キックボクシングばなし「団体対立に決着がついた後の観戦者人生」

釣ール

へだたり

『お前は引っ込み思案なんだから。』


『里中ちゃんってさあ』


『まだそんなことしてるの?』


 な ん か しゃ べ っ て よ


「はあっ!」


 午前七時、起床。

 また幼い頃の夢。

 もっと言えば社会人初期まで言われていたことの悪夢。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 いままではこの悪夢が自分だけのものだと思っていた。

 格闘技を観てから。

 キックボクシングでリングに経つ男性ファイター、女性ファイターを知ってからこの苦しみは自分だけのものではなく、そして優劣ゆうれつがあるものではないと知ることで悪夢のつらさもへらせる。


 里中満智子さとなかみちこ

 この生きづらい社会を生かされている、一人の女性は今日も仕事へと出かけていく。



◇ ◇



 電車に揺られ仕事場へ。

 今日も職場で話題になるのは仕事以外だと生活の話やインターネットで流行っていること。


 格闘技の話は少ない。それどころかスポーツの話もメジャーな選手の話が男性社員から少し聞く程度。


 せめてボクシングの話題で盛り上がっていて欲しいと里中さとなかは考えてしまうほど自分の中の好みと実際の現実は職場だけしか知らないとはいえ違いすぎる。


 要因よういんならある程度であれば仮説は立てられる。


・テレビ離れ

・好みのかたよ

・時代

・局や政治的なものによる意向いこう



 アイドル趣味はないから分からないが格闘技のお家騒動とアイドル関係のお家騒動による世界や世間の巻き込み方は少しだけSNSのアカウントに流れる書き込みだけでも反応が全然違う。


 今の時代では突出した話題が少ない。

 ファンが突出しているインターネットではそのファンの影響力がコンテンツの影響力になってしまう。


 人が生み出す影響力は人の手を離れたコンテンツよりも作った人間かたずさわる人間の影響力によって話題は変わる。


 いまや誰もが良くも悪くもマスメディアなのだ。

 癒しよりも傷を多く作る人による気分が良いものではない影響力。


 会話が苦手な里中にとっては仕事はやりやすいがつまらない。


 インターネットだけでなく、格闘技がもつ大きな影響力を受け取り手が人間であるのなら大小だいしょう違えど話したくなるようなものなのだが。


 最近流行りのドラマで女性の一人活動が押されているが遅すぎる。

 もう一人で何でもやっているのだ。


 そこで好きになった格闘技。


「そういえば…」


 里中はキックボクシングにハマり続けて五年になるが団体の乱立について調べていたことを思い出した。


 日本により発祥はっしょうされたマイナースポーツであるからかMMA・総合格闘技のように海外でトップの団体がないからそれぞれの団体による王者がトップとして団体を背負っており、二〇一〇年で消えてしまった格闘技のファンと新規のファンが入り乱れ、更にSNSの発達によりアンダーグラウンドな格闘技の衝撃が海外も含めて物事を複雑化させている。

 のかもしれない。


 これは格闘技に限った事ではないのだがその後の時制じせいによって他コンテンツでは許されていることも格闘技では異質な目立ち方が競技面や技術の良さではなく選手やファンの悪目立ちでここまで来てしまっていることをいまは降りた古参のファンと熱くカフェで語ったことやインターネットを使って感想を楽しんでいた時に経験していくことになる。


 逆に言えばこれだけ巻き込んでもインフルエンサーが権威けんいとして好かれる時代がまだ続いているからか、発信が苦手な人間とそうでない人間とでわかれてしまい、地上波に関わる人間による誰にでもある醜い欲望が絡みいまや人が人を信用するには困難こんなんな時代であるからこそリングで戦う格闘家達の残酷なドラマであり現実が評価されていても里中の職場ですら浸透しんとうしないことに仕事をこなしながらも黙って頭の中にいる里中が崩れ落ちた。


 SNSのエコーチェンバー化による過激なファン達やそれをおおる選手に経済の崩壊と人間ゆえの分かり合うことが難しい生きづらさが要らない願いを応援するつもりが押し付けてしまっている姿に里中もやってしまったことが過去にあるからか嫌気がさしている。



「さあ、帰ろう。」



 帰ったところで襲ってくる不信感ふしんかん罪悪感ざいあくかんは変わらない。

 それでも応援しているキックボクシング団体のグッズと次の会場へ向かうチケット買うためが生き甲斐がいでつまらない労働も続けていける。


 ペイパービューや限定配信でもう一度試合を観戦し、選手達から活力かつりょくをいただきながら。



◇ ◇



 二〇二四年ですっかり格闘技界も私も変わったなあ。


 里中は他の趣味ではあまり気にしていないことも格闘技に関してはずいぶんと色めがねがかかってしまっていることに気がついた。


 タブレットで団体ファンの対立による長年のトップファイター達の幻想が大きな話題を読んだはずなのに当時も今も知られていないかもしれないことや知られていたとしてもうかつに語れない現状にも慣れてしまい選手達に申し訳ないとさえ勝手に考えていた。


 そこでかつての嫌な記憶を思い出した。格闘技関係では無い別の。


 日本・韓国アイドルブームの時によく話題になっていたからあまり気にしていなかった里中は周りの話題についていけず


『里中ってあんまり人間好きじゃないの?』


 と言われてそれは違うと言えず適当な返事しか出来なくて「誰かに期待する」ことや「誰かから励まされる」ことがあっても覚えていなくて当時は当時で恋愛に悩んでいたからやたら記憶に残るどうでもいい内容。


 いっそ人間嫌いだったら…でも人間嫌いな人ほど友人関係や助けてくれる仲間が多く見えて誰も信じられなくなった。


 なんだよ。

 誰も真剣に悩んだことないのかよ。


 薄っぺらい言葉やかなうわけのない理想、違いすぎる幸せに安心の仕方が黒いこと。


 せめて隠せよ!

 黙ってくれよ!

 何十年何百年どんだけお前ら馬鹿なまま肯定と否定を繰り返しているんだお前達は!


 金さえあれば…仲間さえいれば…いい暮らしやいい物が手に入ればそれでいいのかよ!


 だから誰も信用出来なかった。

 人間嫌いは信用の仕方と切り方を知っている。


 たとえそれが幸せだとしても、近道だとしてもうらやましいとは思えない。


 そう思いつめて一度は無趣味になった里中もいまや格闘技ファンの一人だ。


 そこでもいいことばかりではなかった。


 どこにでも過激なファンが長になっていてマウントを取ってくる。

 一部の選手や団体もファンを利用していてすぐに切り捨てる。


 だが!

 リングに上がる理由と乱立した団体でシンプルに勝利と栄光を求めているかもしれないファイター達は試合をしている以上、どこの誰でもない挑戦と物語がある!


 だからこそ里中も疑いを持つ自分を肯定やなぐさめ、否定とも違う認め方を知った。そしてまだまだ自分はこれからだと。


 あの時嫌った人間達とも友好関係にいまはなれなくとも嫌な時は離れる、やむを得ない時は共存するなどケースバイケースで対応することを覚えた。


 今の世界は誰も救ってくれない。

 だが過去は消さなくてもやり直していけると信じて里中は仕事や日常生活を送る。


 そしてだまされないよう、馬鹿にされないよう、マウントを取られても本来の目的や選手達を応援したい気持ちがブレないように強いおとめを目指す気持ちと弱い者としての意見を大切にしたいからと日記をつけるようにした。


 せっかくチケットも買ったし、天気も交通も整っている。

 しっかりと観戦しに行こうと一人宿をとって興行へ向かう準備をするのだった。



◇ ◇



 いまは変わっているかもしれないけれど、ボクシングキックとボクシングが昔と今とどれだけ違うのかいっそジム探して入会し、技を覚えてしまおうと決意するも格闘技に詳しそうな観客の話を又聞きしても技術を文章や話で聞いても説明がなかなか難しく、聞いてもピンとこない辺りサッカーや野球、バスケといった団体スポーツが学校で部活としてあるのはうらやましくもある。


 ってボクシングとレスリングは部活としてあるやないかーい!

 MMAや総合格闘技も人気の割に部活としてあるかと言われるとあまり聞かない。


 ムエタイも秘密の部活として漫画であっただけで正式には違うんだっけ。


 仮にキックボクシング部があればいまだに何〇〇〇〇〇で取りざたされるだけか。

 地上波は偏見ばかりだけどプロは良くも悪くもちゃんと考えられている。

 でも局や構成作家ってガチャでしかないから。


 それは別として選手達のキャラによって疲れが見える攻防と倒せそうで倒せないのに判定でオチがあれば賛否別れる会場と配信アプリのコメントらんの違いよう、別団体で別競技の選手がリングに登壇とうだんして次の対戦カードを確定させたり反則の多さやいつの間にか振り切った選手にあおりVで終盤の試に出場されている選手達の歴史を振り返って過去の良かった記憶と里中自身のプライベートでおこったことをリンクさせて涙が出たり…人に語るには短めか知らない人にも分かりやすい内容にするか決めつけないようにしないと選手達に失礼だなあ。


 感情はいつも安定せず見知ったファンと喋ることはあるもののいつも話す感想は当たりさわりなくさっさと帰ってしまう里中。


 思い出した。

 フィーチャーされてもム〇キングみたいにブームだけで終わったら昆虫専門家が集まってこないだけだったと養老孟司ようろうたけしさんがばっさり現実を書いていた本を読んだことで結局簡単に理解されるわけじゃないことを知った夢のなさを。


 せっかく宿を取ったから会場付近で面白そうな場所を観光しようと切り替えて歩いているとあれ?

 さっき試合してた選手と関係者?


 やばい。

 逃げないと。


 自然な形で人混みを逃げると誰かとぶつかり腕をつかまれる。

 フィクションならロマンチックな出会いのきっかけになると思われるがこれは確実に危ない方のトラブルだ。


 そのままなすすべなく人気のない場所へ連れてかれて恐らく男性…いや間違いなく男性が声を荒らげて女性である里中に因縁をつける。


 一人で良かったけれどこのまま貴重品を奪われたりされたら不味い。


「あなたのタイプでは確実にありません。それはそれで失礼なんですけどね。」


 と余計な一言が相手を刺激し壁に押し当てられる。


 多様性ですよ時代は!って言ってやろうとスリルを楽しみかけたがそんなことをしたら次の試合が見れないじゃないか!

 他団体の興行を観るためにいくら貯金したと思っている。


 こういう時はどう切り抜ければよいのだろうか。

 あ、試してみるか!


 里中はその場に落ちているモノを武器にかまえる。


「みんな前提がズレてますよ。3秒ルールが通じるのは自宅でもアウト。日本ははるかにマシだけれどマシなだけ。


カエルツボカビが発生し、貴重なカエルが絶滅した。


そしてSARSサーズにコロナ、トコジラミ。


私はこの場所を育った場所よりよく知っている。

今私が持っている武器をあなたが少しカスリでもしたらそこは現代医療でも治せない病原体にかかる。


私もあなたも命がけ。

性別や年齢は置いておくとして体格的に有利なのはあなた。


スポーツや金持ちの女性だったら逸材で引っ張りだこのあなたもいまだ未知の病原体があるこの武器がかすったら・・・」


 反撃させないように持てる範囲の散らかっているモノを投げながら人混みへ追い込むように前へ進む。


 クマにこんなことしたら確実に助からないが相手はクマよりも危険な人間。


 だから格闘技よりはメジャー化されている野球を調べ、野球がなぜサッカーやバスケにマウントを取られながらも愛されているのかを調べていたら相手の端末を確実につぶすコントロールでモノを投げられるようになってしまった。


 それと今人気の一応MMAルールを参考にされた1ラウンド3分格闘技興行の選手をプロファイルしていたからか里中が相手をしている男性は選手の乱闘を防ぐセキュリティ側の体格を持つ人間だと判断。


 頭を狙え、頭を狙え、頭を狙え!!!


 相手の目をみつめ視線をはなすことなく確実に小さな落し物を投げるコントロールでじわじわと距離をつめる。


 喧嘩が強いだけじゃ対人のスタミナは消耗する一方。

 経験者だった場合はガードした拳を狙ってかすらせる。

 この長いセリフを使うことになるとはね。


 言語に理解がない相手の場合はモノをぶつけて危険度を知らせる。


 手袋をされていた状態でガードされ、頭の良い相手だったら…ここで一昔前なら「理屈は俺(私)はあわないや。」と振り切ってタックルするところだったが実際は最後の最後まで予測し非力でもできることをやるしかない!


「さあ!!


端末つぶされて仲間を今は呼べないでしょう?


それならここは・・・」



 もう少し。

 もう少しで街へいける。


「火事だ!」


 周囲がこちらを振り向く。

 そこで一番汚いモノを一瞬でつかんで相手の男性へぶつけ軽く出血させた。


「この方が私を奥へつかんで金品を要求していました。証拠はここにございます。」


 警官をつかまえて報復させないように事実のみ伝え、証拠を提示ていじ

 少しだけ男性の仲間が様子をうかがっていて去っていくのを普段使わない端末で撮っていたのでなるべく安心材料を増やした。


 なるほど。

 孤独を危険視する理由はやはりこういう出来事か。


 自分でもここまで強い相手に対応できるとは思わなかった。

 あと自分より強い相手と戦うのは面白いけれど格闘技やプロレスに求めるんじゃなくてアニメやアクション映画とかで発散するのをオススメする。


 日記にはそう書こう!

 貴重なネタなので紙とボイスレコーダーで記録した。


 自宅についた時はもっと頭の中にあるこれまで積み上げてきた暴言のレパートリーぜんざいさんを叫ぼうと思ったが日本だからとはいえ、もう完璧なる勝利をおさめたのでベッドに寝転んでガッツポーツをして休むことで落ち着かせた。


 今度観戦後に選手やその関係者が目の前に現れたら動揺せずに気がつかなかったフリをしよう。


 いや、もっと大事なことがあった。


「せっかく仲良くなった別のファンと話が盛り上がれなくてもそれはそれで飲んでしまおう。」


 誘いはなるべく断らないようにしようか。

 女性同士…いや、ファン同士変に競い合うこと前提だと疑いすぎた。


 でもこれはこれでいいか。

 面白いネタを仕入れることが出来たから。


 強い相手へベストをつくし勝った瞬間のアドレナリンの放出!!


 勝ちを確信した相手からみたらさぞや危険な女性だったろう。

 これからも格闘技ファンでいよう。


 もう他団体だとか流行りとか詳しさとかそれはいい。

 好きなのだから。


 せまい世界で知っている人は極わずかな自分だけの勝利。


 気持ちだけは世界最強の里中は明日も格闘技観戦のために働くのだ!

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キックボクシングばなし「団体対立に決着がついた後の観戦者人生」 釣ール @pixixy1O

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