ノイズ
ももにく
ノイズ
「あら、秀平、お◼️よう」
僕の名前は「藤田秀平」高校二年生。
僕がこの異変に気が付いたのは、とある日の朝だった。
いつもの様に母と朝の挨拶を交わす僕、しかし、ノイズに似た耳障りな音が突如耳に響いて母の声がよく聞こえなかった。
「…母さん、今なんて言った?」
「もう、寝ぼけてるの?お◼️ようって言ったのよ」
先程と同じ様に不快なノイズ音が耳に響き、母の声が聞こえない。
日々の勉強の疲れが出ているのだろうと、その日の僕はあまりこの事について気にする事は無かった。
しかし、この異変は学校で勉強していても治ることはなく、授業中や友人と会話している最中に時々例のノイズ音が聞こえてきた。
「◼️〜い、この問題わかる奴いるか〜?」
「でさぁ…この前二組の優香がぁ…」
「◼️い◼️い‼︎そこ‼︎私語◼️禁止だぞ!!」
ノイズ音を聞くのにも少し慣れて来た頃、僕はとある事に気付いてしまった。
それは「は」が聞こえなくなっているということ、理由は分からないが「は」という言葉に対して僕の耳が反応している様子で「は」を掻き消す様にノイズ音が聞こえてくる。
新種の病気か、それとも精神病か、残念なことに、こうなってしまった理由は全く検討が付かない、繰り返されるノイズ音に頭痛がしてきて、何とか授業を乗り切り今日は早く帰ろうと考えて放課後になり荷物をまとめて教室を出る。
「明日になったら、治ってるといいな」
自室のベットで天井を見上げ、そんなことを一人呟くと、僕は深い眠りについた。
翌日の朝、カーテンを開け、新鮮な日光で目を覚ませば、うるさくなり続ける目覚まし時計を止める。
昨日の頭痛の余韻が残っているのか、ほんの少しだけ頭に違和感を感じるものの、そのまま高校の制服に着替え、リビングへと向かう。
「◼️ら、秀平、お◼️よう」
母の声と共に二回のノイズ音が鳴り、僕は冷や汗が止まらなくなる。
僕の普段と違う様子に気が付いたのか、母が駆け寄り、心配そうな表情で僕を見て、大丈夫?と声をかけてくる。
僕は今までの事を母に話し、今日は学校を休み、近くの病院で検査をしてもらうことになった。
「秀平くん、何か悩みでも◼️るのかい?」
連れて来られたのは、精神病院だった。
どうやら母は、僕の精神がおかしくなっていると考えているらしい。
原因がそうならそれでいいのだが、僕は精神を病む様な出来事には何一つ心当たりがない。
問題は昨日の「は」に続いて「あ」が聞こえなくなっているという事だ。
結局のところ、原因がハッキリしないまま30分の診断は無駄に終わり、昼頃には家に戻ってきて母に心配されながら自室に戻った。
これから自分はどうなるのだろうか、不安に胸を押し潰されそうな気持ちになりながら、いつの間にか眠ってしまった様で、次に目を覚ましたのは次の日の朝六時、いつもより早い時間だが、自室から出てリビングへと向かう。
そこには、キッチンで食器を洗っていた母の姿があった。
「秀平、た◼️ちょう◼️だ◼️じょうぶなの?」
涙が溢れてきそうな気持ちになりながら、今の症状を正直に母に伝えた。
次の日
「秀平、悩みが◼️るなら正直に◼️◼️なさ◼️ね」
次の日
「秀平、休みた◼️気持ちも分◼️るけど、勉強について◼️けなくなるわよ」
次の日
「秀平、これでもう三日目よ?勉強したくな◼️気持ちも分かるけど、今◼️頑張る時なの」
次の日
「……」
次の日
「……」
次の日
「秀平、◼️◼️かげんにしなさい」
次の日
「◼️なんか◼️◼️分かるの!!!!ただ勉強したくな◼️だけでしょう!!!このまま学校休ん◼️どうするつもりなの!?!?◼️◼️にも◼️◼️◼️!!!!!!!!」
次の日
「」
次の日
「もう勝手に◼️なさ◼️」
母はどうやら、僕が不登校になったことに相当苛立っているらしい。
勉強が嫌いな訳じゃない、日に日に聞こえるノイズの音がどんどん増えていく、僕はこれから自分がどうなるかも分からないのに、こんな不安定な最新状態で、学校などに到底行けるはずがなかった。
それから30日後
「◼️!!!◼️◼️ー!!!!◾️◼️!!!◾️!!◾️◾️◼️◼️!!!!!◼️ ◼️ー!!!◾️◼️!!!◾️◾️◾️◼️◼️!!!!ー!!!!◾️◼️◾️◾️◼️◼️!!!!!!」
母が怒り狂った様子で紙を一枚手に持ち、僕の部屋の中へと入って行く。
どうやら、高校を中退になってしまったらしい、母が何を言ってるのかよく分からないが、とにかく今までで一番激怒しているのは間違いない。
僕は母から、現実から逃れる様にして家から飛び出した、行く場所も、目的も、何も無いのに。
「◼️◼️◼️◼️◼️」
街中の人の声、いや、ノイズ音が僕の耳を壊そうとする、小さいノイズ音や大きなノイズ音、どこへ行っても鳴り止まないノイズ音。
「助けて」
涙を流しながら、道端で一人、涙を流しながらうずくまった。
僕の声に反応したのだろうか、一人の少女が僕の肩をとんとんと叩く。
見覚えのある少女だった、名前は「優香」僕の通っていた高校の同級生、話した事は一切ないが、道端で涙を流している僕を気にかけてくれたのだろうか。
彼女からは、ノイズ音がしなかった。
「手話…?」
噂には聞いていた、彼女は生まれつき耳が不自由で、言葉を発した事が無いのだと、僕の耳がおかしい事に気付いてくれた様子で、手慣れた手つきで器用に手話を披露してくれている。
もっとも、その手話の意味を理解する事は僕にはできないのだが。
それから、僕は手話を勉強した。
通信制の高校に入学し、卒業資格を取ると、耳や目が不自由な人達が学ぶ学校に入学する事になった。
手話を学んでからおよそ二年、母との関係も少しずつ改善してきており、今では僕の事を理解してくれる様になった。
それから僕は、一週間に一度、必ず優香と会うようになった。
手話の勉強という名目ではあるが、カフェや公園で何気ない会話を手話で優香とするのが僕の生き甲斐になっていった。
いつしか僕は彼女に惹かれ、彼女もまた、僕に惹かれていった。
「僕と付き合ってほしい」
僕が一番初めに覚えた手話、道端で君に声をかけられた時から僕は君に惹かれていた、僕を助けてくれた彼女に告白した。
「よろこんで」
彼女は頬を赤くしながら、器用に指を動かして僕の手話にそう答えた。
仕事を探して、家を買って、彼女と二人で静かに暮らそう。
ノイズの聞こえない所で、二人で幸せにくらそう、そしてきっと、彼女も幸せにしてみせる。
初めはこのノイズを呪った、この耳のせいで、僕の人生はメチャクチャになったと思っていた、でも今は、この耳に感謝しているくらいだ、なぜなら、彼女と出会えたのだから。
彼女と同じ布団に入り、抱き合って眠る。
そうしてまた、幸せな朝を迎えよう。
見えない。
目が見えない。
見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見え見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えな見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見え見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えな見えない見えない見えない見えない
視界にモヤがかかる
ノイズがかかったかのように。
ノイズ ももにく @momoniku2005
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