4.その後。爛れた関係と、夕日の彼女。





数週間後。





「なあ、霧崎…。


授業中に、俺の腰の上に座るのはやめないか…?」



いつもの学校の教室。


俺は、自分の腰の上に座る霧崎に、小声で話しかけた。



「……ユーリ」


霧崎は、プイと顔を背けて、自分の名前だけを俺に告げた。


今の霧崎は、俺と向かい合って俺の腰に座っている状態だ。


授業中にそんなことをしていたら、周囲のクラスメイトが冷やかしたり、先生にどやされるのが普通だろうが、誰一人として、俺達の方を見るものはいない。



今の俺と霧崎を取り巻く状況は、普通ではないからだ。



「霧崎…聞いてるのか?」


「ユーリ!」


霧崎は不満そうに、俺に抗議した。


「ユーリって呼んでくれるまで、言うこと聞かないから。


ボクはキミの、彼女なんだよ?」



「……ったく、分かったよ。


…ユーリ」



「うん♡

ボクはキミだけのユーリだよ♡」



霧崎は嬉しそうに返事した。


それと同時に、足を俺の腰に絡ませてくる。


見た目は男装をしているが、顔は完全に彼女面だ。



真っ昼間の教室なのに、霧崎はイチャつくことしか考えていない。


俺は溜息をつき、周囲の様子を確認した。


教室のクラスメイトは、まるで俺達がそこに存在していないかのように授業に集中している。



その状況から分かるように、俺と霧崎は、この学校の関係者から認識されていない。


もちろん俺達が透明人間になったわけではなくて、霧崎の能力によって、まわりのみんなは俺達の言動に反応しないようになっているのだ。



「あ、まだ霧崎って呼んでるぅ〜!」


霧崎が、めんどくさい彼女みたいな絡み方をしてくる。


いや、確かに彼女なのだが…彼女ではあるのだが。



「いや、いまユーリって呼んだだろ…?」


「ちーがーぅー!


言葉ではユーリって言ってるけど、心の中では霧崎のままでしょ?」



何だよこいつ。


俺の心でも読んだ気になっているのか?


確かに霧崎なら………いや、これから先はユーリとして心の中で呼ぶことにしよう、うん。


いちいちめんどくさいし。




ユーリなら、俺の心をある程度察してくるとしてもおかしくはない。


それならそうで、俺が嫌がることはやらないでほしいのだが。



「それはムリかもね。


キミが魅力的すぎるせいで、ボクはキミの全てを堪能したくなっちゃうから、我慢できないことだらけだよ」



俺の心の中の言葉に語りかけてくるユーリ。


まじで、他人の考えている事を読み取っているのか?


こいつ、どんどんヤバい力を手に入れているのでは?



「いやいや、そんな特殊な力を得たわけじゃないよ。



ボクはキミのことをずっと見ているからね。


キミの表情を見るだけで、キミがだいたい何を考えているか分かるんだよ。



特に最近は、キミとの距離がずいぶんと近くなったから、前よりもはるかにキミの心が分かるようになったんだ」



だからといって、俺が何も話していないのに、先回りして俺の心を先読みするのはやめてほしい。



「仕方ないじゃないか。


ボクの愛の前では、言葉なんて余計なモノがなくても、通じ合うことができるんだから」



通じ合うも何も、俺はお前の心が全くわからないんだが…。


「それはキミの愛が足りないからだよ。


キミがもっとボクに溺れてくれたら、キミも同じようにボクの心が分かるようになるはずだよ」


ユーリは自信満々に言う。


俺がユーリに溺れるとか、そんな事ありえないだろ。



「ホントかなあ…。


昨日だって、キミ。


息も絶え絶えのボクが、クタクタになってベッドに倒れてからも、ものすごい興奮して、キミの体重でボクを押し潰さんばかりに犯してくれたじゃないか。



いやー、あれは流石にボクも興奮したよ。


キミがあれだけボクに夢中になってくれたら、ボクも嬉しいからね。


ほんと、ベッドの上だと、キミは本当に素直なんだよね〜♡」


「うぐっ…。


そ、それは……その……」



俺は本当にどうかしている。




ユーリの部屋に初めて閉じ込められた日。


俺とユーリは、2人の男女として、初めてお互いの身体を求め合った。


その日から俺とユーリは、毎日盛って交わっている。


…お互いの家に限らず、学校の中でも。




最初は完全にユーリの部屋に監禁されて、一生をユーリと交わって行くのかと絶望していたのだが、ユーリは俺に、これまでとあまり変わらず学校に通う生活を許可してくれた。


予想していたよりもユーリが束縛してこないと思って最初はホッとしたのだが、ユーリの真意は違った。



「そうそう、ボクとキミで、制服を着てイチャイチャできるからだよね〜♡


しかも、ボクの力のおかげで、みんながいるところでも、たくさん声を出して、ボクらの愛を見せつけることもできるし♡」



ユーリが、俺の思考に言葉を挟む。


しかも、ドギツイ変態プレイの実態を、嬉々として語ってくる。



ほんとに逃げ場がないな。



「お、おいユーリ。


そういう言い方はやめろ」


「なんで?


ボクは事実を言っただけだけど?


それに、ボクの身体をケダモノみたいに貪って、人前でも構わずに犯すのが大好きなくせに。



昨日のキミは、ホント凄かったよ?


何回ヤっても、全然ボクの身体を離そうとしなくて。


ボクの首に噛みついて、ボクの腰をガッチリ掴んで、ボクが百回死んでも犯すのを止めてくれないんじゃないかと思ったくらいだよ」



「そ……それは……」


否定できない。


やったことを振り返れば、全くユーリの言う通りだ。



俺はユーリの身体を知ってから、ユーリの存在に飢え、肉欲に溺れてしまっている。


なぜかは俺にも分からないが、ユーリに誘惑されると、俺は正気ではいられなくなるのだ。



「あはは♡


そんな罪悪感に満ちた顔をしなくてもいいんだよ。


キミがボクを愛してくれている事は知ってるから、好きにボクを壊してくれても構わないんだから」



ユーリは優しく俺に微笑みかける。


その笑顔は、この世のどんな女よりも美しかった。


「……」


俺は何も言い返せない。



「ふふ、ボクのこと、好きになってきた?」



「……う、うるさい」



「あはは、素直じゃないなあ。


まあでも、ボクとキミはもう夫婦も同然の仲になったんだし、焦る必要はないからね。


これから先もたくさん愛し合って、結婚して、子供も作って、幸せになろうね!」



ユーリは蕩けた顔で俺に顔を近づける。


ここが教室だというのにも全くお構いなく、俺の唇にキスをした。




「ん……♡」



そしてそのまま舌を絡ませてくる。


俺は抵抗せず、ユーリに身を委ねた。




そして教室での公開プレイが始まったのだ。




ーーーーーー



放課後。


形だけ授業を受けて、いつもベタベタと密着してくるユーリの誘惑に耐えきれなくなり、そのまま致してしまう流れを何度も繰り返したあと。




俺とユーリは学校の屋上にいた。




もはや放課後とか、授業の時間、という世の中の生活リズムが、俺達の生活に意味をなしているかといえば、疑問が残るが。



ユーリは、屋上の柵の上に座る。


俺はその隣で、夕日に染まる空と街を眺めていた。




「……綺麗だね」


「……ああ」



確かに綺麗だ。


学校の屋上から見た景色は、とても美しいものだった。




思えば、俺はこんなにゆっくりと夕日を見なくなって、久しい気がした。


今はこんな爛れた生活を送っているが、もともと俺はずっと勉強に部活、そして女の子にモテるために、毎日必死に生活していた。


その中でもモテるための努力は、ユーリの存在によって、完全に無駄に終わったのだが。




だが、そもそも俺が毎日を追われるように過ごすようになったのは、いつからだろう?


努力して、何を手に入れようとしていたのだろう?


誰のために、あそこまで必死になっていたんだろう?


なにか、俺は大事なことを忘れているんじゃないか?





そんなことを考えていると、不意に穏やかな風が吹く。




ユーリの髪が、風に吹かれてなびいている。


ユーリの顔が、夕日に照らされて、もともとの美しさがさらに神秘的に、綺麗に写る。




俺は、遠い昔のどこかで、その横顔をみた気がした。



「なあ、ユーリ」



気がつけば、ユーリに話しかけていた。


するとユーリは、俺の方を向いて、俺の言葉の続きを待ってくれた。




「…俺のこと、どうして名前で呼ばないんだ?」



「………」



俺は、ユーリにそう尋ねた。


未だ残る違和感。



ユーリは、あれだけ俺のことを好きなアピールをするのに、恋人になった今も「坂本くん」と呼んでくる。


ユーリの性格や思考を考慮すれば、真っ先に俺を名前呼びするのが自然だ。


いつものユーリを想像するなら、俺に性別を明かす以前からベタベタと俺を名前で呼んで、特別感を演出しようとするはずなのに。



それが俺には、ずっと気になっていた。



「……前から気になってたんだよ。


なんで俺のことを、名前で呼ばないんだって。


ユーリなら、喜んで俺のことを名前で呼んできそうなのに」



「……名前で呼んでほしいの?」



ユーリは首を少し傾けて、俺に質問を返す。



「いや、そういうわけじゃないが……」



俺は歯切れの悪い返事をする。



どうしても名前を呼ばれたいというほどではない。


だが、違和感の正体に、少しでも近づきたいという思いはある。



ユーリと接してから、俺はうまく言葉に表せない違和感に囲まれている気がした。


複数の違和感がぼやけて存在するが、そのどれもが繋がっているような予感だけはするのだ。




そんな俺の気持ちを汲んでか、ユーリは俺に声をかけた。



「いまは、ないしょ。



ボクから教えるんじゃなくて、キミ自身で気づいてほしいから。



でも、焦らなくていい。



ボクたちは同じ学友であり、恋人でもあり、家族でもあり、夫婦でもあり、将来的には親子にだってなるような特別な関係だ。


時間はたっぷりある。


ボクと一緒に過ごして、愛し合う中で、少しずつ思い出してくれたらいいんだよ」



「そうか……」



ユーリはそれ以上何も語らず、ただ微笑んでいた。


微笑んではいるものの、その顔には、どこかに寂しさが見え隠れした。




俺は、そんなユーリに少しずつ、心の底から惹かれ始めていた。




初めてユーリに襲われた時は、化け物としか思えなかった。


付き合うことになってからも、純粋な好意というよりは、身体の奥底から湧いてくる肉欲の衝動に任せ、ユーリの身体を貪り続けていた。



だが俺の中で、だんだんとユーリの事を一人の人間として、一人の恋人として考えるようになりだしている。


ユーリが俺に抱いている愛情と比べると、まだ俺の芽生えたばかりの愛情は、ユーリのそれには遠く及ばないだろう。



それでも、俺はユーリをもっと知りたいと、思うようになった。



「なあ、ユーリ」


「……なに?」



ユーリは優しく微笑む。


そこには、俺の全てを当たり前のように受け入れてくれる、一人の少女がいた。



「これから、よろしく頼む」


「うん」



ユーリは、心から嬉しそうに笑った。



その言葉を、ずっと待っていたかのように。




ユーリは柵から降りて、俺の肩に頭を寄せる。


沈みゆく夕日が街を照らし、俺とユーリを赤く染める。




会話はない。




俺達は、ゆっくりと沈む夕日を、共に眺めていた。















======

あとがき・解説


4話。

これでいったんこのシリーズは終わりです。


爛れた公開変態プレイに浸かった日々。

主人公である坂本くんの倫理観は、ユーリに壊されてしまったようです。



数週間の間に、坂本くんとユーリの身体は数えきれないほどに交わりました。



しかし、二人の関係が本当の恋人になるのは、まだまだ時間がかかるようです。

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イケメンが女を寝取ってくると思ったら、俺にヤバいくらい執着していた女だった話 やまなみ @yamanami_yandere

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