巡り立つ
夕岡 海
巡り立つ
玄関を開けると柔い風に触れ灰梅色のフィルタに気づく
低く飛ぶツバメに春を思うけどまだ冷える朝スズメは丸い
花冷えの帰り道きみが自転車を押して歩くからうぬぼれた夜
春雨に濡れたツツジのにおいで視界が透けて鮮やかになる
脳だけが瞼の裏で起きている ちゃんとしたい明日がずっと来ない
Tシャツに似合いのぬるい風が吹き夜のグレーを藍色にする
道ばたの草むらにいるカタツムリ拾って飼ってもいいんだろうか
入道雲に押しのけられた空色が世界にはみ出し全部が青い
砂漠より日射しの優しい夏の家その庭先で枯れたサボテン
空調の吹出し口から滴っている冷えた水で生きている草
あの曲を聴くと涼しくなるからさ またもう一度ライブに行こう
いちばんに美しい空 ブーダンが描いた浜辺でくつろぐカエル
くたびれた染物店の軒先の文字のふちから破れたのれん
サブスクを使いこなせていないまま一日だけの秋が終わった
猫はどこ行ってるんだろう足あとを濡れたキンモクセイが隠した
はやくはやく 冬から逃げて帰ったらつぶれたサメを抱きしめるんだ
道すがら寒すぎて買ったほうじ茶を冷え切ってから飲み干している
水滴を冷やす開かない窓の名がほんとうは何を殺すのか知る
コンクリートの橋に日が差す 欄干の影の形にまだら雪
吐く息できみのまつ毛が湿ってるもう春なんて来なくてもいい
巡り立つ 夕岡 海 @umi_yuoka
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