第11話 あんたのため

―――――――――――18年前。少し高級なBAR。


僕が店に入るとカウンター席に綺麗な人がいた。でもどこか憂いを纏っていて神秘的で…。



『お姉さん1人?』

『…あんた誰?あんたみたいな子供が来るところじゃないんじゃない?』

『…お姉さん、俺、お姉さんに今、一目惚れした。だから俺と付き合って。』

『はぁ?なんも知らないのによくそんなこと言えるね。どうするの?私の背中に赤い目の虎がいたり腕に牡丹の花咲かせたりしてたら。』

『そんなの関係ない。お姉さんはお姉さんでしょ?俺はお姉さんが好き。だから付き合って。』


『……。』


そのお姉さんは僕の頬を支えて、

『あたし、「翠」。羽書いて下に卒業の卒って書くの』と言った。

『俺、「紫音」紫の音って書くの。』

僕もそう答えると、


翠はグラスのお酒を口に含んで僕の首に手を起きながら店員の目を盗んで口移しした。


少し驚きながらも、

『俺、まだ17』と耳元で言うと、

『そんなことだろうと思ってた』と。


『翠、俺のものになってよ。』

『なに偉そうに。ガキのくせに。』

『…あなたのものにしてください。』

『してあげてもよくて?でもこのあたしに耐えられるかしら?「普通の女」が欲しいなら今すぐ消えなさい?』

『僕は貴女がいいです。…貴女がいいです。』

『涙なんか浮かべて…。あたしが耐えられなくなるじゃない。』

『ごめんなさい…。』


『マスター、お会計お願い。』

『かしこまりました。ありがとうございます。』



『…帰るわよ。』

『はい。』



―――――――――――――――。



『翠……。』


僕は玄関にはいるやいなや首ごと壁におしつけられた。


『……』

『嬉しい?』

『嬉しい…です…。…はぁぁ!!…』


まだ部屋の中にも入ってないのに服の中に手を入れられて思い切りつねられた。


なんでもいい…翠に触れてほしかった。

翠の手で、目で、わからせてほしかった。



『………』


翠とは一年足らずで終わった。でもずっと燻っていた。どんな女といても埋まらなかった。寂しくて、虚しくて、刺激が足りなかった。



再会したあの日まではそんな苦しみを抱えていた。

でも、数年後に街ですれ違った時、僕はたまらず追いかけて、バカみたいに翠にキスした。


翠は憂いは帯びていたが笑っていた。


そこから翠が旦那に内緒で借りたマンションの一室に通うようになった。最後のあの日以外は全部玄関で終わらされた。



でもあの日は違うくて、、いつもされない粘っこいキスをされて、無言で腕を引かれ、ベットへ連れ込まれ押し倒された。



――――――――――――その日の昼頃。


テレビのニュース速報で翠が旦那を旦那と住むマンションから突き落として自身も落ちたと流れた。



―――――――――それから2年後。


僕が初めて出会ったBARに行くと、翠がいた。


そこからまた始まった。





―――――――――――――――それからまた数年。







―――――――――――――――ビル地下2階。



『…ったく、ほんとにあんたは手がかかるんだから。』

『来なくていいのに』

『あたしくらいしか対処出来ないでしょ?…ほら、腕出して。』

『痛い!…』

『男なんだからグジグジしない。痛いものは痛いの。血止めてあげてんだから文句言わない』

『……ねぇ、翠』

『ん?なに。』

『俺、翠のこと、大好きだよ』

『…わかってるから来てんでしょ。あたしもそうだからきてんの。』

『誰かと飲んでたの?』


その日翠は、ドレスに大人しそうなポーチを肩からかけていた。


「そんな誘い暫くないわよ。友達の結婚式。」

「抜けてきたの??」

「咲に呼ばれて抜け出した。」

「ごめん…そんな大事な時に。」

「…いいの。あたしは、どんな事よりあんたが大事。あんたより大事なものなんてないの。」


そう言って翠は僕を包み込んでおでこにキスしてくれた。


―――――――――――――――――――――。


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正と悪# 海星 @Kaisei123

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