第10話 正と悪

―――――――――管理者室



『博士。』

『やっぱり気持ちわりぃ。お前からそうやって言われるの。』

『でも偉いのは事実で。』

『偉くもねーよ。エロくはあるがな。』


と下品に笑う。


『やっぱり普通のおっさんだ。』

『そうだよ。普通のおっさんだ。』


『翠みたいなAI作れないかな。』

『やめとけ。あれはあれで面白いだろ。』

『毎日惚れてる。』

『だろ?』

『うん。』

『お前にとって一番の相手なんじゃないか?』


『でもさ、本来の世界に返してあげたいとも思う。おっさんならわかるよな?』

『まぁな。わからんわけではない。』

『……おっさん。できるか?』

『できるけどお前はどーすんのよ。』


『……瑠花人形をください。』

『俺はあいつのオヤジか?』

『みたいなもんだろ。本物はもう居ない。』

『……気付いてたのか?』

『気付いてた。』


『いつから。』

『戻ってきた時から。もう中身なんてなかった。』

『お前は騙せねーな。』

『…それか作ってくれないかな?オーダーメイドの相手。ちっちゃくて可愛くて守りたくなるようなやつ。』


『となると翠はもういいな?』

『…良くわないけど。』

『じゃあやめとけ。俺もそんなに暇じゃない。』


『おっさん』

『あぁ?』

『一人の男として聞かせてよ』

『……なに。』


構えていないことを言ってきたので少し驚いてでも、どこか嬉しそうに遮光の眼鏡を下がってもいないのにあげる動きをした。

普通のやつなんだなってちょっと可愛いなとも思った。


『博士さぁ、普通の女もいたことあるでしょ?』

『そりゃな。』

『ぶっちゃけ、ぶっちゃけだよ。俺好みの小さくてギツギツに締め付けながら俺の上でイクような女いると思う?』

『…そうだなぁ。決して小さくは無いし、締りはやったことねぇからしらねぇけど、翠はいいと思うな。お前と一番合ってると思う。』


『……今まであった中で一番いい女。』

『そう思うなら間違ってないんじゃないか?』


『…やりたくなってきたな。』

『節操のないやつだな。』


『おっさんやるか?』

『いい!男に興味無い!』

『おー。あれか、初めてのお誘いか?』

『なめてんのか!』

『いや、シンプルに可愛いなって。』


僕は面白くてずっと笑ってるのに対し何故か照れながらそれを隠そうとしてる博士がまた可愛かった。



―――――――――――――――。


「翠。」

「うん?なに?」


翠は僕の部屋にいた。


「寝てたのか?」


僕のベットで横になる翠の隣に座った。


「色々思い出してた。」

「昔のこと?」

「そう。…殴りたければどうぞ?覚悟は出来てる。」



が恋しいか?」

どこか僕は冷静だった。


「昔の男よ。」

「……。」

「今は…この先は…この寂しがりでヤキモチ妬きの可愛い男を隣に置くの。」


翠は起き上がって僕に包まれた。


「俺、ずっと一緒に居た。お前と離れてた時もずっとずっと一緒にいた。お前が旦那やった時も俺はずっとずっとそばに居た。お前と生きてた。俺は17(歳)の頃からずっとお前といた。…ずっとお前から貰った痛みとか息苦しさとかが頭から離れねぇの。それが欲しくて欲しくてたまんねぇの。それがずっとなの。あわよくば俺だけにそれを欲しいの。俺だけに欲しい。お前の全部刻んで欲しい。」


「……」

「重いか?さすがに。」


翠は僕の目をじっと見た。


「私、仕方なくアイツといたの。好きだった時はほんの何日か。あとはずっと苦しかった。何か気に食わなかったらすぐ手上げられてた。最後の最後で『もう会えない』と思ってたあんたと会ったのが良かった。もう一回、『こいつとやり直したい』って思ったの。私求めて来てくれてるのもわかってた。私もあんたを待ってた。だから、あいつを殺す前の日にあんたにやらせたの。その後…あいつ殺して死のうと思ってたから。でも、死ねなかった。本当はね。落ちてく中で思ったの…『あんたに会いたい』って。もう一回『あんたのあの顔みたい』って。私ね、私もね、ずっとあんたでいっぱいだった。咲といても構わないって思った。なんだろな…。ひとひとり殺したら何かがおかしくなっちゃって、咲がいてもいいって。私を求めてくれるあんたがいればいいって思った。取るとか取らないそんなんじゃなくて…」


「俺はずっとお前を求めてた。この体と脳内全部に刻み込まれてた。…この手が欲しい。思い切り締め付けて出なくなるまで搾り取って欲しい。なんなら入れなくてもいいよ。勝手に出してるから。そんな情けない俺見ててよ。俺見てあざ笑ってよ。どっか途中で『愛してる』って囁いてくれればもうそれだけで幸せだからさ。ってかもう今も幸せ。翠が居たらずっと幸せ。…………お願い…翠…もっと…して?…」



翠は涙を浮かべながら僕の首に爪を立ててずっと僕の目を見てくれていた。


「いいよ。見ててあげる。」

「あぁっ!!……翠!!……もっと爪ちょうだい!!…噛んで!!……」

「そう。それでこそあんた。」



―――――――――――――――『愛してる』


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