逆聖地巡礼
春雷
第1話
行ったことある場所を、映画やアニメ、小説等で眼にすることがある。その時、あ、おいらの知っている場所だ、と少し嬉しくなる。たとえばゴジラ映画なんかで、東京が破壊されているのを見て、ああ、おいらの知っている街だ、と思い、新海誠の作品で東京を見て、知っているなあと思い、シティーハンターを読んで、やっぱり東京知ってるなあと思う。
私はこの現象を逆聖地巡礼と呼んでいる。
作品を見てから、舞台となった場所に訪れるのではなく、その地を訪れたあとで、その場所を舞台にした作品を見ていく。それが逆聖地巡礼である。
そこでふと思ったのは、ある土地にフォーカスして、その土地が舞台となっている作品をずらりと並べていけば、その土地に対する人々の印象や魅力などを紐解くことができるのではないか、ということだ。
今回は弩海道の凶鮫村にフォーカスし、その土地を舞台にした作品を鑑賞し、さまざまなことを明らかにしたいと思う。
凶鮫村とは、弩海道の北西に位置する人口20人ほどの小さな村である。江戸時代においては、村でとれる海産物が美味だということが評判になり、大名や将軍がお忍びで村を訪れたということが、「凶鮫村史」に載っている。ただ、当時からそうではあったのだが、近年では特に、村の沿岸部に人喰い鮫が群れをなしていて、時々地上にまで這い上がってきて、人を食い殺す被害が相次いでいる。そのため、村の人口はゆっくりと減少して、今や過疎地域になっている。多い時には500人ほどが住んでいたということだが、そのほとんどは鮫に食われてしまったということだ。私はこの村に、一度だけ訪れたことがある。
凶鮫村を舞台にした作品は、数多く存在している。
たとえば、映画「凶鮫村ジョーズ」は、サメが人々を食っていくパニックホラー映画だが、凶鮫村の住人が全面的に協力しており、サメが人を食い殺すシーンはすべて、実際の映像である。村長をはじめ、総勢50名ほどがこの映画を撮影するために、サメに食われた。
また、映画「となりのサメ」では、サメと少女の心の交流が描かれるが、この映画では、凶鮫村のサメの脳内にチップを埋め込むことにより、サメの脳内の電気信号をコントロールすることによって、少女と心を通わせているような演技をさせているわけである。要するに、サメを操作しているのだ。
しかし、そのサメの操作に関しては、技術的な限界があり、実際、コントロールがうまくいかなかった時は、少女が丸呑みにされている。幸い、少女は合計38回食われたが、すべて丸呑みであったため、38回サメの腹を切り裂くことで救助された。その都度サメの腹を縫合して、撮影を続けた。
ただ、助監督だけは、きちんと咀嚼されて食われたという。
三上由香子が書いた漫画「男子よりサメ」では、複数のサメに言い寄られ、困惑する女性の繊細な心が表現されており、特に村の海岸でサメが共食いをしているシーンは、作者の三上が実際に村で見た光景を参考にしており、村の印象が強く反映されている。
非公式脱毛イズムの楽曲「凶鮫村スタンドバイユー」では、サメ側の視点から村のことを描いており、捕食者としてのサメのプライドがよく表現されている。サメからすれば、村人は捕食の対象でしかない。この歌ではそう歌われている。
一方で、テレビアニメ「サメを尋ねて二里」では、村人がサメに食われたくて、この村に住んでいるということが描写されており、サメと村人のある種、奇妙な関係性が映し出されている。
以上が、凶鮫村を舞台にした、主要な作品である。
村を逆聖地巡礼して気づいたのは、サメは恐怖の対象ではなく、むしろ村人の良い隣人であるということだ。サメがいることによって、さまざまな作品の舞台となり、村もその都度、盛り上がって、その都度、村人がサメに食われている。
「サメを尋ねて二里」のセリフにもあった通り、村人にとってはサメはある種、神聖な存在のようだ。実際のセリフを引用すると、「サメってのはよお、俺たちにとって、神様みてえなもんなんだ。サメに食われてこそ、立派な人間になれるって、そう教わってきた。サメに食われてからが、本当の人生なんだよ」と言っている。村人のサメに対する思い。それはあるいは、サメとうまく付き合うために最適化された、ある種の宗教観なのかもしれない。
逆聖地巡礼 春雷 @syunrai3333
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