アフロディーテの涙〜その3
医学部の研究室は、新棟の最上階にあった。
基礎教科以外の医学専門教科については、全てこの研究室にて講義と臨床実技が行われる。
室数は六つあり、そのうちの一つが臨床心理学特能コースの部屋だ。
尚文を始めとする上級生と三名の新入生は、ここでカリキュラムに沿った授業を受けている。
ドアをノックすると、すぐに尚文が顔を覗かせた。
「やあ、よく来てくれた」
そう言って我々を招き入れ、そのまま奥に進む。
室内はかなり広かった。
四方には、医療器具の見本や関連書物の入ったキャビネットが並んでいる。
一番奥の講義机に、白衣を着た女性が座っていた。
我々の存在に気付き、軽く会釈する。
黒髪のショートヘアに、色白の肌。
妖艶な美貌は、遠目からでも息を呑むほどだ。
全身から放たれるオーラが、耽美な香りとなって匂ってくるようだった。
帽子を被っていない姿を見るのは初めてだが、間違いなく例の女性である。
「こちらが、雅氷見子君だ」
尚文の紹介を受け、その女性──氷見子は、再び頭を下げた。
「こっちが話していた、【異常心理学研究会】の面々だ。今回の件で、色々力になってくれるらしい」
尚文の言葉に、我々も一人ずつ自己紹介する。
特に関心も無さげに、氷見子は挨拶を返した。
「さっそくで恐縮なんだが……」
私は前置き無しで、氷見子に話しかけた。
「君は、自律神経に何か問題を抱えているだろうか?例えば、【
「ちょっ、ポー!いきなり何を……!?」
慌てて、言葉を遮ろうとするクイーン。
尚文とドイル、クリスも驚いた顔で私を見る。
私はここで初めて、カフェテラスでの出来事を話して聞かせてた。
「……だからって、何でもかんでも精神疾患と結び付けるのは不謹慎よ!」
あの時予想した通りの言葉が、クイーンの口から飛び出す。
「本当にごめんなさい。この人の悪い癖で……」
そう言って、クイーンが頭を下げる。
「そうだよ、ポー!こんな、キレイ……いや、優秀な人がそんな訳ないだろ!」
続いて、ドイルも私を責め立てる。
ただその根拠が、彼女の容姿に起因しているのは明らかだった。
「あなたは間違っています」
最後に氷見子が、私に向かってポツリと呟いた。
特に気分を害した様子は無い。
「だ、だよねー!ホント、コイツ、無神経なもんで……」
両手を振りながら懸命に弁明するドイル。
それを見ていたクリスが、後ろで呆れたように首を振った。
「いえ、そうではありません……あなたの提示した疾患名が的確ではない、という意味です」
氷見子が、私の目を真正面から見据えて訂正した。
その言葉の意味が分からず、クイーン、ドイル、クリスが思わずポカンとする。
「私の正確な疾患名は……【
室内が、刹那の静寂に包まれた。
屍鬼街〈モルグ〉はまだ眠っている*S2 マサユキ・K @gfqyp999
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