ヒューゴとエル

門間紅雨

第一章 農園

 窓越しの晴天に淡い緑色の火球が浮かんでいる。

 仰向けに寝転がっていたシートの上でヒューゴは上体を起こした。

 三列シートのワンボックスバン。その真ん中の席を寝床として流用している。

 眉間に長時間日光が当たっていたせいか軽い頭痛が始まっていた。本能に任せてあくびをすると手探りで頭側のドアポケットに手を伸ばした。そこにフリーザーバックに入れた自作の紙巻き煙草があるはずだった。

 電子ライターで火をつけ肺いっぱいに吸い込むと寝ぼけた頭が冴え渡るような気がした。

 ちなみにこの煙草は全然美味くない。道端に生えている雑草からなけなしの経験則と勘で少しでもマシなものを、選んで摘んで刻んで干して適当に古紙で巻いたものなのだから仕方がない。最後の供給から二年も立てば嗜好品は人気のある物から順に根こそぎかっさらわれてしまう。

 たとえば箱の外からでもメンソールの香るような角の潰れていない緑色の小箱一つで一体何日分の缶詰と替えられるだろう。湿気てないカートンなんて見つけた日に、素直にそれに火をつける奴は余程の中毒者ジャンキーか大馬鹿野郎だ。それ一つで車と銃と弾と毛布とポリタンク一杯分のきれいな水に替えてもお釣りが来る。いや、むしろ吸うことこそ最高の贅沢か。

 愚にもつかない妄想を頭の隅に追いやりヒューゴは渋い煙を吐き出した。哀れな拙作すらこれが最後の一本だった。

 今太陽はどの辺りにあるのだろう。真上だとしたら少々寝過ぎた。

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ヒューゴとエル 門間紅雨 @monmakouu

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