棺桶の中には何がたまる

からっぽ

目が覚めると俺は真っ暗な箱の中にうずくまるような姿勢で横になっていた


えっと…俺は…


今までの記憶を思いだしてみる


そうだ…仕事終わりに居酒屋さんでお酒を飲んで…


そこからの記憶がない


俺は一体どうしてこんなところにいるんだ…?


真っ暗で何も見えないので、箱の中を頭から足の指のつま先までの体全体で確かめてみる


今いる箱は大人が横にうずくまってようやく入ることができそうなくらいの大きさだ


寝返りができるくらいのスペースしかない


足が触れている壁に空気口のような小さな穴がある丸い突起物があることがわかった


大人がぎりぎり入れるせまい箱の中だ


俺は箱から出るために狭い箱の中でなんとか転がって仰向けになり腕で箱の上部を思いっきり押してみた


「っく、だめだ…びくともしない」


俺の力ではどうやら開かないらしい


それなら横はどうなのかと押してみるがこちらもびくともしない


まずいこのままでは!


せまい箱の中で俺は大きな声で助けを求める


「だれかいませんか!閉じ込められています!助けてください!」


…返答はなかった


どうやら、まずい状況らしい


自分一人で解決しないといけない状況だと絶望した時、希望の声が…


「聞こえているよ」


見知らぬ男の人の声が聞こえた


自分以外に人がいた!


よかった、助かった


「すみません…酔ってこの箱に入り閉じ込められてしまったらしく…お恥ずかしながら出るのを手伝ってくださりませんか?」


箱の外の相手に聞こえるように大きな声で俺は聞く


答えは肯定でも否定でもなかった


希望の声は絶望の声へと変わる


「俺があんたを閉じ込めたんだ」


…?



…!


俺は自分で入ったのではなく閉じ込められていた


助かると思われた状況がより深刻な状況になってしまった


事故ではなく事件だ


驚いていたからなのか恐怖なのか、それとも両方か、俺は声が出せなかった


それを察したのか外の声が話しかけてくる


「俺は依頼されたからやっているだけだ。つまりおまえは身近な誰かに恨まれていたってことだな」


男の声は俺を馬鹿にするように、あざ笑うような言い方で話した


「お…おい頼む…ここからだしてくれ!愛する妻や子供もいるんだ!」


俺の悲痛な叫びに外の誘拐犯は答える


「うーん、このままじゃつまらないしなあ。あ、そうだ!君が今どこにいて誰に恨まれていたのか当てられたら出してあげる」


その声は笑っていた


まるで新しいおもちゃを見つけた子どものように


自分の命をおもちゃのように扱う誘拐犯


額や背中が汗で濡れていく


ここで冷静にならなければ俺は家に帰ることができない


「よし、わかった。絶対に出してくれるんだな?」


誘拐犯は答える


「うん、約束しよう。ただし、3分間だけだよ、待つのは苦手なんだ。

あ、その間は何回も答えていいよ。正解か不正解か教えてあげる。」


どうやら命のタイムリミットは三分間だけらしい


三分でこの場所と依頼した人を当てる…


三分…


無理だ…


少なすぎる…


なんとか時間を稼がないと


「始める前に…ヒ…ヒントをくれないか?この場所についてのヒントをください!お願いします!」


俺はできるだけ時間を稼ぐため始まる前に外の誘拐犯にヒントを求めた


「早速ヒントを求めるなんてダサいことするなあ。うーんヒントかぁ。」


よし、外の誘拐犯はヒントを考えてくれているようだ


考えている間に場所を当てることを先に考えることにした


箱の外…箱の外…


俺は目を閉じ耳に全感覚を集中させる



水のようなものが滴る音が聞こえた


それに箱の中はなぜか湿っぽさがあった


川から近いところなのか…?それとも下水のようなところなのか?


そうこう考えている時に誘拐犯が口を開く


「ヒント!君はここに何度も来たことがある。我ながらいい感じのヒントだね。」


なんども?なんどもだと?


「じゃあいまから三分ね。よーい、スタート。」


俺の命を懸けた三分が始まった


「俺の家から近い川の河川敷!」


「ざんねん!ぶぶー」


水が関係している場所…


「じゃあ海だ、海のちかく!」


「ちがいまーす」


「俺の家の近くの森か!昨日はたしか雨だった!そうだろ森だろ!」


「ちがうちがーう」


くそ…わからない


いやだしにたくない…


身体が、思考が、恐怖で固まっていく


答えが止まってしまったからか


「もうだめじゃん。場所くらいは答えないと。」


誘拐犯は大きなため息をつき話す


「仕方ないなあ。タイムリミットすぎたけど、君が死ぬか正解をだすかまで付き合ってあげるよ」


そういい箱の外からなにか音がすると足の方から水がでてくる


「君がおぼれて死ぬまでね。」


足の先にある空気口から水がでてくる


誘拐犯は俺を溺死させるつもりらしい


その水は冷たくなかった


むしろ温かい


そこで俺は気づく


どうして今まで気付かなかったんだ


「風呂場だ!風呂場の浴槽の中なのか!」


俺は大きな声で答える


「まあさすがにね、さすがにわかるか。正解だよ。」


ジャブジャブとお湯が背中を濡らす


「はいじゃあ次だよ。君は誰に殺されそうなのかな?

あ、僕は他人だし僕も君のこと全然知らないから僕じゃなくて依頼者を当ててね。」


俺を恨んでいる人…?


何人か思いつく


俺は思いついた人間を答えていくことにした


「会社のクソ上司か?俺を邪魔だと言っていたのを聞いたことがある!

仕事も押し付けてくるクソ上司だろ!」


「ちがうよ」


「じゃあ同期の男だ!俺が昇給する話をどこからか聞いて嫉妬したんだろ!」


「ちがうちがう」


答えている間もお湯はジャバジャバと音をたてて、たまる


「君は相当会社でストレスが溜まっているみたいだね。」


外の声は笑っている


まずい、もう浴槽の半分がお湯で埋まってしまった


俺はぎりぎりまで息をするために頭をできるだけ上へ上げる


すると、誘拐犯は小さな声で口を滑らせた


「そのストレスをほかの人に当てちゃあだめでしょ。ひどいなあ。」


ストレスをあてる…


そこで俺は気づく


ここが俺の家ならなぜ誘拐犯は家に入ることができている…?


もしかして…


妻…なのか…?


それだとすべて納得がいく


俺は日常的に妻に暴力をふるっていた


暴力をふるたびに俺は謝りあいつは許してくれた


あいつなら理由にも納得がいく


あいつは心の内に復讐心をためていた


「俺を殺そうとしているのは【俺の妻】だったのか…これは復讐…か…」


仕事のストレスのはけ口にしていても愛していた妻からの復讐


怒りではなく後悔が俺の心にじゃぶじゃぶとたまる


「君は酔っぱらって帰ってきてお風呂で事故死したことにするからね」


…!


「ちょっとまて!答えたぞ!答えを出したぞ!おい!」


俺の答えに誘拐犯は答えなかった


こいつは最初から出す気がなかったのか!


お湯が頭の半分を埋めたとき


外から声がした


「おじちゃん、おかあさんを助けてくれた?」


それは愛するわが子の声だった


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棺桶の中には何がたまる からっぽ @karappo_yoru

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