第49話

 エデンズフォールのメンテナンスが明けたのは始業式の翌日のことだった。

 

「学校、行きたくないな……」

 

 いつもの憂鬱な日常が戻って来た。草太朗は次の長期休みまでの続く学校生活のことを思うとため息が止まらなかった。


 あの事件の後、草太朗は何度かエデンズフォールではない別のゲームで有栖や莉緒と交流を重ねている。もちろん奏や撫子も一緒だ。 女子二人と気楽に遊ぶなど草太朗にできるわけがない。


 とりあえず有栖たちとはそれなりに仲良くなったつもりだ。と草太朗は考えていた。仲良くなっていると信じたい。勘違いではないことを祈る。


 それに斗利也とのこともある。あのカラオケボックスでのことを考えると草太朗は気が重くて仕方がなかった。


 そんな憂鬱な思いを抱えながら草太朗は学校へ向かう。


 と、そんな時だ。学校へ行こうと玄関を出たところでスマートフォンにメッセージが来た。


 有栖からだった。


 そのメッセージを見て草太朗は固まってしまった。


『おはようがございます! 今日から新学期がんばっていきましょうね!』


 唖然としてしまった。別人なのではないかと思った。


 なぜなら草太朗は撫子を罵倒している有栖しか知らないからだ。


 しばらくメッセージを見て固まっていた草太朗だったが、とにかく返事をしなくてはと慌ててメッセージを入力しようとする。だが、なんと返していいのかわからず、悩んでいるうちにバスの時間ギリギリになってしまった。


 なので既読無視のまま草太朗は学校へ到着した。


「ど、どうしよう。怒ってるかな……」


 ビクビクしながらバス停から学校までの道のりを歩く草太朗。そんな草太朗に誰かが声をかける。


「おっはよう!」

「うひっ!?」


 草太朗はビクっと驚いて振り返るとそこには莉緒と有栖がいた。


「お、おはようございましゅ……」

「あ、噛んだ」

「う……」


 動揺していた。なにせリアルで二人に会うのはこれが初めてなのだ。一応はビデオチャットで顔は知っているが、映像と現実ではやはり違う。


 莉緒の見た目は典型的なギャルだった。日焼けした肌に色の抜けた短めの髪。一応、髪を染めたりするのは校則で禁止されてはいるが、莉緒の場合は地毛なので許されている。


 それに対して有栖のほうはこちらは純日本人と言った見た目だ。長い黒髪に黒目の美少女である。


「驚きすぎだってソウちゃん」

「その、ソウちゃんていうのは、ちょっと……」

「えー、でもそういう関係ならそういう呼び方でもそうでしょ?」


 そういう関係、というのはそういう関係である。つまりは彼氏と彼女の関係だ。


 もちろんそんな事実はない。草太朗と莉緒は付き合っていない。ただ莉緒が勝手に言っているだけのことである。


「やめなさい、莉緒。雑賀君が困ってる」


 と言ったのは有栖だった。そう、有栖だった。


 草太朗は呆然としていた。今までの撫子に「死ね」「消えろ」「しゃべりかけるな」と罵声を浴びせていた有栖とまるで印象が違うからだ。


「ごめんね、雑賀君」

「あ、いえ。大丈夫、です……」


 やはりおかしい。別人ではないだろうか。


「有栖、猫被ってないでいつもみたいにさ」

「猫を被る? 何を言ってるの?」


 驚いている草太朗を見て莉緒はニヤニヤしている。そんな莉緒に対して有栖はなんだか作り物みたいな笑顔を浮かべていた。


「あ、あの」

「余計なこというんじゃないわよ」

「は、はい……」


 一瞬、よく知っている有栖が現れたがすぐに笑顔が戻っていくる。有栖はどうやら学校では優等生を演じているらしい。


「さ、行きましょう雑賀君。遅刻しちゃうから」


 というわけで三人は一緒に学校へと向かったのである。

 

 そんな三人の姿を見ていた生徒が一人いる。


「なんで、雑草が女と……!?」


 斗利也だ。夏休み明け、いつものように草太朗をいじってやろうと企んでいた斗利也である。


 いや、いつも以上にだ。あの時の恨みを晴らしてやると斗利也は考えていた。


 たが、そうもいかないらしい。草太郎がおかしな奴らと付き合いだしたのは斗利也も知っている。学校ならあいつらもいないと思ったのだが。


「どうなってんだよ……!」


 草太郎は三人で学校へ向かい、三人で校門を抜けて、三人で登校した。もちろんその姿を周囲の生徒たちは目撃している。女子生徒と親しげにしている草太郎の姿、ではなく見目麗しい美少女である有栖と莉緒が冴えない男子生徒と一緒に居る姿をだ。


 しかもだ。有栖と莉緒は草太郎を彼のクラスにまで一緒についてきた。そうなるとそこにいる草太郎のクラスメイトたちにもバッチリ目にとまるわけだ。


「んじゃ、ソウちゃん。またあとで」

「草太郎くん、何かあったら言ってね」

「あ、あ、はい。どうも……」


 有栖と莉緒が去っていく。それを見送ってから草太郎は教室に入ろうとして視線に気付く。


「い、いや、あ、あはは……」

 

 クラスメイトたちの視線が草太郎に向けられていた。その視線を受けて草太郎は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


 

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