第5話 やっぱりロリコン魔王
「ぐはあああああ!?」
死神の体が後ろへ吹き飛ばされる。なぜなら――この俺が駆けつけて攻撃したのだからな。
「えっ……!」
その場でしゃがみ込んでいたあやかが驚いている。まあ、当然か。コンビニ店員であるこの俺が助けに来るとは思わなかっただろう。
コンクリートの地面に引きずられ、倒れ込む死神。すぐに立ち上がると、俺のほうを強く睨んでいた。
「くっ……てめえは一体!」
「相変わらず下級の死神は、ちっぽけな人間の魂を奪って出世しようとしているのか。とんだ笑い者だな」
「だ、誰だか知らねえがてめえの命も奪ってやる!」
「ふん……少女よ、そこの電柱に隠れてろ」
俺の言われた通り、あやかは側にあった電柱へと隠れる。死神が鎌を強く持ち、こちらに向かって薙ぎ払う。そのちんけな攻撃……!
「なんだ、その目に止まって見えるような攻撃は」
武器が至近距離までやって来る直前、俺は右拳を軽く大外に払う。次の瞬間、相手の持っていた鎌は粉々に砕け散った。
「なっ……!?」
腰を抜かして膝から崩れ落ちる死神。俺は奴を見下ろしながら、不気味な笑みを見せた。
「お前がこれまで奪った魂を返してもらおうか」
「なぜそれを! て、てめえはまさか――暗黒界の!?」
「何を言っているか分からんな。俺はそこら辺で働いているただのコンビニ店員だ」
「くくく、いいのか? お前は今、他の世界を敵に回したことになる。あの方がどうお怒りになるか――」
「知らんな」
死神へ右の掌を差し出すと、俺は体内の魔力を沸騰させる。次の瞬間、掌から勢いよく黒いオーラを奴へと放った。
「ぎゃ、ぎゃあああああ!」
最後の悲鳴を上げて、粉々に砕け散っていく死神。その時にはもう、奴の姿は微塵にも残らなかった。
「ふっ。こんなものか」
「あ、あの……」
電柱から少しずつ現れるあやか。俺は彼女の姿を見ながら、こう言った。
「少女、気をつけて帰れよ。そして――母親にたくさん甘えてこい」
俺はそう言い残すと、その場から立ち去る。彼女が固まった表情をしていると同時、こんなことを思ってしまう。
決まった! 今の俺、ちょーかっこいい! どうしよう、後でヴァンゼル達に報告しよ!
ニヤケ顔を隠しながら、暗黒界へ帰る俺だった。
・・・
翌日。俺は相変わらずコンビニバイトを務めていた。
「ネクロさん、どうしたんですか? なんだか嬉しそうですね」
隣のレジにいた高菜が笑顔で語りかける。どうやら、俺の表情は昨日の事で治っていなかったようだ。
1回咳払いすると、俺はいつもの無愛想な顔に変えた。
「なんでもない」
「えー。でもなんだか、嬉しそうでしたよ。いい事あったんですか?」
「……高菜よ、後で店長を呼んでこい」
「え、どうしてですか?」
あやかを助けた一件から、俺はある事を考えていた。もし、俺の思い描く支配計画に人助けというサービスを取り入れたら……? ふと、脳裏をよぎる。
「ちょっとな。大事な話だから、奴が必要になった」
「ふーん……分かりました。きっと、ネクロさんだからロクでもない事を考えてるんでしょうけど」
高菜の余計な一言に、俺はもう一度だけ笑みを浮かべる。
「ふっ……」
そんなやり取りをしていると、入口から客が入ってくる。正体は、あやかだ。彼女はこちらを見た途端、急に顔を赤くする。
「あの子、あやかちゃんですよね? あやかちゃん、こんにちは!」
高菜が満面の笑みを見せると、あやかは照れながら頭を下げる。
「こ、こんにちは。お兄ちゃんも……こんにちは」
「あ、ああ。よく来たな」
なぜか緊張してしまう俺。昨日の出来事があって以来、なんだこの感情は。あやかはこちらのレジまで来ると、上目遣いで呟いた。
「お兄ちゃん……こっちに来て」
「ん? あ、ああ」
レジから離れ、俺はあやかの目の前まで来た。しかし、そこまで見つめられると子供といえどドキドキするものだ。
「そのまま……しゃがんで」
言われた通り、あやかと同じ目線になるようにしゃがむ。なぜ、この少女は頬を赤く染めているのだろう。俺、なにかしたっけ。そう思った矢先、俺は衝撃を受けた。
「……えい!」
俺の額に、唇の感触。心臓が跳ねた。目を大きく開いた。その場にいた客たちが、俺たちの方へ向いた。
「……ええ!?」
高菜が白目を向きながら、声を裏返す。いや、白目を向きたいのは俺のほうだって!
俺は腰を抜かして、尻もちをついた。
「しょ、少女よ! これは一体何の真似だ!」
「あやかのお母さんね、あれから目覚めたよ……だから、いっぱい甘えた」
「は? あ、ああ」
「今のキスは……昨日のお礼だよ。お兄ちゃん、今から私のお願い聞いてくれる?」
あやかの視線はどこかぎこちない。俺は軽く頷いて、息を呑む。
「い、いいだろう」
「あやか、ネクロお兄ちゃんの事が大好き! 将来、あやかと結婚してください!」
その時、コンビニは凍った空気に包まれただろう。俺の体を強く抱きしめるあやか。高菜の泡を吹いて気絶している様子。客たちの冷ややかな視線。そんな時、もう1人の客が入口からやって来る。
「あらあら。微笑ましいわね、あなたが本当にロリコンになってしまったなんて」
後ろから聞き慣れた女の声。そこにいたのは、
「み、ミレフィーヌ!? お前どうしてここに――」
「どうしてって、あなたの働いている様子を見に来ましたのよ。それなのに、頑張っている姿を眺めようと思ってたのに、接客の裏でこんな犯罪まがいな事をするなんて悲しいですわ」
ミレフィーヌは両手で顔を隠しながら、分かるような泣き真似をしている。
「待て待て! 違うんだ! この少女が勝手に――」
「いいですわよ。側室を何人作ろうが、わたくしには関係の無い事ですから」
そう言って、ミレフィーヌはコンビニから出ていく。まずいぞ、あれは完全に怒らせてしまった! この状況を何とかしないと!
「えへへ、ネクロお兄ちゃんー!」
あやかはどうしても、俺から離れてくれない。
「だ、誰かこの状況を止めろおおお!」
魔王のコンビニ経営支配計画 カズタロウ @kazu_akatsuki
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