第6話

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……つまり、どういうことなんですか?」


 めでたく(?)仕事を終えて、帰りの舟。

 そこにはエゾスリーの私たち三人に加え、人の姿に変化したレプン・カムイさまが乗っている。

 青と黒のアイヌ衣装に身を包んだ、痩身褐色肌の美青年で、見てるだけでドキドキするほどのイケメンだ。

 山神、海神、水神。北海道の至高三神と呼ばれるほど格が高く霊力の強いこの神さまは、自分の姿かたちを自由に変化させてこの世にあらわれることができる。

 私たち下っ端のように人間や動植物の体を借りる必要もない。


「端的に言うと、密漁船を追い払うなんてのはどうでもいい話だったんだ。カムイ(神)である我々が、人間の引いた海図にいちいち合わせてやる必要なんてないからな」


 レプン・カムイさまは飄々とした顔でそう言った。

 余裕のあるところがいちいちかっこ良すぎて、私は今にもどうにかなっちゃいそう。

 実は、レプン・カムイさまについて私は誤解していた。

 他の神々から人気が高くもてはやされている存在だけど、どうせレッドなんかの上役なんだから傲慢で横暴でいけ好かない神さまなんだろうなー、なんて……。

 でも出会ってみたらマジ紳士。

 超物腰柔らかい。

 鷹揚で笑顔が素敵。

 シャチの姿も雄々しくて見ていてゾクゾクするし、人間状態でも野性味と知性を兼ね備えた完璧なお方。

 全然えらぶってなくて、すっごい気さく。

 そんなイケメンさまが続ける。


「ただ、うちのカニ坊主と摩周のお嬢さんが、少し相性が良くないらしいというのは、エゾスリーを統括している我々三神としても、いずれどうにかしないといけない、とは思っていたんだ。そこで摩周のお嬢さんや、そちらの芋神くんに海のカムイを知ってもらうデモンストレーションとして、今回の密漁船追放を俺が段取りしたんだけど……」


 その海神さまの発案を、私とレッドが喧嘩したせいで台無しにする恐れがあった、ということか……。

 あっぶないなあ。

 気の進まない仕事だと思って放棄してたら、こんな素敵な神さまとお近づきになるチャンスも棒に振ってたじゃん!

 私の直属である水神のワッカ・ワシ・カムイさまは、一言もそんなこと教えてくれなかったし!

 説明を聞いて得心した私は、レッドを見て冷やかに言った。


「てっきりレッドのやつが、私に怒鳴られた腹いせに海神さまに泣きついて、いいカッコするために美味しいところで颯爽と登場したのかと思いましたよ。もともと海の神さまたちが始末をつけてくれる段取りだったんですね。なるほど……」

「だ、誰がテメーに文句言われたからってボスに泣きついたりするかバーカ!! つか、水たまりごときがなにわめいてようが、全然、気にしねーし俺!」


 いじけて逃げ出した分際で、なに言ってるんだろうこいつ。

 でも確かに今までの仕事は内陸が舞台だったから、私自身が海に詳しくないことも含め、海の所属であるレッドのことを深く理解しようとはしていなかった。

 そんな双方の意識に距離がある現状をなんとかしようと、海神さまはわざわざ心を砕いてくださったのだ。

 ありがたすぎて足の裏を舐めさせていただきたいほどである。

 性的な動機も込みで。


「そんなわけだからさ、いろいろあると思うけど、どうか仲良く頑張ってくれよ。君たちの活躍を聞くのが、今の俺にとって一番の楽しみなんだ」


 まぶしいばかりの笑顔で、レプン・カムイさまがそうおっしゃった。


「はい、もちろんです! 不肖、この摩周ブルーめも粉骨砕身、不惜身命の心構えで、ご期待に添いたいと存じます!」


 私も自分に作ることのできる最高の笑顔で、そう答えた。

 しかしヘルメット越しなので相手には私の表情が伝わらないと、後で気づいて悲しくなった。


「……どんだけ相手を見て態度を変えてんだよこいつ」


 レッドがなにか言ってるけど気にしない。


「どうでもいいけど早く帰ってカレー鍋でも食べたい。芋団子入りで」


 イエローはいつも通りだからやっぱり気にしない。


 レプン・カムイさまと別れ、私たちは陸上へ戻った。


「さあ、一時はどうなることかと思ったけど、これからも一致団結してがんばるわよ、レッド、イエロー。しっかり気合い入れていきなさい!」


 私と向かい合った二人は、ゾンビのように棒立ちになっている。


「いや、ブルーちゃんが総合的に一番、役立たずなのは今まで散々証明されたよね」


 イエローはたまに事実を鋭く指摘するけど黙殺。

 見たくもない事実を覆い隠してうやむやにするのは得意なのだ。

 霧の摩周湖だから。


「イエロー、俺やっぱブルーのこと知れば知るほど、一緒にうまくやっていく自信がなくなるんだけどよ。気のせいだべか。うちのボス、失敗したんじゃねえかな」


 仲間たちはまだまだ心を開いてくれないけど、それも試練。

 私たちの戦いは、まだまだ始まったばかりだ!





(ご愛読ありがとうございました。エゾスリーの次なる活躍にご期待ください)



               誰がなんと言おうと完

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きたぐに戦隊えぞスリー! ~摩周湖は今日も涙の霧~ 西川 旭 @beerman0726

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