第14話すれ違う二人

 俺が勉強していた時に突然、学校のチャイムが響き渡った。


(そういえばもう放課後か)


 セラねぇと楽しく話しながら勉強していたせいで時間が経っていたことに気が付かなかった。


「あら、もうこんな時間かぁ」

「あれ? 家に帰りたくないの?」

「けんちゃんと離れると思うとどうしてもねぇ……」

「っ!? ……、そ、そんなこと言って揶揄わないでよ!」

「えー、(割と本気なんだけどなぁ)」

「なにか言った?」

「別に〜、じゃあお姉ちゃんはちょっと仕事片付けてくるわ」

「はーい」


 セラねぇはヒラヒラと手を振りながら廊下へと消えていった。


(そういえば梓さんと一緒に帰るって約束したけど集合場所とか決めてなかったな。

 さて、どうするかなぁ)


 そうして考え込んでいた時、廊下からトコトコと誰かが近づいてくる音が聞こえてくた。


(忘れ物でもしたのか……)


 トントンと可愛らしいノックの音の後、勢いよく扉は開け放たれる。


「賢也君!」

「てっ! 梓さん!? どうしてここに……」


 俺がそう口走ると彼女は血走った目をして僕の方に近づいて呪詛のようなものを囁き始める。


「何を言ってるんですか。 私と一緒に帰るって約束したじゃないですか。 忘れたんですか? 私達の初めての約束を忘れたんですか? 違いますよねぇ? まさかなかったことにしようとしてます? 絶対になかったことにはしませんよ。 絶対一緒に帰ってもらいますから。 そしてあわよくば私の家に上がってもらって、そのまま色欲に溺れて私のはじめてを……」

「ス、ストーップ。 ちょっと待って、何言ってるかわからないから」

「なら私をなでなでしてください!」

「何故に!?」

「いいから早くしてください」

「ええー……」


 すでに俺の腕は彼女に奪われて頭の上に乗せられていた。


 仕方なく彼女の頭を優しく撫でると彼女は満足げな表情を見せた。


「〜〜〜♡ ふぅふぅ、もう大丈夫です。 さてそれじゃあ行きましょうか!」


 彼女は満足してくれたようで、俺の腕に体を押しつけて無理矢理歩き始める。


「ちょ、ちょっと待って。 梓さんはなんで保健室に来たの? 何か用事があったんじゃないの?」


 彼女は普通であれば俺が保健室登校ということは知らないはず。


「あぁ、それはほら。 この前賢也君と一緒に電車通学したじゃないですか」

「ああ」

「その時に賢也君の後を追っていくと賢也君が保健室に入って……」

「ストーップ! 後を追ってってどういうこと!?」

「それはそのまま気づかれないようにこっそりと……」

「……」


 この時、俺はセラねぇ以外で初めて女性に対して恐怖を抱いた。


「……えっと、もういいよ。 もう何となくわかったから」

「えー、あっ! それよりも賢也君! 駅前に新しくクレープ屋さんが出来たんですよ!」

「へー、知らなかったな」

「あーあ、クレープ食べたい気分だなぁ。 朝一人で登校したから疲れちゃったなぁ」


 その発言がどういう意味なのか、脳が理解するのを拒んでいた。


「あーあ、一人で寂しかったなぁ。 賢也君に酷いことされたってセラ先生に言っちゃおうかなぁ」

「!? ちょっと待って! なんでこのタイミングでセラね……、セラ先生の名前が出てくんだよ!」

「あれ? なんでそんなに動揺してるんですか?」

「……なんでもない。 それよりもさっきのはどういう意味だ?」


 俺が彼女を問い詰めようと肩を掴むと彼女はひゃっ♡ っと可愛らしい声をあげて頬を赤らめた。


「け、賢也君!? ここはまだ学校内ですよ。 そんな大胆な……」

「そんなことはいいから。 さっきの発言はどういうことだ?」

「えーっと、この前賢也君がグラウンドでサッカーしてるの見てたんですよ。 その時賢也君の後ろの方でセラ先生が賢也君を見つめているのを発見して、賢也君がシュートを決めたあとはすごく嬉しそうにしてたので仲が良いのかなぁと。 賢也君もセラ先生のいる所に向かって微笑みかけてたし、セラ先生もそれを見て窓の下に隠れてたしでもしかしてと思いまして。 (あれは絶対意識してるよね)」

「? 最後なんて言ったの?」

「なんでもないですよーだ♪」


 彼女は可愛らしくあっかんべー、を返すと俺の腕を強く引っ張ってきた。



「えーっとこうやって、こうすれば……はいこれで完成ですよ」

「いやー、ありがとねぇーセラ先生。 歳をとるとなかなか、今時のパソコンとかの使い方がわからなくなりましてな」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ」

「なんともありがたい限りですなぁ。 ところでセラ先生、今度修学旅行が控えているじゃありませんか。 どうです? 今回のお礼も兼ねて私がセラ先生のサポートを……」

「すみません、この後お客様が来られますからこれで失礼しますね」


 私は適当な理由を付けて面倒なハゲ教師を無視してその場を後にした。 


 ああいう誘いを受けることがあるが、大抵は適当な理由を付けてあしらうことにしている。


 この学校にはああいう面倒な教師が何人かいるが、教育実習生時代に恩がある校長先生やけんちゃんの学年主任のベテラン教師狂歌きょうか先生、若手の双葉ふたば先生など素晴らしい先生もいる。


 それになんと言ってもけんちゃんが居るため、辞めようとはあまり考えていなかった。


 少なくともけんちゃんが卒業するまでは私はこの学校から離れることはないだろう。


(今日はけんちゃんが一人で帰るっていうし、私もカフェにでも寄ってゆっくりしてから帰ろうかな〜)


 私が呑気にそんなことを考えながら中庭を眺めていると廊下を歩いているけんちゃんを発見する。


(あっ! おーい、けんちゃー……)


 私が心の中で彼に呼びかけていると私よりも白に近い銀髪の女の子が彼の腕にしがみついて卑猥な胸をところ構わず押し付けているのを発見した。


(誰? あの白猫は)


 私はあまりの驚きからか、彼らを凝視してしまう。


 けんちゃんと彼女は楽しそうに会話した後、彼女に引っ張っられる形で奥の方へと消えていった。


(そ、そうか。 けんちゃんにもついに彼女ができたんだ。 ……へ、へぇー)


 何故だか、けんちゃんが彼女に優しく微笑みかける光景が頭から離れない。


 私は何故かズキズキと痛む胸を抑えて沸々とよくわからない感情が湧き上がってきた。


(これは、……そうよ! 私は生意気にもけんちゃんに先を越されたことにイラついてるのよ。 そうよ、そうよ。 ダメよ私、二人を祝福してあげないと。 ……祝福、祝福)


 私は何故かドギマギしながら学校を出て、自分の車に飛び乗ると予定を変更して真っ直ぐ家に帰った。


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さてさて面白くなってきたところなんですが、私ごとではありますが受験が近づいてきたためまたも投稿頻度が低くなることを報告させていただきます。


楽しみにしてくださっている皆さん、申し訳ありません。

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保健室登校の僕になぜか学園の三大美女が惚れています。でも僕の本命は保健室の先生です リアム @120403

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