノ木、設定とか考えるの上手そうだし脚本書いてみたら?」
陸が屈託のない笑顔でそう言う。
「確かに紫音には脚本なんて書けそうにないし陸はスクリーン映えしそうだしな、よしちょっと考えてみるわ!」
紫音がギャーギャー言ってるがコイツに任せたら怪作になるに違いない。悔しいが顔だけはいいし適材適所ってやつだ。
「と、いうことで脚本作ってきたぞ!」
あれから3日間、頭を悩ませてコスト面や人数問題を解決できる脚本が出来た!…と思う。正直考え過ぎてよくわからなくなってきたから一旦二人に見て貰おう。
「おっ!どんな脚本にしたの!」
「ふっ…一応聞くだけ聞いてやろうではないか?」
コイツは何様だ?まあコイツにはキツい役を考えてるある。思い知るがいいさ。
「無響室って知ってるか?」
「あの全く音が反射しない真っ暗な部屋だよね!ジョン・ケージのインタビューで聞いたことあるよ!」
「そう!その無響室にひょんなことから閉じ込められた男の話にしようと思うんだ。」
「密室もののミステリーか?」
「いや、サスペンスチックに描こうと思ってるよ。真っ暗で音も聞こえない部屋に閉じ込められた奴の精神がおかしくなっていく過程を撮りたいんだ。」
「な、なかなかハードな内容だね…。」
「さすが相ノ木、ひねくれてるな。」
あれ?そんなに変な内容かな?
「この作品の見所は人数が少なくすむのに加えてほぼ真っ暗な画面と声だけで成立するからローコストで作れるっていうところだな!」
「無響室はどう作るのだ?」
「スーパーとかで段ボールを貰ってきてそれっぽく工作したらいいんじゃない?」
「なるほどな…しかし、僕達は演技経験も何もないだろ?そんな精神崩壊していく演技が上手く行くとは思えないが?」
「ああそこら辺は心配するな。」
「なるほど!いいアイデアじゃないか!」
「みっちゃん先輩!?」
「み、光希先輩!?」
ロッカーから現れたみっちゃん先輩に二人は目を白黒させている。
「なあ紫音、私は映画にはリアリティーが大切だと思っているのだ。」
そういいながら先輩が紫音の肩に手を置く。
「あッ、痛いっなんかチクりとしたんですが光希先輩!あ、あれ?なんか、身体が、痺れ…。」
何かしらの毒を盛られたのだろう紫音がふらついている。
「すまんな紫音、先輩と話したんだが、いい映画にするためにも、実際におまえを何日か真っ暗な部屋に監禁してみてリアルに精神が崩壊する過程を撮影することになったんだ…」
「そ、んな、ことが、ゆるさ、れるとで…」
「はーい!じゃあちょこっと紫音を監禁してくる!」
おめでとう紫音、君が主役になるときがきたんだ…
「ぐえっ…」
そう言って先輩は紫音を引き摺って何処かに行ってしまった。さよなら紫音。おまえが主演男優賞だ。
「えっ、あ、あれ大丈夫なの!?」
「悲しいけどしょうがないことなんだ…それとも陸が代わりにやってみるか?」
陸に諦めて貰うためにも多少いじわるな質問をする。
「…っ!…ごめんね紫音!僕も音源とか編集がんばるからね…っ!」
つづく
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