エピローグ 二年後
『北京奪還作戦』
二〇九九年、八月十五日に地球防衛戦線第八艦隊の行った作戦で、北京上空のコアは撃破された。
これを受けた各国軍は超長距離砲を開発、同様の作戦を展開。多大な犠牲を払いながらも地球に存在していた五体のコアは全てが撃破された。
これを契機に人類の反転攻勢が開始された。ユーラシア全土に展開する『フェイク』残党の掃討作戦が始まり、世界は少しずつ日常を取り戻していった。
そうして北京奪還作戦から一年後、ドイツ解放戦線第三師団によって最後の『フェイク』が討伐された。
◇ ◆ ◇
それからさらに一年後、日本国。
『睦、睦!起きてください!』
「うるさいな、、、あと五分って言ってるじゃん、、、」
『それで二十分が経過しておりますの』
人間型ロボットの『エリス』は寝転がる六道睦を揺さぶる。
「マジか!気が付かなかった!すぐに支度しないとね!」
『七瀬さんとの待ち合わせまで二時間はありますしそこまで急がなくても』
「そっか」
睦は立ち上がりエリスの用意した朝食を食べ、着替える。
「それじゃあ。行こうか、エリス」
『ですわね』
エリスはその右腕を切り離し、睦に接続する。神経接続式の自在可動義手だ。
「今日もよろしく。私の
『ええ、もちろんです』
◇ ◆ ◇
対地球外生命体戦争戦没者慰霊碑。『フェイク』被害が甚大であった日本海側の中心に位置する石川県金沢市に建造された記念公園。その中央に位置する慰霊碑である。
「隊長!エリス!お久しぶりです!」
睦の姿を見つけた七瀬が駆け寄ってくる。
「久しぶりだね。七瀬、アリサ。そしてノエル」
睦は元同僚の七瀬とその肩に乗る二人の立体映像に話しかける。
『一年ぶりっすね。隊長、エリス』
『ん。久しぶり』
七瀬の相棒であるAIRISのアリサと橘の相棒、ノエルだ。
「それじゃあ、橘のところに行こうか」
◇ ◆ ◇
巨大な慰霊碑にの周りには無数の碑があり、戦没者全員の座標が刻まれている。
その一角、第二艦隊乗員の名が刻まれた碑。
先客がいたのかそこには多くの花が供えられ、碑は綺麗に磨かれていた。
「久しぶりだね、橘。そして皆も」
五人は多くは語らず黙って花を添え、手を合わせる。
「お前達も来ていたのか」
後ろから声がかかる。加賀の元艦長、黒戸だ。
「お久しぶりです、艦長」
五人は敬礼する。
「やめてくれ、艦長の任は終わっている。今はただの黒戸だよ。そろそろ式典だな」
『そうですわね。平和記念式典まであと一時間といったところです』
エリスが答える。
「艦長、じゃなくて黒戸さんは出席するんですか?」
「ああ、そうだ。お前達は大役だろうが頑張ってくれ」
「了解です」
それじゃあ、と睦たちと黒戸は別れる。
「それにしてもさあ、こんな式典であんなことする必要があるのかねえ」
『必要なことですわよ。睦、貴方は希望の象徴なんですもの』
「そうですよ。隊長が世界を救ったと言っても過言じゃないんですから!」
そうは言ってもね、と睦は左手で頭を掻きながら呟く。
「私は結局、私怨をぶつけて殺しただけだからさ、、、ってちょっと、エリス!」
神経接続されていた右の
『貴方は私のところに約束通り帰って生きてくれたではないですか。それで十分ではありませんこと?』
「エリス、、、」
睦は顔を真っ赤にして足早に歩き出す。
「ほら、さっさと行くよ!」
『はい!』
◇ ◆ ◇
「本日、人類が『フェイク』から地球を奪還してから一年が経ちました。犠牲者と英雄たちの魂の上に平和が築かれ―――」
総理大臣がスピーチに会場中の人々が聞き入る。彼もまた日本を守った英雄で、被害者。思いの込められたスピーチに厳粛な雰囲気が流れる。
そこから数キロ離れた小松基地滑走路の上。
「嬢ちゃん、今日は戦闘じゃなくてただの式典だ。でも、、、気を付けろよ」
「ありがとうございます、津田さん。了解です!」
敬礼をして風防を閉める。
滑走路に向かうと右腕の通信機から覚えのある声の通信が入る。
『さあ、お待ちかねの記念飛行の時間だ。頼んだよ。六道一佐、七瀬一尉』
「國生提督、、、了解です!」
プロペラが回り、滑走路を深紅の零戦が動き出す。
「ねえ、エリス。
計器を確認しながら睦は呟く。
『前世紀にはブルーインパルスという曲芸飛行隊があったそうです。破壊ではなく、人々に勇気を与えるための戦闘機だったと。これは兵器ではなく希望の象徴ですわよ。零から一へ、人類が踏み出すための』
「そっか、、、ありがとね。それじゃあ行こうか、エリス」
『はい!』
睦はスロットルを入れ、操縦桿を引く。
「六道睦、エリス。『零戦聖華』発進します!」
機首が持ち上がり、零戦は大地を離れる。
零戦は再び、何度でも。その翼に希望を広げて、大空へと舞い上がる。
零式戦記 まくつ @makutuMK2
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