第8話 初めてのお泊まり
今この状態は夢なのだろうか?
「朔月ちゃん。沢山食べてね!」
出来たての料理に、目の前には愛してやまない葉桜さん。何だこの絵面は。
幸せすぎるっ!
「い、いただきますっ」
目の前に広がった数多くの料理、そのどれもが美味しそうで思わず喉がなる。
しかも全て葉桜さんの手づくりだというのだから驚きを隠せない。
洋風な料理を中心に、ポトフやアサリなどの海鮮が入った冷製パスタ、ラタトゥイユというらしい様々な野菜を煮込んで作られたものなど、他にも食べたことの無いオシャレな料理が沢山並んでいる。
まさに圧巻。
葉桜さんの言葉を合図に、手を合わせ「いただきます」と声に出すと、「召し上がれ」とまるで母親のような優しい視線で見守る葉桜さん。
じっと見つめられて少し恥ずかしい。
視線を出来るだけ気にしないようにして、初めに多くの野菜とウインナーが入ったポトフに手をつけた。一口くちにすれば、優しく広がる野菜のまあみと濃すぎないコンソメの味わいに、思わず笑みがこぼれてしまう。
一本丸々入ったウインナーにかじりつけば、程よい皮の抵抗感と、それを破ると広がる肉汁がたまらない。
「どうかな?ちゃんと美味しく作れてる?」
少し不安そうに尋ねる葉桜さんに私は大きく頷く。
「はい!すごく美味しいです、葉桜さん天才」
そう言うと葉桜さんは安堵の表情をもらし、「良かった〜」と胸を撫で下ろした。
こんなに美味しいのに何を心配していたのだろうか。
暑い夏にピッタリな冷製パスタ。これも売りに出せるくらいの絶品で、パスタの茹で加減も柔らかすぎず固すぎない、まさに完璧。それに鼻を抜ける海鮮の香りがさらに食欲を誘う。
こんなにも美味しい料理を作れるなんてやはり葉桜さんは天才かもしれない。
一人暮らしだと自炊する機会も多いのだろうか。
「葉桜さんはよく自炊するんですか?」
気になったことをそのまま質問する。
「そうだね、自炊することも結構多いかな」
葉桜さんは食べていた手を止めて答えてくれる。
やっぱりそうなのか、それならこの料理の腕前にも納得がいく。
「あ、でもたまに面倒くさくってレトルトとかで済ませちゃうこともあるんだよね」
そう言ってあはは、と困ったように笑う葉桜さん。
こんなに聖母のような人でも人間らしいとこもあるんだなぁ。勝手に親近感を感じる。
「そうなんですね。でもやっぱり毎日作るのって大変ですよね?」
「そうなんだよね〜、本当お母さんって凄いなぁっていつも思うもん」
確かにまだ親元を離れていない私でさえ親の偉大さを感じることがあるのに、一人暮らしの葉桜さんは余計に思うことがあるだろう。
「でもね、今日は朔月ちゃんに食べてもらえるからいつもより頑張っちゃった」
そう可愛く言う葉桜さんにキュンっと心を撃ち抜かれる。この人は無意識に人を喜ばせるんだからっ!
「あぁ、もうほんと好き」
「えっ」
しみじみと、つい口に出てしまった愛の言葉に葉桜さんの顔がどんどん赤くなってゆく。
「ちょっと、いきなりはズルいって.....」
そう恥ずかしそうに手で顔を覆う葉桜さんに、ほんの少しだけ優越感を感じる。
してやったり、葉桜さんを見て思う。
その後も楽しく雑談をしながら他の料理も食べ進め、かなりの量があったが自分でも驚くことに全て平らげてしまった。
「ご馳走さまでした」
「はい、お粗末さまでした!」
全て食べた私に葉桜さんが嬉しそうに返事をする。
「ほんとにどれもすごく美味しかったです!毎日食べたいくらい」
「ほんと?じゃあ朔月ちゃんのために毎日作っちゃおうかな?」
本音で言う私に対して、そう笑顔で言う葉桜さん。その言葉が冗談だと分かっていてもドキドキしてしまう。
もしそんな将来が待っていたらどんなに良いものか。
「じゃあお皿洗うからこっち持ってきてくれる?」
いつの間にかキッチンへ移動していた葉桜さんへ慌てて返事をする。
「い、いや!さすがに皿洗いは私がします!!」
こんなに尽くしてもらってお皿洗いまでさせてしまうのは申し訳なさすぎる。
そう言ってお皿をまとめ足早に葉桜さんの元へ行く。
「洗剤どれ使えばいいですか?」
「え、いやいいよ私やるから。朔月ちゃんはソファーでゆっくりしてて?」
「いやいや、あんなに美味しい料理作ってくれたんですし、作るの疲れたでしょ?葉桜さんの方が休んでてください!」
半ば強引に葉桜さんをリビングへ押し返す。
最後まで申し訳なさそうにこちらを見つめてくる葉桜さんに「ほんとに大丈夫なんで」と念を押しておく。
「よし、やるか」
実際お皿洗いは親の手伝いでよくやってるし、何なら得意まである。皿洗いに得意とかあるのかわかんないけど。
料理の品数が多かったこともあり、お皿もそれなりの量があったがまぁまぁ手際よく片付けることが出来たんじゃないかと思う。
「葉桜さん、洗い物終わりました」
リビングのソファでくつろいでいた葉桜さんに声をかける。
「おつかれさま〜。ありがとうね、ほんとに助かっちゃた」
「ほらこっちおいで」
労いの言葉とともに、葉桜さんは自分の隣をポンポンと叩き、私を促す。
私は葉桜さんに吸い込まれるように隣へ移動した。
隣に座れば、葉桜さんは私の頭を自分の肩に寄せとても優しい手つきで、ゆっくりと撫でてくれる。
「偉いねぇ、朔月ちゃんは。いい子いい子」
あまりにも甘い声に恥ずかしさが込み上げてくる。子供扱いされてるのではなか?
でもこの優しさが心地よくて本能で擦り寄ってしまう。
「ふふ、甘えただ」
「っ、葉桜さんの包容力が悪いんですよ」
つい抗議を申し立てる。この包容力には誰も抗えるわけが無い。
「まぁ、そう言うことにしておくよ」
あまりにも余裕な笑みでそんなことを言う葉桜さんになんか負けた気がしてならない。
「葉桜さん完全に子供扱いしてますよね?」
「うーん、さすがに四つも年下だからね」
からかってるのか本気で思ってるのか分からない言い方に、心がムズッとする。
確かに私はまだ未成年で葉桜さんはお酒も飲める大人だ。
多少の子供扱いは仕方ないのかもしれないけど、何かそれは嫌だ。
「も〜、怒らないで?後で一緒にお風呂入ろっか」
すごく不服な表情をしてしまっていたのか、葉桜さんに両手で頬を包み込まれて、ウリウリと撫でくりまわされる。
ん?
いや、待って?今なんて言った?
「お、お風呂?」
「うん、そうお風呂。今沸かしてる途中だから、もう少しで湧くと思うよ」
なんでこの人はこんなに何でもなく言えるのだろうか?一緒にお風呂って、かなりハードル高くない?
というかいつの間に沸かしていたのだろう、全然気が付かなかった。
もうハテナで頭の中がいっぱいになる。
いや、でもこれはやり返すチャンスなのでは?
そう思ったら何故かやる気が湧いてくる。
「分かりました。入りましょう一緒に」
そう言って数分後、お風呂が湧き一緒に脱衣所へ向かう。
「やっぱり。少し恥ずかしいね」
「そ、そうですね」
服を1枚づつ脱ぐ度に擦れた衣擦れの音が耳を刺激する。すぐ後ろで葉桜さんが脱いでいるのだと、
そう私に知らせてくるかのように。
お互い脱いでいる最中なにか喋ることは無かった。
そんなことが出来るほど心に余裕がなかったんだろう。
そしてほぼ同時に脱ぎ終わり、一緒に浴室へと入る。
ちらっと見ただけでも分かるスタイルの良さ、腰のくびれに、程よい太さの太もも、そして何より大きなお胸。
もうダメかもしれない、のぼせてもないのに既にクラクラしてきた。さすがにえっちすぎる。
「じゃあどっちから身体洗おうか?それとも、流し合いっこする?」
「い、いや!さすがにそれは私が持たないので!」
葉桜さんはそのくらい余裕なの?大人怖い。
「先湯船入りたいので私からでも良いですか?」
「うん!いいよ」
図々しいかもしれないが先に湯船に入るのは作戦の一つでもある。
葉桜さんに指定されたタオルにボディーソープを出し泡立て、体の隅々まで洗ってゆく。
腕から胸の下まで、順を追って綺麗に。
「.......」
「んんっ!ちょっと!?」
ゾワゾワっと背中が震え上がる。
急に襲った刺激。慌てて後ろを振り向くとニヤニヤと葉桜さんが頬を緩ませている。
「あははっ、ごめんごめん!綺麗な背中だったから
つい」
こ、このひと....侮れないっ!
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