6 知識は大事、いや本当に

世界の壁の薄いこの世界には、時々近い異世界からの転移者が来ます。

転移者達はこの世界に来た時点で例外なく強力な能力、スキルを持っていました。


今からたった五十年前、あるところに一人の転移者が現れました。

その転移者は時空間の操作という強力なスキルを持っているだけではなく、スキルを抜きにしても英雄と呼べるほどに凄い人でした。

いつしかそんな転移者の周りには仲間達が集い、彼らは自らの身を危険に晒しながらも何度も人々を救っていきました。



ある時、転移者と仲間たちは異世界からの漂着物の遺跡に挑戦、その遺跡の奥で一冊の書籍を発見しました。


知性にも優れたその転移者は、書籍の文字がある異世界のものだと看破し、解読を試みると言って部屋に籠もってから……どこかへいなくなってしまいました。


数週間後、転移者の仲間達は転移者が虚ろな顔で何かをボソボソと呟きながら住んでいた街を徘徊しているのを見つけます。


なぜいなくなったのかと仲間達が問いただすと、転移者は何やら要領の得ない言葉をボソボソと繰り返したあとに、「帰るんだ」と叫んで逃げ出してしまいました。






それから数日後、なんと全ての国の王が転移者によってさらわれました。

それだけではなく、世界で一番大きな国の王様を殺し、国を結界で閉じ込めて、結界内の全員を殺されたくなければ俺を殺してみろ、などと言い出したのです。


当然、世界中の名だたる英雄が彼を殺すために集まりました。

そこには責任を感じた転移者の仲間たちもいます。

彼らならば、英雄達ならば大丈夫だと、誰もがそう信じて英雄達は転移者のもとに送り出しました。




……その後何が起こったのかはわかりません。


わかるのは、国を包んでいた結界の中が全て光に包まれて、それが止んだ頃には王族たちも、英雄たちも、世界で一番大きな国の全ての人たちも、転移者もいなくなってしまったこと。

そして、世界で一番大きな国のあった場所はとても大きな荒野へと変わっていたということです。


そこは、禁忌の大荒野と呼ばれ、今でも誰も寄り付かない不毛の土地となっています。




「……それから十年の間、世界中の王がいきなりいなくなったこと、魔物を殺して回っていた英雄たちがごっそりといなくなってしまったことが原因で二十年ほど暗黒期が続いてな。そのせいで、転移者や転移者の子孫は悪魔と呼ばれて迫害されているんだよ」


そこまで語り終えると、話を語り終えたラタさんは深く息をつく。


……なるほど、確かにそんなことがあったら転移者は問答無用で殺されますわ。

理不尽に感じなくはないけど、向こう側からすればまた同じことをされたらたまったもんじゃないわけだし。

だけど禁忌の大荒野、か。


「聞かせてくださってありがとうございます、色々とわかりました。あと、ここの近くに私が転移した巨大な荒野があるんですけど……」

「うん、あそこが禁忌の大荒野だね、君ってあそこに転移したんだ」


その返事を聞いて私はそっかー、などとふわっとした返事をしてしまう。


あそこがそんなところだったとは、人が寄り付かないなら私にとっては良いのかもしれないが、住んでいたところが事故物件だったような嫌な感じである。


そんなことを考えて遠い目をする私のことを見たラタさんは頷いて……。


「一つ提案なんだけど、私の弟子にならないか?」

などとサラリと言った。


「え?………………いや、良いんですか?」


理解が追いつかない、今の話を聞く限り転移者を匿うことはあんまり良くないことに思えるし……そもそもなぜ弟子なのだろう。


「いやだって君にはスキルがないんだろう?ここで放りだしたら死ぬしかないじゃないか。さっきの話を聞いていた反応も悪くなかったし弟子にしようかなって」

「……いや、一応帰る場所はありますけど……でもそうかもしれない……」

「だろ?」


これ以上好意に甘えるのもどうかと思うが……確かにラタさんの言うとおりである。


そもそも、詰まった状況を改善するための情報収集に調査隊を出したわけだし、転移者がここまで嫌われてるとなると他の調査隊が良い成果を出して返ってくるとは思えない。


このまま私が帰ったところで荒野でカツカツ生活を続けた挙げ句に何らかの原因でオリジナルが死んでおしまいってのがオチである。


そもそも途中で魔物に襲われて死ぬ可能性もあるし……ここでラタさんに色々と教えてもらえるなら色々と本当に助かる……んだけど。


………………よし。


「……弟子にはなりたいですけど。それなら私の素性を聞いてからにしませんか?」


決めた。まずは私がどういう存在なのかを全部明かす、これをせずに弟子になることは出来ない。


ラタさんには本当に恩を感じているのだ。命を助けてくれただけじゃなくて、今もこうして親切にしてくれている。そんな相手に隠し事は出来ない。

元々はオリジナルを危険にさらす可能性を考えて誰にも言う気はなかったが、この状況なら話は別。


もし悪い結果に繋がったとしても……私なら、きっと仕方がないと言ってくれる。私ならそう言うから。


そういった覚悟を込めて、ラタさん……師匠になるかもしれない相手の目を見る。


「……そうだね、無理に話さなくても良いが、確かに弟子にするなら相手のことは知っておきたい。聞かせてくれ」


その思いが伝わったのか向こうも真剣な顔でこちらに向き合って私の話に耳を傾けてくれた。



なら話そう、今までの6日間、短くとも濃い複製としての人生の話を。

「私は、転移者の記憶と人格はあっても転移者じゃない。それは転移者のスキルで転移者を複製して作られた存在だからなんです。私が生まれたのは6日前……









……そして今に至ります、これが私の素性です。……それで、弟子にしてもらえますか?」


全てを語り終えた私は、心臓が早鐘を打つのを感じながら願うようにラタさんの返答を待つ。


ラタさんは私の話に少し驚いたような顔をしたまま、何かを考え込んでいて。

……突然、何かに気がついたかのように顔を青ざめさせて質問をしてきた。


「ひ、一つ聞かせてくれ、複製の子達は出発の時は三百人くらいいて、その食料の確保とか他にも色々とするために魔力をずっと使い続けているんだよな?」

「え、えっと。そう……ですけど」

「………………ま、まずい、まずいぞ。あんな、泣いて死にたくないと言ったような少女達がこのままだと三百人以上が死ぬ?それは、それはだめだろう?」


私の返答を聞いたラタさんはさらに焦ったような顔でブツブツと何かを言い始め。

そんな頼りになる相手の変化に混乱していた私はその言葉の中に聞き捨てならない言葉を聞いてしまう。


「……えっ…………し、死ぬ!?それはどういう意味なんですか!?」


みんな死ぬ、それらしきことをラタさんは言った。せっかく希望が見えてきたところなのに。そのことに私はひどく動揺してしまう。


そんな私の泣きそうな姿を見て、ラタさんは突然立ち上がり、あちこちから物を引っ張り出して机の上に色々と並べだしながらも私に説明をし始めた。


「……魂には魔力を生成する魔臓という器官がある。詳しくは省くけど、短期間に魔力を使い続けたりするとそこにダメージが入って魔力が回復しなくなるんだよ。個人差はあるけど……君から聞く限りはもうすでに」


「そんなっ……」


その言葉を聞いて、どうすればと泣きついてしまいそうになる。

それを抑え込みながら、


今、ラタさんは動いていてくれる……きっと、私たちを助けるために。

だってのに、それを感情に任せて泣きついて邪魔をするなんてしてはいけないのだ。


だから私が言うべきことはっ……。


「何をしてでも恩は返します。なんでも言うことを聞きます。助けてください!」


「……わかった、助けよう!今から魔臓を治す薬を作る。私の指示に従って手伝ってくれ!」


そして私は集中をしてラタさんの指示を待つ。

お願いだから無事でいてよ、私たち。

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複製少女達の異世界攻略 〜複製スキルで自分を複製してハードな異世界を攻略する〜 @harki

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