ダンジョン&アポカリプス
アンフリック・ケイト
第1話 微睡
俺は、多分、おそらく、少なくとも、一般的な善人とされる、まともな人間ではない。
それは何故か?
理由は、俺という人間が最終的に現状に陥った人生にある。
「これはどういうことだ?」
中に浮いた魂?、の様に、三人称視点で横になり寝ている自分を見下ろして言った。
「どうもこうもないよ」
中性的な(どちらかと言うと男の声)大人びた美声が、俺の真後ろで言った。
「これはどういうことだ?」
俺は驚いて同じ言葉を呟き、額に手を当てる。
「今この時この世界で君は、本当の意味で死を迎えるのさ」
無慈悲な言葉が冷たい声で聞こえてくる。
「これは寝落ちじゃなくて、突然死ってこと?」
俺は悲しげに聞いてみる。未練などないはずだが、後悔は湧いてくる。
「そんな物は人生、生の一部、死なんかじゃない。死っていうのは魂の終わりだよ。未練がないからこそ君は新たに始まるんだから、後悔は無意味じゃないがそこに悲しみは不要だ。」
先ほど違って温かみのある声だった。
「心でも読まれたんですか?お約束ってこと?その割には日本語のおかしな神様ですね」
ただ、この質問で意地悪な声に変わる。
「物分かりがいい割には無礼なんだね」
「これは失敬、物分かりが良かったら無礼な事なんて言わないと思いますけど。それでどうして、俺は本当の死なんか迎えてしまったんでしょうか?」
わざとらしい言い草で俺は自虐した。
「それはね、君の魂がこの宇宙から無くなって、別の空へ消えてしまうということさ。」
美声がわざとらしく響いた。俺にはそのように聞こえた。
「そうですか。はぁ、そろそろ姿をお見せしてもいいのでは?悪魔だかなんだか知らないですけど、それに病室はこんなに天井高くないですよね?」
俺は面白くなさそうに言い放った。
「そうだね、と言っても僕は姿形なんてものはないんだけどね。」
美声もまた、面白くなさそうな声色だと感じた。
「僕?ということは、さらに高位な方のしもべですか?主人様はどのようなご用件で貴方様を使わせたんでしょうか?」
俺はかなりめんどくさそうに吐き捨てた。
「やっぱり、物分かりがいいね!無礼だからもう少し遊んであげようと思ってたのに!これに懲りたら敬意だけじゃなく礼節も持つんだよ!」
俺は心底嫌そうに黒い球を見た。黒い球は心底嬉しそう(俺にはニヤついてる様に感じる)に俺の方を向いている。
「さて、君のいうとおり我が主人の用件を伝えるよ」
とてつもない恐怖が俺を襲いかかってきた!
この言葉に俺は平伏し、黒い球は震え、俺はそれに応えて、恐る恐る頭をあげる。
「大事なことだから何度も言うけど、物分かりがいいね。俗に言う神、世界そのものは異世界との誓約に応じて僕を選ばれし者に使わした。君は選ばれた!理由はこの世界に対する未練が何一つないからだ。誇っていい、そんな人間は君だけだ」
俺は黙りこんだ。
「未練がない、つまりはこの世界にご縁がなかったってことだ。そこには憎しみも愛もない。そんな君を誓約でこっちの世界から拝借して、あっちの世界に結びつける。やったね、異世界にご縁ができるよ!僕はその下準備に来たのさ!何か質問は?」
俺は震え声で喋る。
「……下準備の内容も聞かせてもらえるんですよね?それと、私は何者かに召喚されたとして、それは私には何か益のある儀式なのでしょうか?それとも、私は、あなたのご主人様の物として与えられるんでしょうか?」
黒い球がここで喋り出した。
「お〜鋭いね!大抵の鈍チンは問答無用で何か与えられたり、奪われると思って恐喜乱舞するけど、やはり君は選ばれる価値がある。でも、混乱?恐怖しているのか!それは減点対象だね。まあ見逃してあげるよ。ところで、何に選ばれたのか聞かないのかな?」
黒い球は球体を震わせながら言った。
「聞きません。求められてないでしょう?」
俺もまた震えながら素直に言った。
「いいね!礼はいいよ……下準備の内容も教えてあげよう!君に対する対価に当たるものがこの儀式には必要でね!それを君に与えにきたのさ!せっかくだから、対価の内容も教えてあげるよ!」
俺はまたも黙りこんだ。
「ふ〜ん、対価の内容は〜!ズバリ!神様のお使いで〜す。ここで一つ質問を許しましょう!」
俺は震えを抑えながら口を開いた。そしてはっきりと聞いた。
「それはなんでありましょう?」
黒い球は震えて言った。
「ははッ、いい質問だ!この能力はクエストさ!まずこのクエストをこなすと、それに応じた天恵、天啓、天運が君の力になる。天恵は月間クエスト、天啓は週間クエスト、天運は日間クエストでそれぞれ3個ずつをこなすとそれぞれ3個の力を得れる!日間は本能、週間は欲望、月間は感情だよ!ただ、全ては人間の得れる範囲だよ。そしてその人間の基準は君だ!……僕に言える範囲はここまでかな?いや〜楽しかったよ、お礼に一つ願いに応えるよ。三分以内にね」
それはどういうことだ⁈この神様的何かは心を読めるだろうが仕方ない。恐らくわざとだろうが日本語がわかりづらい、能力についてはよくわからなかった。ソシャゲのデイリークエストの様なものがリアルにできるということか?
とりあえず、現状の整理をして願いを頼もう……願いか、異世界に呼ばれてるということは、あちらで役に立つものがいいだろう。
俺は頭が恐怖で混乱するあまり、礼を言えなかった。それでも、頭を回して平伏して頼む。
「あっちでコミュニケーションできる様な能力を下さい」
「ふ〜ん、良いね。カリスマ性をあげよう。まあとは言ってもあっちの男の一般的なカリスマ性だけどね」
これは、どうだ……失敗したな。役には立つだろうがこれでもしも異世界に呼ばれて対話がなかった場合不味いことになる。召喚先?、がまともならいいが……。
俺の方を向いて吸い込まれそうな色をした黒い球が震えて笑う。
「そう焦るなよ。さて、ここでお別れだ。ご縁があればまた会えるだろう。」
俺の意識が遠のく。
・・・・・・・・・・・・
「ここは?……一体何が、っ」
視界が……言い表す言葉が見つからないが、人間のモノじゃない。少なくとも俺が今まで見てきた、普通の視界ではない。
何というか、ゲームの画面の様な感じだが、というよりは神秘的で、神秘的というにはゲームっぽい作り物に見える。
「……今までの異様な苦痛は何だったんだ。畜生!さっきから一体何なんだよ!」
「君は……何だ?」
「……」
俺の前に……水晶玉が浮いてる。黒い球の時は、何故か気にならなかったが……喋った?
「いや、いや、おかしいだろ……」
「……混乱してるみたいだが、その台詞はこちらの台詞だ。何故ここに人がいる」
落ち着け!俺は信じられないことに、さっきまで、神?世界の使者?に平伏してた。……ならこの状況もおかしくないはない。
「なあ、聞いてくれよ。信じられないかもしれないが、俺は世界に選ばれたらし…「今……君は、選ばれたと言ったか?」…あっああ、そう言ったけど……」
「そうか、そうか、僕の交信は……届いたんだ……。やっぱり、僕は間違っていなかった!そうだとも!僕は、やったんだー!」
……この水晶玉に人間の基準を求めたらダメだ。何されるかわからないんだから、刺激しない様にしないと。まず、状況を確認しなければ。
「なあ、君は俺が元の場所に戻る方法は知らないか?俺は呼ばれた?っていうか、わからないけど、突然ここに飛ばされたんだ。」
「あ、ああ、元の場所?御使に会う前に戻りたいなら無理だ。……君の考えていることは大体わかる、御使に会ったら混乱するのも無理はない。悪いようにはしないから、少しでも良いから僕の話に付き合ってくれ」
しまったなぁ、でも、それ以外にどうしようもない。どうしてここにいるかさえ分からないし、どうしてこうなっているかも分からない。
「……わかったから、身の安全を保証してくれ」
「勿論!……ああっ本当にありがたい!」
……水晶玉相手でも、話せば案外、何考えてるいるかわかるもんなんだな。
ダンジョン&アポカリプス アンフリック・ケイト @AufrichKeit
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