アイスクリーム

高黄森哉

アイスクリーム


 熱い。厚い熱波は、手元のアイスクリームを強く溶かしていった。そうか、アイスクリームは食べないと、融けてしまうのだな、と私は思った。


 アイスクリームは食べないと消えてしまう。だから、舌先で削ぐように、舐めた。そのお菓子のてっぺんはまるでスプーンで押されたかのように平らになった。


 全体の一パーセントがこれで消えたことになる。そうか、アイスクリームは食べると、消えてしまうんだな、と私は気づいた。


 ふむ。つまり、これは食べなくても、食べてもいずれは消えてしまうことになる。とすると、絶対に解ける前に食べるのが得だ。


 たらたらと体内から流出する水分は、ぽたっと落下を記録した。私もだんだんこの真っ赤な太陽光線に溶かされている気分だ。


 空は、青写真のごとく、かんと青かった。そして、雲は嘘のように白かった。原色で塗りつぶしたような背景で、しかし、憂鬱じゃない。


 また広い舌先を出して、嘘色のアイスクリームをなめる。今回は、三回も舐めた。先っぽは三角コーンの先端のように丸まっている。


 なんだか、行き止まりな感じがした。つまり、これ以上、消えるしかない袋小路である。この閉塞感、なにかに似ている。


 まさに! 夏場のアイスは、己の模型。刻々と溶けていく時間、ただ溶かしていくか、味わうか。


 味わない手はないんだって。それなのに、ただ崩れていく。それは、全て嘘色をしている。まるで白模型のように、未完成だ。


 汗がぽたぽたと落ち、涙を代弁していた。内側から苦しさが流出するたび、私は溶けている。そんなとき、どういう顔をすればいいのだろう。言葉が回る。


「ちゃんと出来ないのか。もう覚えただろう。またやった。嘘をつくなよ。もういい。やめてくれ。君だけだよ」


 私は舌先を出した。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイスクリーム 高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画