第10話 お風呂上がりに


やった。完全にやってしまった。


濡れた髪を適当に乾かしながらそう思う。

良くなかった。私を拒まない葉桜さんに、明らかに調子に乗ってしまったと反省する。


好き同士というフィルターが通っているからなのか、葉桜さんの反応は、嫌がっていたとはどうしても思えなかった。けど泣かせてしまったことも事実で、私が気づけなかっただけなんだろうかとも思う。


あと何分かしたら上がってくるであろう葉桜さんにどのように謝れば良いのか、どう接するのが正解なのかさっきまでの私とは打って変わって悩むことが多い。


じっとしてられなくて、部屋の中をぐるぐると歩き回る。分かっていたことだか動いても思考が上手く回るとこは無い。


「はぁー、どうしよう」


声に出したって誰も答えを返してくれない。

当たり前だが誰かに答えを返して貰えないのに、少し寂しさを感じた。


人の家で歩き回るのはやはり、あまり行儀が良くないかと、謎にそこだけ冷静になりリビングのソファに腰掛ける。もうどうしようも無いことは、他のもで気を紛らわせるのが一番。

そう考えると今日はあまり開くことがなかったスマホの電源をつける。


明るい光とともにかなり殺風景なホーム画面が表示された。

ゲームらしいゲームは入っておらず、必要最低で特に面白みのない画面だ。


そんな中でも唯一入っているアプリゲームを、暇つぶしに開く。

所謂クソゲーと言われる部類に入るのだろうか。

障害物を避けながら毛玉を転がし、どれだけ長い距離を進めるかと言う、至って単純なゲーム。


無心になることができるし、見た目以上に難しく謎にハマってしまう中毒性がある。


私の中ではかなりお気に入りなゲームだ。


とりあえず葉桜さんが来るまでの時間をゲームに費やすことにする。後のことは後の私がどうにかする。きっと。


未来の私に淡い期待を抱いて、ゲームに集中する。



「はぁ.....」


あれから十数分、上がってくる気配がしない。

さすがに少し遅い気がする。

ゲームももう飽きつつあるし、葉桜さんのことが心配になってきた。


「様子見に行った方がいいのかな」


もしや、溺れたり滑って頭を打ったりしているのではないか、しかしさっきのことが引っかかってなかなか足が進まない。


立ち上がろうとしては、座ってを繰り返す。


いや、やっぱり行っほうがいい。

何かあってからではどうにも出来ない。

やっとのことで、立ち上がった瞬間。


「さ、つきちゃん?」


ガチャっと言う音ともにショートパンツとオーバーサイズのTシャツを着た葉桜さんがドアの近くに立っていた。


「葉桜さん、大丈夫ですか?遅かったので心配で」


そう言って葉桜さんの方へ早足気味に寄っていく。

上気した頬に、まだ乾ききっていない艶やかな髪。

可愛いを通り越してえろいまである。

もちろん、頭を打ったような形跡はどこにも無い。


「顔、すごく赤いですよ?のぼせちゃいました?」


「ん、大丈夫。さつきちゃんの手きもちい.....」


赤い頬に手を添えると、葉桜さんは少しだけ目を細めて私の手に自分の手を重ね、すり寄ってくる。

人より少し温度の低い手が熱冷ましの役になったのだろう。

その行動の幼さと、葉桜さんの大人っぽさのギャップに襲われ、胸がギュッと締め付けられた。


「葉桜さんそれずるいです」


「ん、え?」


葉桜さんの頬から手を耳の方へ移動させ、擽るように触れてみる。

葉桜さんは擽ったそうに方目を閉じ、私が言っているずるいが分からないかのように聞き返してくる。

本当は分かってるくせに。


「可愛すぎますよ、ほんとに」


ギュッと葉桜さんを抱きしめる。

するとビックっと一瞬、葉桜さんの体が跳ねた。

私はそんなことは気にせず葉桜さんの肩に顔を埋めた。

葉桜さんからするシャンプーの匂いがいつもより濃くて、一瞬で満たされてゆく。


「すき」


「っ、私も好きだよ」


そう言うと、少し控えめながら葉桜さんからも私を抱きしめ返してくれる。


「葉桜さん、さっきはすみませんでした。さすがにやり過ぎだったし、調子に乗りました......葉桜さんも嫌、でしたよね」


腕に力を入れる。

言うタイミングは今だと、謝罪を口に出した。

少しだけ体が震える。


「いや、そんなことないよ.....?」


「でも、葉桜さん泣いてた」


「そ、それは恥ずかしさで頭パンクしちゃって勝手に.....」


「じゃあ、嫌じゃなかった?」


「うん」


優しい葉桜さんの声と、静かに頭を撫でる葉桜さんの手が嘘じゃないと言っているようで安心する。


「よかった、私嫌われたと思いました」


葉桜さんから離れて視線を合わせる。

バチッとあった視線は途切れることなくその距離は近ずいていった。


「んっ、」


触れるだけで、その先には進まない。

ただただ、相手をすぐそこに感じるためだけのキス。時間だってそんなに長くは無い、けれど確実に満たされるものだった。


「葉桜さん、まだ髪少し濡れてますね。私が乾かしてもいいですか?」


「え、逆にやってくれるの?」


「はい、もちろんです。それになんか恋人の髪乾かすのってちょっと憧れてたんですよね」


そう言うと「何それ」と笑われてしまった。

変なこと言っちゃったのかな?まぁでもそんなことはどうでもいいか。


「葉桜さんソファ座って、横向いてください」


そう言って手を引いて誘導すればなんの抵抗もなくソファに座ってくれる。

私は隣に座って葉桜さんの綺麗な黒髪を丁寧にタオルで水気を取っていく。

いつも手入れが行き届いていて、サラサラな髪を傷めてしまわないように、最新の注意を払って。


仕上がりは私にしては上出来だと思う。

綺麗な髪は今も健在だ。


「葉桜さん出来ましたよ」


「うん、ありがとう!朔月ちゃん」


「じゃあ、今日は少し早めに休みますか?今日は午前から結構動いてたし、疲れ溜まっちゃ良くないですよね」


「えぇっ?もう、ねちゃうの?」


「?何かしたいことありましたか?」


「い、いやそうゆう訳じゃ.......」


なんだろう。何か言いたいことありそうな感じするんだけど、大丈夫なのかな。


「そうですか?じゃあベット行きます?あ、でも来客用のお布団とかあるなら私そっちでも全然寝れますよ。別々の方が広く使え、」


「やだっ!そんな事言わないで?一緒にねよ?」


「うっっ!わ、わかりました。一緒に寝ましょ」


そんなに一緒に寝たいの?ほんと可愛いんだけど、どうしよう。襲っちゃいそう。だから別々がいいかなって思ったんだけどあんなに可愛く止められたらできないでしょ、まじでこの人はぁ!


「朔月ちゃん?大丈夫?」


「へっ?あぁ!大丈夫です!ちょっと疲れたのかも」


思っても無い言葉で何とか誤魔化しつつ。

ふと、葉桜さんの顔を見ると心無しか、まだ赤いような。もしかして逆上せてたのかな?やっぱり早めに横になった方がいいのかも。


「葉桜さん、顔。赤いですよ?逆上せました?やっぱり少し早いけど横になって休みましょう」


「っ!そ、だね。寝ちゃおっか」


「??」


言葉とは反対に何やら不服そうな?


「じゃあ寝室行きましょうか」


けれど手をさし伸ばせば素直に手を握り返してくれるし、やっぱり気のせいか。


「電気消しますね」


そう言って、リモコンで照明のスイッチを切ると常夜灯の明かりだけを残す。葉桜さんはいつもこれで寝ているらしい。

オレンジの小さな明かりがぼんやりと葉桜さんを照らす。私はそんな葉桜さんの隣へ潜り込んだ。

布団にふたりで入るのは、やはり少しだけ狭いがその分密着できてこれはこれでありかもなんて思う。


「ねぇ、少しだけお話しませんか?」


提案したのは自分からでもやっぱり、もう寝てしまうなんて勿体ない。

少しだけでもお話したいと思った。そんな私を葉桜さんは抱き寄せて「いいよ」と許可を出してくれる。


どんな話かなんて、特に内容がないほんとにただの雑談。けれどそんな時間が愛しくて、終わって欲しくないとも思う。けれど、どこか少なからず溜まっていた疲れなのか、はたまた葉桜さんの声に安心したのか、どちらか分からないけれど私は気付かぬうちに意識を手放してしまっていた。



________________

_________


体にかかる重み、その寝苦しさでうっすらと目が覚める。まだ外は暗い。夜なのだと視覚的に判断できる。


「ああっ、んっ!はっあんっ」


「っ?」


「んっふぁ、はぁはぁ、あっ!んくっ」


え、待ってなになに。何この状況?え、夢?

まだ覚醒しきってない頭で必死に考える。

なにが起こっているのだ?まさか?いやまて。

葉桜さんがそんなことするはずない。

いや、でもそれ以外ないでしょ、これ。

まさか葉桜さん、おな?いやでもそれ以外考えられない、しかも多分、私使われちゃってる?

左の太ももがやけに重いし、なんか揺れて?


「んん!っあ"ぁはあ、さつきっちゃっ、ぁ」


「っ!」


「お、ふろでっん、あんなことされたら、あぁ"がまん、でっきないよぉっ!」


「あっん、はぁ、ばかっ、ばかぁ」


段々と腰の動くスピードが上がっていく。

喘ぎ声と乱れた呼吸が鮮明になった脳に響いてくる。


「ん、んんっあ"、すきっすきっ好きぃ!さつきちゃっあんっすきっ、ああっ"も、いっくぅっ!!」


大きく身体が跳ね、しばらく硬直した後力が抜けたように私へもたれかかってくる。


「あっ、」


まだまだ整いきらない呼吸。耳元で繰り返される浅い呼吸に理性が吹っ飛ぶのを感じた。


「ねぇ、葉桜さん?」


「え、っ!!?な、んで」


突然の声にびっくりしたのか私から離れる葉桜さん。

私も布団から体を起こす。


「なんでってあんなにされたら起きないわけないじゃないですか」


「あぁっ......」


「ねえ、葉桜さんこっちちゃんと向いて?」


「い、やぁ。顔みれないっ」


情けない声にさらに情欲が掻き立てられる。


「あーあ。未成年の寝込み襲って1人で気持ちよくなるなんて、やっぱり葉桜さんって変態。ですね」


「ちが、っ」


「違うんですか?さっきまであんなに一生懸命、腰ふってたのに」


「う"ぅっ、ごめんなさっ」


「謝んなくて良いですよ。でもちょっとガッカリだなぁ」


「いつもはあんなに綺麗で、優しい葉桜さんがこんなことするなんて」


「やっ、やだ。嫌いにならない、でっ......」


今にも泣き出してしまいそうで、つっかえてしまう言葉、情けなく許しをこう姿。どうしよ、やっぱり我慢なんてできっこない。


「んんっ!?、ちゅっはぁんあっ!」


「んっはぁ。.......嫌いになんてなりませんよ。むしろどんどん好きになっちゃう。だから覚悟してくださいね?」


もう一度深く口付けを交し、さらに長い夜へと沈んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

葉桜さんとのいちゃいちゃ日記 ゆる @mikosui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ