第4話 襲いかかる死神

 翌日。俺はヴァンゼルからの報告を待ち、コンビニバイトに集中していた。人間界の天気は曇り空に大雨。客足はいつもより少なかった。


 隣にいた高菜もレジに立ちながら、外の景色を眺めていた。


「今日はすごい大雨ですね。傘持ってきて良かったー」

「ああ、そうだな……」


 奴の話を半分聞きながら、俺は右足を床へ軽く叩き続ける。正直言って待ち遠しい、今回の犯人は誰なのか。うちの客に危害を加えることなど絶対に……!


「今日はお客さん少ないですねー。そりゃ、これだけ雨が降ってたら……ってネクロさん! 体からオーラみたいなのが噴き出してますけど!?」


 高菜に言われて気づいた。しまった、あまりに感情が高ぶりすぎて魔力が暴走していたようだ。俺は目を逸らしながら、


「お前は何を言っている。そんな事言う暇があるなら、自分の接客術を磨け」

「あなたに言われたくないんですけど!?」


 高菜が目を丸くすると、俺は店内を見ながら呟いた。


「しかし、今日は客が少なすぎてつまらんな。これでは俺のコンビニ支配計画が立ち止まるばかりではないか」

「相変わらず何を言ってるんですか。あれ……? 見てください、ネクロさん。あのお客さん、すごいイケメンですよ!」


 高菜が興奮しながら、入口を見ている。俺も振り返ると――。


「いらっしゃ――はぁ!?」


 声が裏返って、俺は目を疑った。


「やぁ。ちゃんと働いてるみたいだね」


 肌は人間と同じ。翼は見えないように隠している。


 なんでヴァンゼルがここに! っていうか頼み事はどうなっているんだ! 俺は冷や汗を垂らし、苦笑いを浮かべた。


「よ、よく来たな……」

「あれ、ネクロさんの知り合いですか? こんにちは!」


 高菜が何も疑わないような笑顔を、ヴァンゼルに見せた。


「初めまして。ネクロの親友、瀬田せた荘司そうじって言います。僕のネクロがお世話になってるね。彼、ちゃんと働いてる?」


 僕のってなんだ!? その言い方だと誤解を生むだろ!


「ネクロさん、男の人でもイケるタイプなんですか……!」


 なんでお前は嬉しそうな顔を浮かべるんだ! そうだった。前に聞いた話だと、高菜はBLなるものを好むらしい。人間界にも変わった奴がいるものだ。しかし、今はヴァンゼルに聞きたいことがあった。


「よく来たな、えっと……瀬田よ。今日は何しに来たんだ?」

「ほら、この前言ってた頼み事。それを終わらせたから、報告しに来たんだ」


 ヴァンゼルが爽やかな笑顔を見せると、俺の片眉がピクリと動く。


(ネクロス。次のターゲットは、やはり女の子だ。犯人は死神で、心が清らかな大人子供を襲って魂を食らうつもりだ)


 脳内に響くヴァンゼルの声。テレパシーで伝えてきた奴の情報に、俺もテレパシーで問いかける。


(少女は今どこにいる?)

(この時間帯だと、学校だね。死神は誰もいない帰り道を襲うつもりだ)

(了解した)


 ヴァンゼルと見つめ合っていると、高菜は首を傾げていた。


「二人共、どうしたんですか? さっきから黙って……」


 話が終わった後、俺は鼻で笑う。


「別に。高菜、今日は終わったら早めに上がらせてもらうぞ」

「あ、はい! わかりました」

 



 ・・・




 3時30分頃。横島あやかは学校が終わり、自宅へ帰ろうとしていた。誰もいない通学路をゆっくり歩き、母親の事を思い浮かべる。


「お母さん、今日も寝てるのかな……」


 いつも優しい母親が意識不明になるなんて、未だに受け入れられなかった。しかし、それでも前に進むしかない。父親は仕事で帰りが遅い。幼い弟のために、頑張らなくてはいけない。心の中で気合を入れると、あやかは強く頷いた。


「あやかはやればできる子だもん! よーし、帰ったら早速――」

「お嬢ちゃんよぉ、残念だが……今日から頑張らなくていいんだぜ」


 後ろから気配を感じ、振り返る。次の瞬間、あやかの心臓は大きく跳ねた。


「あ、あなた誰……?」


 黒いローブを羽織った骸骨。両手に大きな鎌を持ち、表情は笑っているようにしか見えない。


「見たら分かんだろ。俺はな……てめえの命を奪う死神だよ!」

「きゃあ!」


 死神が勢いよく、こちらに襲いかかる。あやかは思わずしゃがみ込むが、相手の振り下ろした鎌がこちらに来ていた。

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