第48話
サイゾウは飛ぶ。サリエルを追って飛ぶ。
容赦のない攻撃が飛んでくる。それを真正面から受けてサイゾウは猛追する。
自分が何をすればいいのか正直わからない。何が正解なのかまったくわからない。
けれど、やりたいことはわかっている。やりたくないこともわかっている。
サリエルを倒さなくてはならない。けれど倒したくない。
矛盾した感情。その感情と折り合いをつけるためにサイゾウは飛ぶ。
何をすべきか。何がしたいのか。
サリエルと最初に目が合った時、サイゾウはその瞳に恐怖を覚えた。空っぽで何もない瞳に恐れを抱いた。
何か自分で自分の中身を覗いているような気がした。空っぽで、何もない、空虚で不安定な自分を見た気がした。
サイゾウは自分には何もないと思っている。人に誇れる才能も特技もなく、能力が高いとは言えない自分は何もない人間だと感じている。
誰かをうらやむこともある。そんな自分が嫌になることもある。自己嫌悪が積み重なって自信がなくなっているのが今の自分だ。
だから馬鹿にされる。だからイジメられる。強くないから、自信がないから、何もないから。
戦うための武器がないから。
戦っても負けるとわかっていてそれでも戦うなんていう勇気はサイゾウにはなかった。サイゾウは、雑賀草太朗という少年は、自分に自信がなくて臆病で引っ込み思案で、そんな自分が大嫌いな、そんな人間だ。
怖い。それがたとえゲームの中であっても怖い。恐怖がすべてを支配している。
それは今も感じている。けれど、今までとは異質な恐怖だ。
自分は間違った道を進んでいるのではないか、という恐怖である。
今の自分はこのゲームの中でおそらく最強なのだろう。レベル∞のスキルを手にした存在なのだ。
だからこそ怖いのだ。何か自分が間違ったことをしているのではという恐怖がずっと頭の中を支配しているのだ。
それでもサイゾウは飛ぶ。サリエルを追いかけて飛ぶ。
自分は間違っているかもしれない。正しくないのかもしれない。
怖い。怖い。怖い。怖くてたまらない。だからこそ目が離せない。
目を離してしまえばすべてが恐怖に支配されてしまいそうだから。
サイゾウはサリエルから目を離さなかった。だから、見失ってしまった。
羽だ。サリエルの飛び散った羽がサイゾウの視界を覆った。
攻撃を食らった。ダメージはないがサイゾウは空中でバランスを崩し地面へと勢いよく落下していく。
サリエルとの距離が遠のいていく。サリエルは空へ、サイゾウは地上へと落ちていく。
それでもサイゾウは諦めない。サイゾウは鎖を両手で握り思い切り振った。
「……捕まえた」
遥か彼方へ上昇するサリエルの足に鎖が絡まる。サイゾウは思い切り鎖を引き寄せる。
落下してく。二人は共に地上へと落ちていく。
途中、二人の体が接触する。サイゾウがサリエルを後ろから抱きしめるような形で衝突する。
そんな二人に鎖が絡まる。二人は鎖に縛られ、身動きが取れないまま地上へと落ちていった。
「……雑草、か」
結局、地面に這いつくばる運命なのかもしれない。どんなに頑張っても自分は雑草なのかもしれない。
まあ、それでもいいじゃないか、とサイゾウは暴れるサリエルを両手で抱きしめながら静かに笑みをこぼした。
勢いよく地面へと落下していく。サイゾウは地面に激突する直前でスキルを使用した。
「これで、終わり」
スキルを使用すると同時にサイゾウの体が激しい光を放つ。その光がすべてを吹き飛ばしていく。
自爆。サイゾウは自爆した。サリエルや周囲の物を巻き込んで爆発四散した。
それと同時にすべてが停止した。負荷に耐えられずサーバーが止まった。
エデンズフォールが、落ちた。
『サーバーが見つかりません。ERROR CHORD――』
世界が、停止した。
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