同士

私学の高校に入ってからは今まで以上に図書室に入り浸った。ラノベしか読まなかった中学とは異なりジャンルも構わず読み漁った。お世辞にもいい図書室とは言えないが、クラスでも浮いていた僕にとっては要塞でどこよりも安心できた家だった。



ソフトテニス部に入ってから図書室に行く機会はかなり減ったが心の中で誇りとして持っていた。それからしばらく経ったある日、一人の女子が図書室に来るようになった。(心の中で同士と呼んでいたのでここでは同士と呼ぼう)

 同士は可愛らしい三つ編みをした女の子だった。可憐な容姿で目には常に笑みを浮かべていた。赤いコートを着ており、中学の頃僕が読み耽っていたラノベを手に取っていた。だから、『同士』だ。

 同士との繋がりは限りなく希薄だった。どちらかが来なくなると切れる関係。

互いが、少なくとも僕は同士を意識せずに図書室へ行っていた。

 だが、同士と会話を始めてできた日があった。授業で図書室を使う際、奇跡的に前に使っていた同士とうちの担任の会話に巻き込まれたのだ。阿呆みたいに単純な男子高校生である僕は同士との初の会話に舞い上がり、露骨に意識するようになった。


 とある日、小説を読もうとしていると続刊がなかった。どうやら同士が借りて行ったらしい。僕はここで個人でのファーストコンタクトを試みた。が、惨敗。キョドリ散らかし、同士に笑われる結末となった。だが、確かに繋がりを得ることができたらしい。会話は相変わらずなかったが、目が合うと会釈をするぐらいの仲にはなった。

突如、同士は来なくなった。






三年生の春を過ぎて初夏。その頃には同士のことなどほとんど覚えていなかった。だが、それらしい影を見つけると思わず目で追ってしまう。しかし、同士の特徴的な三つ編みはどこにもなかった。


部活も引退した頃、同士との関わりは突然再び生まれた。

体育祭準備期間に入り、僕のいる二類と一類の赤団で共同のダンスを踊ることとなったのだ。そこで近くを見回すと同士がいた。同士と目が合い見つめ合う。

 だが、高校生になって臆病性に磨きがかかったボッチの僕は会釈をするだけで会話なぞ行うことが出来なかった。あまりにも同士のことを僕は知らなかった。


それから同士とのエンカウントは増えた。どちらともなく並んで歩くこともあった。僕は同士にどんどん魅了されていった。妹の時にはなかった感情だ。劣情のようにどろりとしていて、同士を絡め取りたかった。そんな自分に吐き気がした。

 だけど、劣情を生み出すきっかけになった同士は劣情を紛らわすきっかけにもなった。青団の練習を待っている間、階段で二人で座った。その間は同士は歌を歌っていた。とても澄んだ、可憐な歌声だった。

 同士は予想通りと言っては失礼だが、あまり目立つ方ではないらしい。突然、階段で歌い出した同士を嘲るような笑いが響き渡ったが、僕はその発信源を睨みつけコチラを向かせないようにした。それだけしかできないが、それができたことがなにより嬉しかった。同士にだけ見えるように手拍子を取ったりもした。

 

同士は僕がすれ違う度に鼻歌を歌ってくれるようになった。僕は誰も知らない一面を見たようでとても嬉しかった。僕と同士は互いに積極的な方ではない。

 だが、精一杯、相手に認識されようと互いの前を歩くようになった。



体育祭1日目

僕は同士の姿を探した。今日にでも告白をしようかと迷っていた。同士を見ると踏ん切りがつくような気がして、同士を必死探した。

 同士はクラスの女子と話していた。僕が近くにいるときと同じかそれ以上の笑みを浮かべていてとても悔しかった。

だが、もちろん嬉しいことだってあった。僕が後輩と応援している時、同士が僕の真後ろの席にまで来てくれていた。同士と僕は互いの声に負けないようにどんどん声を張った。なんだか、とても満たされていた。

 1日目が終わり、同士に告白しようと追いかけた。だが、同士はクラスの女子と話している。結局成長していない僕は同士の友達を恐れて告白できず終わった。


体育祭最終準備日

この日は雨が降った。僕ら三年生は共同ダンスのため明け暮れていた。

ダンス中同士が髪の櫛を落とした。きっと誰も気づいていなかった。僕はダンス中にしゃがみ込む場面でこっそり同士の方へ櫛を滑らせた。

同士の手拍子が誰よりも大きく響き渡り、僕はなによりも誇らしく思っていた。


体育祭2日目

いわゆる最終日、同士と僕の席はかなり離れていた。同士のクラスの方を見ると同士と目があった。数秒間見つめ合い会釈をした。

 それからは何も起きなかった。わざわざ遠まわりで僕の席の横を通り過ぎていってくれたぐらいだった。

 さて、問題のダンス。反対の同士と手拍子を合わせて、同士の踊りは誰よりも手を鳴らした。

 赤団のダンスが終わり、青団のダンス。僕と同士は隣あって座った。かつてないほどの接近。手拍子を夢中で鳴らすフリをして同士を横目で見ると目が合う。照れ臭くなった僕は前を向き青団の応援に夢中になろうとしたがなれなかった。

 最後にはの部活動アピール。同士はイラスト部、僕はテニス部でかなり離れていた。僕は会場の喧騒をかき消すように手を叩き拳を突き上げた。


 今度こそは告白する。朝から胸の圧迫感でどうしようもなかった。大好きな読書をしようにも書き出しすら読めなかった。会話の内容は右から左へ流れ、同士に対するアプローチのみ頭を埋めていた。

 体育館前、同士を待とうと僕は首をキョロキョロしながら探していた。

同士と目が合う。僕は部活動の記念撮影をブッチし駆け出…すことが出来なかった。

同士のいつもの軽やかな足取りは重かった。まるで誰かが呼び止めてくれるのを待っているようだというのは自意識過剰だろうか?

僕は逸る感情を抑え、かばんから自転車の鍵を取り出して駆け出した。


—————————————————————————————————


2話で終わって申し訳ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 21:00 予定は変更される可能性があります

レイン あたまからから @9411

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ