第7話 夏休みの予定
7月も終わりに近づき、高校生活最後の夏休みが始まった。
そう葉桜さんと過ごすはじめての夏である!
葉桜さんと私がお互いに学生で居られる最初で最後の夏休み。
この約1ヶ月間、葉桜さんと行きたいところや、やってみたいことはできる限り叶えたい。
もちろんお互いの都合もあるし、私は受験生で葉桜さんは大切な就職活動があるだろう。
邪魔にならない程度に、2人の思い出を沢山作ってこれからの将来で、「あの時はこうだったね」って、語れる日が来るといいな。
なんて、夢物語もいいところだ。
これから何があるのかなんて分からないのだから。そうだからこそ、このチャンスに思い出を沢山作りたかった。
花火ありの夏祭り、プールもしくは海とか。何もしないでただ2人、一緒の部屋で過ごすのもいい。
暑い中のデートだって心惹かれる。
夏ってこんなにワクワクするものだったろうか?
こんなにも夏が輝いて見えたのは初めてだった。
「せ〜んぱい、ニヤニヤしてどうしたんです?」
「うわっ!?ゆ、ゆあちゃん?」
不意に後ろからくっ付きに来た、ゆあちゃんに驚き、大きめな声が出てしまう。
「ちょっと、仕事中」
そう言って私のお腹の前で組まれていた小さな手を引き剥がす。
ついでに、ある人の姿をキョロキョロと確認する。うん、見られてないみたい。
「せんぱいだって、仕事中ニヤニヤしてたじゃないですか」
そう言いながら、顔は不服そうだが、素直に離れてくれる。
「ニヤニヤなんてしてません」
ウソ。多分というか絶対してた。
「嘘です、絶対恋人のこと考えてた!」
「ばっ!そんなわけないでしょ」
いやまってくれ。さすがに何がなんでもお見通し過ぎない?え、そんなにわかりやすいのかな私。
苦し紛れの嘘をつく。こういう時、咄嗟に別のことが言える頭の回転力が欲しい。
「そうですか?まぁなんでもいいんですけど」
急につれないゆあちゃんに困惑する。
いつも急に興味が無くなるのは何なのだろう。中学生の時からこの子はそうだった。
「そう言えば、せんぱいは夏休みの予定とかもう決まってるんですか?」
「いや、まだ特には」
なんともタイムリーな話題だろうか。
と言っても夏休みと言えばの話題でもあるので、何もおかしくない質問だった。
「じゃあ!空いてる日どっか出かけません?」
「え?」
「せんぱいと2人で買い物なんて数えるくらいしか行ったことないし、バイトもしてお給料貰えるようになったし!」
なるほど、どうしたものか。
少し前までの私なら二つ返事でOKと返していただろう。しかし、今は葉桜さんというかわいい、かわいい彼女がいるわけで。
この間の一件を経て、さすがに無許可で行くのは宜しくない。心配にさせてしまう。
いや、でも中学校からの後輩だし、さすがになにかある訳ないしなぁ。
どうしたものかと軽い葛藤を始める。
「せんぱい?聞いてま「こら〜!?」っ!!」
急な声に2人して肩をビクリと、震わせる。
振り向くと葉桜さんが少し頬をふくらませて立っていた。
「まだ休憩時間じゃないよ?仲良いのはいいけど、ちゃんとお仕事してね?」
優しく、そう葉桜さんは注意してくれる。
「はーい。怒られちゃったんで、また後で話しましょっ」
そう言って、他の持ち場へと逃げるように撤退していくゆあちゃん。私は葉桜さんと2人になる。
葉桜さんを見るがそんなに怒っているような感じはしない。
「すみません。仕事中に」
「ううん、大丈夫。今お客さん少ないし」
そう言っていつもの優しい笑顔を向けてくれる。
そしてこちらにコツコツと葉桜さんが近づく。
「朔月ちゃん」
「はい?」
葉桜さんの口元が耳に寄せられる。
「浮気、しちゃダメだよ?」
ビクッと心臓が跳ねる。
葉桜さんの方を振り向くと、その表情は冗談と本気が半分づつ。
やっぱりさっきの話聞かれてたか。
返事しなくてよかった。
ゆあちゃんには申し訳ないけど、少しの間保留にさせて貰おう。
ちゃんと葉桜さんと話し合って、行ってもいいと言われてから、返事をしよう。
「当たり前じゃないですか、そんなことしません」
そうはっきりと宣言する。私が好きなのは葉桜さんだけなんだから。
「あはは、そうだよね。ごめん変なこと言ったよね」
そう笑う葉桜さんの表情は安堵に変わっていった。
「そういえば!今週の土曜日、うちに泊まりに来ない?」
「え、えぇ!?い、良いんですか?」
「もちろん!今まで家に来てくれてたことはあったけどお泊まりってなかったから。どうかな?」
「ぜ、絶対いきます!」
「良かった、じゃあ土曜日よろしくね」
そう言って葉桜さんも自分の持ち場へと戻ってゆく。
急に決まった初めての予定。それがお泊まりだなんて。
どうしよう、今からドキドキしてきた。
お泊まりってことは、期待してもいいのかな?
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