第9話 お風呂で

その後も度々背後からの攻撃を受けながら、何とか体を洗い終える。


「ああ"あ、気持ちい"ぃ〜〜」


湯船に浸かるとつい我慢できずに口から出ていくおっさんのような声。最近はシャワーで済ませることの多かったお風呂で、久々の湯船。日々の疲れが吹き飛んでゆくようだ。


「あはは、お顔溶かしちゃってる」


「これは、やばい。ダメにな、る.....っ!」


ふと笑う葉桜さんの方をみてとても後悔する。


気を抜いてしまっていた。

私としたことが、葉桜さんの体を直視してしまったのだ。それだけで顔がとても熱くなる。


私はこれまで生きてきた中で、女性の体で興奮するなんてことはほとんど無かったと思う。なのに、好きな人の裸はどうも訳が違うようで。言うならグラビアアイドルの10割増のえろさとでも言うのだろうか。見ているだけでドキドキと、心臓がバグを訴えてくる。

その魅力的な体をめちゃくちゃにしたいと。

理性なんて気を抜いたら簡単に手放してしまいそうな程のパンチ力。


しかも今の葉桜さんは体を洗っている最中。

泡にまみれたその体はなんとも表現しがたいフェチズムが感じられる。


「あのー?朔月ちゃん?さすがにそんな直視されると恥ずかしいんだけど.....?」


そう言われてハッとする。

顔を赤くし、困ったように笑う葉桜さんを見て早急に謝罪をし、目をそらした。


「す、すみません!つい、綺麗だったので......」


「ううん、だいじょうぶ.....」


何となく気まずい。


できるだけ葉桜さんを見ないように、下を向くけれどやはり意識してしまう。


しばらくしてキュッとシャワーの流れる音が止まった。


「朔月ちゃん、お邪魔するね?」


腕で前を隠した葉桜さんは、湯船に足を伸ばしていた。

それを見て私は少し詰めるように端へ寄る。

葉桜さんの家の浴槽はけして小さいものでは無い。けれども2人ではいるのはやはり少々手狭だった。


「やっぱりちょっと狭いね」


向かい合った葉桜さんが、そういった。


確かに狭い。なら今しかない、行動に出るなら今だ。

やり返せるチャンスはここしかない。


「葉桜さん、ここ。来てください」


そう言って、足を軽く開き間に招く。


そんな私に困惑の表情を浮かべている葉桜さん。


「い、いいの?」


「はい、もちろんです。こっちの方が足伸ばせるでしょ?」


「うーんじゃあ、お言葉に甘えようかな」


そう言った葉桜さんは体の向きを変え、遠慮がちに私へと背中を預ける。

お湯に浸からないようにお団子にして束ねられた髪。普段は見えない項が今は目の前に晒されていた。


「んっ、朔月ちゃん?」


「どうしました?」


「い、いやなんでもないよ......お湯気持ちいね」


「そうですね」


ついその魅力的な項にキスを落とす。触れるだけの健全なものを。

しかし、とぼける私に葉桜さんは何も言うことは無かった。これはいいチャンスだ。


「んっ、ふっあ....んん」


何も言われないのをいいことに葉桜さんの脇腹やお腹をゆっくりと、撫で回す。

指の腹で軽く押してみたり、くすぐるような動きを繰り返し葉桜さんの反応を伺う。


「ね、ねぇ朔月、ちゃんっそれヤダ.....恥ずかしっ」


「なんで?ただくすぐってるだけですよ?」


そう言って、手を止めることなくさらに攻めてみることにする。

おへその下、いわゆる下腹部をくるくると円を描くようにしてなぞりクッと軽く抑えれば、


「んっあぁ」


ピクっと腰をふるわせ、期待通りの可愛い反応を見せてくれる葉桜さん。


「かわいいです」


「ふっはぁ、んんっ!」


自分の意思とは反して漏れ出てしまう声、それが嫌なのか口元を手で抑えてしまった。

少し残念に思う。もっとちゃんと、声が聞きたい。


「葉桜さん、すき」


綺麗な首筋にもう一度キスを落とす。今度は軽く吸ってみたり、甘く歯を立ててみたり、葉桜さんの欲を刺激するように舌を這わせる。


「ねえ、んっ!お風呂で、こんっ、なことダメだよ......」


溶けた顔で必死に体の震えを抑え、一般論を口に出す葉桜さんは全くもって説得力を持ち合わせていない。

口だけの言葉につい笑いが込み上げる。


「何言ってるんですか?一緒にお風呂入ろうって言ったの葉桜さんですよ」


「それに恋人とお風呂なんて、葉桜さんもこうなるかもって、期待してたんじゃないんですか?」


「っ!!ちが、そんなことない......」


図星をつかれたように赤かった耳がさらに赤くなり、目には涙さえ貯め始めている。


いや、エロすぎるでしょ。何がなんでも。


もう歯止めなんて聞かないかもしれない。


「説得力無さすぎません?だって、葉桜さんのココ、ツンとして固くなってる」


もう欲に忠実となってしまった私はそう言って、お腹に置いていた手で葉桜さんの胸に触れる。ピンと主張した部分を指先でつまんであげれば、


「ああっ!?んん"っはぁっあ!」


一際大きく腰を跳ねさせ、快楽に悶えてしまう。


「葉桜さん、敏感すぎ.....」


あまりの感度の良さに、さすがに心配になってくる。が、今となっては好都合。


やわく胸全体を揉み、中心を優しく弾けば、息はどんどん荒くなっていく。耳元で聞く葉桜さんの吐息はどんなものより私の興奮を誘う。


「な、んでっこんなことっ」


嫌がってるようには見えない。ただの自分を正当化するためだけの言葉。


なんとなく気に入らない。


「何言ってるんですか、葉桜さん。元はといえば葉桜さんが私を子供扱いするからですよ。それとも、葉桜さんは子供に欲情しちゃうような変態?」


「いやぁ、ちがうっ」


「どうでしょ?」


「ちが、うっもん.....」


あー、やばい。つい、意地悪を言いすぎてしまったか。

葉桜さんの目に貯まっていた涙が溢れだしてしまった。


「ううっ」


「っ、ごめんなさい意地悪しすぎちゃいました」


「わたし、先に上がりますね」


涙を流してしまった葉桜さんに罪悪感が芽生え始める。


ザバッと湯船から立ち上がり、足を外に出す。


「あっ、」


「じゃあ、あとはごゆっくり」


泣いてしまうのに物足りなさを表に出した葉桜さんを見て見ぬふりをして、私は浴室から出ていった。




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